アルトリアの花

マリネ

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「わた…し?」
こくんと、ソウンディックは頷いた。
少し夢うつつなままで聞いていた話が、一気に眠気を飛ばす。手を握られ暖かなままなのに、背筋に冷ややかなものを感じた。

ココン。
扉を軽く叩く音がする。
「ああ、ギルデガンドとアルベルトが戻ったみたいだな。立てる?」
ソウンディックは、すっと立ち上がり、ベッドから出るのに手を貸してくれる。
重厚そうな扉が開くと、のっしのっしと音が聞こえてきそうな巨体を左右に揺らして歩くギルデガンドに続き、ティーセットのカートを押したアルベルトも入ってきた。
「ビックリさせたな、お嬢さん。ほら、こっちのソファーに座るといい。」
ギルデガンドは部屋の中心に位置するソファーを豪快に叩くと、自分はその向かいに腰かける。
レティは手を引くソウンディックを見上げるが、座って。と促された。
ギルデガンドが座ると小さく見えたソファーも、自分が腰かