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第1-2話 夢から落ちた先は、異世界でしたっ!
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『こ、来ないでぇぇっ!!』
半ベソをかきながら叫ぶ私。
すると、必死にかざした両手がぼんやりと光った。
はじめは何が起きているのか全く解らなかったんだけど……その直後、ナイフを持っていたおじさんが勢いよく倒れちゃった。
私も、もう一人のおじさんも、目の前で起こったコトが理解できずに固まっちゃった。
でもそのうち残ったおじさんが怒ったような顔で駆け出そうとしたので、私はまた同じように叫んでみた。
『こ、来ないでって言ってるでしょぉぉっ!!』
再び、私の両手が紫色に輝いた。
さっきよりも強く、ハッキリと。
すると今度は、こっちに向かって来そうだったもう一人のおじさんが倒れ込んじゃった。
この時、ようやく理解した。
これ、私がやったんだって。
何かの魔法を使ったのかもって。
おそるおそる倒れたおじさんたちの様子を見てみると、完全に意識を失っていたけど息はしているから、殺しちゃったワケじゃない。
よく見れば、いびきをかいてぐっすりと眠っている。
私は、他人を瞬時に眠らせる魔法が使えるようになっていたんだ。
魔法が使えるなんて考えてもみなかった。誰かに教えてもらったワケでもないし。
どうしてこんな魔法が使えるんだろう、私はこれからどうすればいいんだろう。
襲われずに済んだ安心感と、何が何だかもう解らない混乱で、私は地面の上で寝ているおじさんたちを見ながら再び泣き出してしまった。
怖くて、それに何故だか悔しくて涙が溢れてくる。
そんな途方に暮れていた私のもとに現れたのが、このネムちゃんだった。
『よぅっ、何だかスッゲェ威力の昏睡魔法が使われたのを感じたけど、お前がやったのか?』
最初に見た時は、私はいよいよおかしくなっちゃったのかーって思ったよ。
だって、もう完全にファンタジーなんだもん。
見た目がほとんど哺乳類のバクをデフォルメしたような謎の動物が、目の前でふよふよ浮いてんのよ。
そんなの、自分の目を疑うに決まってるでしょ。
さらにそんな哺乳類っぽいナニカが笑みを浮かべて、片手を上げながら「よぅっ」とか挨拶してんのよ。
そんなの、自分の頭を疑うに決まってるでしょ。
でもその時、ネムちゃんは私にこう言ったんだ。
『んん……? よく見たらお前、この世界の人間じゃねぇなぁ? どこから来た? 元の世界に帰らなくていいのかあ?』
その一言を聞いた私は、その場でぼろぼろと泣き始めてしまった。
突如現れたこの謎の生物は、私が他の世界……日本から来たコトを瞬時に見抜いた。
『帰らなくていいのか』なんて、心配までしてくれた。
そうだよ、私はこの世界の人間じゃない。
何でこんな訳わかんない世界に居なきゃならないんだろう。
何とか元の世界に、日本に帰れる手段を見つけ出さなきゃ。
そのためには、目の前に現れたこの宙に浮いている不思議な哺乳類っぽい何かを逃しちゃダメだ、と思った。
だって私が別の世界から来たコトを一発で見抜くような、特別な存在みたいだから。
「初めてピルタに話しかけたとき、いきなりお前がわんわん泣き出すから驚いたぜ。浮いてる俺を鷲掴みにしたかと思ったら、すげぇ力で抱きかかえられて、涙と鼻水をなすりつけられて……」
「あ、うぅ……ごめんよぅ、だってあの時は嬉しくて仕方なかったんだよぅ。ネムちゃんが私に会いに来てくれていなかったら、私は今もこの異世界でどうすればいいのか解らないまま彷徨ってたかも知れないし……」
見知らぬ異世界の街の薄暗い路地裏……出会ったばかりのネムちゃんに、私はずびずびと鼻水をすすりながら涙声で事情を説明した。
何だかよく解らないうちにこの世界に迷い込んでしまったコト。
何故か魔法が使えて、私を襲おうとしたおじさん2人が眠っちゃったコト。
所持金はおろか、いま着ている服以外何も持っていないコト。
そして、何とかして元の世界に帰りたいコト。
そこまで説明した時、もの珍しそうに聞いていたネムちゃんは軽ぅ~い口調でこう言った。
『ふ~ん。じゃあお前さ、俺の相棒になれよ。俺が力をつけるのに協力してくれたら、もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないぜ?』
『ふぇっ!?』
唐突に持ちかけられた、驚きの取引。
なんでも、このネムちゃんは様々な世界を飛び回りながら、人々の夢……とりわけ『悪夢』を食べることによって力を増していく幻獣の一種らしい。
質の高い『悪夢』のニオイを嗅ぎ分けてはその世界に飛び、眠っている人の夢を具現化して食べてるとか。
『悪夢』の食べられそうな世界を渡り歩いているらしく、私のいた日本にも行ったコトがあるんだって。
だから私がこの異世界の人間でないコトを一瞬で見抜いてくれたんだろうね。
しかし当時のネムちゃんは、なかなか『悪夢』を見る人間に出会えずこのところ困り果てていたらしい。
夜、寝ている人間が見ている夢を長い鼻で嗅ぎ分けながら悪夢を探していたらしいんだけど、なかなか成功しない。
『悪夢』のニオイがしてみたので行ってみれば、到着した頃には終わっているか、別の夢を見ているコトばっかり。
運よく『悪夢』を見ている人間に辿り着いても、食べるために具現化させたら、音が騒がしすぎて起こしちゃう。
そもそも『悪夢』を見ている人間が意外なほど少なくて、なかなか出会えない。
考えてみたら、明確に『悪夢』だって言えるほどの悪い夢を見るのって、1年でも数回くらいしかないもんね……。
私がいた日本にも長いこと居たらしいけど、日本国民はどちらかと言うと『悪夢』を見る人よりも眠りが浅すぎて夢を見ていない人か、もしくは疲れ果てて夢も見ないでとっぷり寝ちゃってる人の方が多かったんだってさ。
そんな時、運よく昏睡魔法を使える私を見つけた。
一瞬にして深い眠りへと誘う昏睡魔法ならば、夢を見るほどの深い眠りに確実に落とすコトができる。
魔法による眠りに落ちれば、しっかりと効果が続いている限り周囲が騒がしくなっても起きるコトもない。
さらに、魔法によって強制的に眠らせるコトができるなら、その気になれば皆が寝静まる夜だけでなく日中でも『悪夢』を食べられる。
となれば、あとは『悪夢』に悩んでいる人を探して昏睡魔法をかければ、ネムちゃんは効率よく『悪夢』を食べ、幻獣としてもりもり力をつけることができる!
そしていつか、私を元の世界へと帰せるくらいのパワーを得られるかもしれなーーい!
こうして私とネムちゃんは、お互いwin-winの関係を築き『悪夢祓いの聖女』と称して悪夢に悩む人々を助けていくコトにしたんだ。
依頼を受ける形式にしておけば、ネムちゃんがわざわざ毎晩のように『悪夢』を見ている人を探さずに済むし、私は依頼人のご自宅にお邪魔して昏睡魔法をかけるだけ。
さらにお金まで貰えるっていうんだから、もうサイコーよね!
「…………で? 明日はどこか依頼は入ってるのか?」
「ほぇっ? そういえば、今日だけで3件こなしちゃったから、明日の依頼は残ってないかも……」
「ありゃりゃ、そうなのか?」
「う、うん……ちょっと待ってね、手帳を確認してみるから」
そういえば、今日は日中から立て続けに依頼をこなせちゃったんだ。
午前中に1件、午後に2件。
あんまりはりきりすぎたせいで、明日の依頼が残ってないかもしれない……。
私はお尻にあるポケットから、小さな手帳を取り出した。
あまり質の良くない紙が綴じられた手帳には、日本語の文字がズラリと書かれている。
この異世界の文字もだいぶ読めるようになったけど、自分しか読まない手帳なら日本語で書いたほうが便利ってもんですし。
私が受けた『悪夢祓い』の依頼をメモしたページを開こうと、親指でぺらぺらとページを捲っていると……
「おうっ! お嬢ちゃん! カワイイねぇ……今日は一人で飲んでんのかい!?」
「ほぇっ?」
唐突にすぐ後ろから、耳慣れない声が聞こえてきた。
カワイイお嬢さん、って言った気がするから、きっと私のコトを呼んだんだろうな!
首だけをくるりと回して後ろを見ると、そこには一人のオジサンが立っていた。
「おぉっ! 間近で見ると、さらにカワイイねぇ……! どうだいお嬢ちゃん、あっちでお兄さんと一緒に飲まないかいっ!?」
赤く焼けた顔、隙間だらけの歯、ぼさぼさの髪。
手にはお酒がほとんど入っていない空の木製ジョッキ。
見るからに酔っ払いだね!
きっとどこかのテーブルで飲んでたんだろうけど、カワイイ私のコトを見つけてナンパしに来たんだろうね。
「……ピルタ、どうする? 明らかにめんどくせぇのが来たぞ」
「えー、どうするって言われてもなぁ」
話の腰を折られてため息を吐くネムちゃんに、私も唇を尖らせて答えた。
「とりあえずオジサン、お酒を一緒に飲むつもりは無いから、あっち行ってね☆」
「おいおーい! ンだよぉお嬢ちゃん、冷てぇなぁ~! そんな事言わないでさァ、ホラっ! 一人で飲むより楽しいぜぇ~!」
むぅ……きっぱり断ったつもりなんだけど、このオジサンなかなかしつこいな。
私が困ったような表情をしていると、その顔を見たネムちゃんが鼻息を吐いてから立ち上がった。
「おいオッサン、聞こえなかったか? ピルタは1人じゃなく、俺と飲んでんだ。貧乏くせえお前なんてお呼びじゃねぇとよ」
ズバッとぶった斬ってくれたネムちゃん。
うーん、最高に口が悪いけど、こういう時すんごい頼りになるね!
小さなバクみたいな見た目じゃなく、人間の男性でイケメンだったらすっごく絵になりそう。
でも、残念ながら完全に小動物な見た目のせいか、小馬鹿にされたオジサンはネムちゃんを見て激昂してしまった。
「あ、あぁ……!? 何だてめぇ、小せえナリのくせに喧嘩売ってんのかぁ!?」
あーあー、まぁネムちゃんの言い方じゃあこうなるよね。
もしかして、わざとオジサンを怒らせるために言ったのかなぁ?
うん、きっと間違いないね。
さっきからネムちゃんがにやにやしながら、横目でこっちを見てる。
あれは『やっちまえ』って目だね!
もう……仕方ないなぁ!
「あー、えっと……おじさん、ちょっといーい?」
「あぁん?」
ネムちゃんと睨み合っていたおじさんがくるりとこちらを向いた瞬間、私は右手を突き出した。
半ベソをかきながら叫ぶ私。
すると、必死にかざした両手がぼんやりと光った。
はじめは何が起きているのか全く解らなかったんだけど……その直後、ナイフを持っていたおじさんが勢いよく倒れちゃった。
私も、もう一人のおじさんも、目の前で起こったコトが理解できずに固まっちゃった。
でもそのうち残ったおじさんが怒ったような顔で駆け出そうとしたので、私はまた同じように叫んでみた。
『こ、来ないでって言ってるでしょぉぉっ!!』
再び、私の両手が紫色に輝いた。
さっきよりも強く、ハッキリと。
すると今度は、こっちに向かって来そうだったもう一人のおじさんが倒れ込んじゃった。
この時、ようやく理解した。
これ、私がやったんだって。
何かの魔法を使ったのかもって。
おそるおそる倒れたおじさんたちの様子を見てみると、完全に意識を失っていたけど息はしているから、殺しちゃったワケじゃない。
よく見れば、いびきをかいてぐっすりと眠っている。
私は、他人を瞬時に眠らせる魔法が使えるようになっていたんだ。
魔法が使えるなんて考えてもみなかった。誰かに教えてもらったワケでもないし。
どうしてこんな魔法が使えるんだろう、私はこれからどうすればいいんだろう。
襲われずに済んだ安心感と、何が何だかもう解らない混乱で、私は地面の上で寝ているおじさんたちを見ながら再び泣き出してしまった。
怖くて、それに何故だか悔しくて涙が溢れてくる。
そんな途方に暮れていた私のもとに現れたのが、このネムちゃんだった。
『よぅっ、何だかスッゲェ威力の昏睡魔法が使われたのを感じたけど、お前がやったのか?』
最初に見た時は、私はいよいよおかしくなっちゃったのかーって思ったよ。
だって、もう完全にファンタジーなんだもん。
見た目がほとんど哺乳類のバクをデフォルメしたような謎の動物が、目の前でふよふよ浮いてんのよ。
そんなの、自分の目を疑うに決まってるでしょ。
さらにそんな哺乳類っぽいナニカが笑みを浮かべて、片手を上げながら「よぅっ」とか挨拶してんのよ。
そんなの、自分の頭を疑うに決まってるでしょ。
でもその時、ネムちゃんは私にこう言ったんだ。
『んん……? よく見たらお前、この世界の人間じゃねぇなぁ? どこから来た? 元の世界に帰らなくていいのかあ?』
その一言を聞いた私は、その場でぼろぼろと泣き始めてしまった。
突如現れたこの謎の生物は、私が他の世界……日本から来たコトを瞬時に見抜いた。
『帰らなくていいのか』なんて、心配までしてくれた。
そうだよ、私はこの世界の人間じゃない。
何でこんな訳わかんない世界に居なきゃならないんだろう。
何とか元の世界に、日本に帰れる手段を見つけ出さなきゃ。
そのためには、目の前に現れたこの宙に浮いている不思議な哺乳類っぽい何かを逃しちゃダメだ、と思った。
だって私が別の世界から来たコトを一発で見抜くような、特別な存在みたいだから。
「初めてピルタに話しかけたとき、いきなりお前がわんわん泣き出すから驚いたぜ。浮いてる俺を鷲掴みにしたかと思ったら、すげぇ力で抱きかかえられて、涙と鼻水をなすりつけられて……」
「あ、うぅ……ごめんよぅ、だってあの時は嬉しくて仕方なかったんだよぅ。ネムちゃんが私に会いに来てくれていなかったら、私は今もこの異世界でどうすればいいのか解らないまま彷徨ってたかも知れないし……」
見知らぬ異世界の街の薄暗い路地裏……出会ったばかりのネムちゃんに、私はずびずびと鼻水をすすりながら涙声で事情を説明した。
何だかよく解らないうちにこの世界に迷い込んでしまったコト。
何故か魔法が使えて、私を襲おうとしたおじさん2人が眠っちゃったコト。
所持金はおろか、いま着ている服以外何も持っていないコト。
そして、何とかして元の世界に帰りたいコト。
そこまで説明した時、もの珍しそうに聞いていたネムちゃんは軽ぅ~い口調でこう言った。
『ふ~ん。じゃあお前さ、俺の相棒になれよ。俺が力をつけるのに協力してくれたら、もしかしたら元の世界に帰れるかもしれないぜ?』
『ふぇっ!?』
唐突に持ちかけられた、驚きの取引。
なんでも、このネムちゃんは様々な世界を飛び回りながら、人々の夢……とりわけ『悪夢』を食べることによって力を増していく幻獣の一種らしい。
質の高い『悪夢』のニオイを嗅ぎ分けてはその世界に飛び、眠っている人の夢を具現化して食べてるとか。
『悪夢』の食べられそうな世界を渡り歩いているらしく、私のいた日本にも行ったコトがあるんだって。
だから私がこの異世界の人間でないコトを一瞬で見抜いてくれたんだろうね。
しかし当時のネムちゃんは、なかなか『悪夢』を見る人間に出会えずこのところ困り果てていたらしい。
夜、寝ている人間が見ている夢を長い鼻で嗅ぎ分けながら悪夢を探していたらしいんだけど、なかなか成功しない。
『悪夢』のニオイがしてみたので行ってみれば、到着した頃には終わっているか、別の夢を見ているコトばっかり。
運よく『悪夢』を見ている人間に辿り着いても、食べるために具現化させたら、音が騒がしすぎて起こしちゃう。
そもそも『悪夢』を見ている人間が意外なほど少なくて、なかなか出会えない。
考えてみたら、明確に『悪夢』だって言えるほどの悪い夢を見るのって、1年でも数回くらいしかないもんね……。
私がいた日本にも長いこと居たらしいけど、日本国民はどちらかと言うと『悪夢』を見る人よりも眠りが浅すぎて夢を見ていない人か、もしくは疲れ果てて夢も見ないでとっぷり寝ちゃってる人の方が多かったんだってさ。
そんな時、運よく昏睡魔法を使える私を見つけた。
一瞬にして深い眠りへと誘う昏睡魔法ならば、夢を見るほどの深い眠りに確実に落とすコトができる。
魔法による眠りに落ちれば、しっかりと効果が続いている限り周囲が騒がしくなっても起きるコトもない。
さらに、魔法によって強制的に眠らせるコトができるなら、その気になれば皆が寝静まる夜だけでなく日中でも『悪夢』を食べられる。
となれば、あとは『悪夢』に悩んでいる人を探して昏睡魔法をかければ、ネムちゃんは効率よく『悪夢』を食べ、幻獣としてもりもり力をつけることができる!
そしていつか、私を元の世界へと帰せるくらいのパワーを得られるかもしれなーーい!
こうして私とネムちゃんは、お互いwin-winの関係を築き『悪夢祓いの聖女』と称して悪夢に悩む人々を助けていくコトにしたんだ。
依頼を受ける形式にしておけば、ネムちゃんがわざわざ毎晩のように『悪夢』を見ている人を探さずに済むし、私は依頼人のご自宅にお邪魔して昏睡魔法をかけるだけ。
さらにお金まで貰えるっていうんだから、もうサイコーよね!
「…………で? 明日はどこか依頼は入ってるのか?」
「ほぇっ? そういえば、今日だけで3件こなしちゃったから、明日の依頼は残ってないかも……」
「ありゃりゃ、そうなのか?」
「う、うん……ちょっと待ってね、手帳を確認してみるから」
そういえば、今日は日中から立て続けに依頼をこなせちゃったんだ。
午前中に1件、午後に2件。
あんまりはりきりすぎたせいで、明日の依頼が残ってないかもしれない……。
私はお尻にあるポケットから、小さな手帳を取り出した。
あまり質の良くない紙が綴じられた手帳には、日本語の文字がズラリと書かれている。
この異世界の文字もだいぶ読めるようになったけど、自分しか読まない手帳なら日本語で書いたほうが便利ってもんですし。
私が受けた『悪夢祓い』の依頼をメモしたページを開こうと、親指でぺらぺらとページを捲っていると……
「おうっ! お嬢ちゃん! カワイイねぇ……今日は一人で飲んでんのかい!?」
「ほぇっ?」
唐突にすぐ後ろから、耳慣れない声が聞こえてきた。
カワイイお嬢さん、って言った気がするから、きっと私のコトを呼んだんだろうな!
首だけをくるりと回して後ろを見ると、そこには一人のオジサンが立っていた。
「おぉっ! 間近で見ると、さらにカワイイねぇ……! どうだいお嬢ちゃん、あっちでお兄さんと一緒に飲まないかいっ!?」
赤く焼けた顔、隙間だらけの歯、ぼさぼさの髪。
手にはお酒がほとんど入っていない空の木製ジョッキ。
見るからに酔っ払いだね!
きっとどこかのテーブルで飲んでたんだろうけど、カワイイ私のコトを見つけてナンパしに来たんだろうね。
「……ピルタ、どうする? 明らかにめんどくせぇのが来たぞ」
「えー、どうするって言われてもなぁ」
話の腰を折られてため息を吐くネムちゃんに、私も唇を尖らせて答えた。
「とりあえずオジサン、お酒を一緒に飲むつもりは無いから、あっち行ってね☆」
「おいおーい! ンだよぉお嬢ちゃん、冷てぇなぁ~! そんな事言わないでさァ、ホラっ! 一人で飲むより楽しいぜぇ~!」
むぅ……きっぱり断ったつもりなんだけど、このオジサンなかなかしつこいな。
私が困ったような表情をしていると、その顔を見たネムちゃんが鼻息を吐いてから立ち上がった。
「おいオッサン、聞こえなかったか? ピルタは1人じゃなく、俺と飲んでんだ。貧乏くせえお前なんてお呼びじゃねぇとよ」
ズバッとぶった斬ってくれたネムちゃん。
うーん、最高に口が悪いけど、こういう時すんごい頼りになるね!
小さなバクみたいな見た目じゃなく、人間の男性でイケメンだったらすっごく絵になりそう。
でも、残念ながら完全に小動物な見た目のせいか、小馬鹿にされたオジサンはネムちゃんを見て激昂してしまった。
「あ、あぁ……!? 何だてめぇ、小せえナリのくせに喧嘩売ってんのかぁ!?」
あーあー、まぁネムちゃんの言い方じゃあこうなるよね。
もしかして、わざとオジサンを怒らせるために言ったのかなぁ?
うん、きっと間違いないね。
さっきからネムちゃんがにやにやしながら、横目でこっちを見てる。
あれは『やっちまえ』って目だね!
もう……仕方ないなぁ!
「あー、えっと……おじさん、ちょっといーい?」
「あぁん?」
ネムちゃんと睨み合っていたおじさんがくるりとこちらを向いた瞬間、私は右手を突き出した。
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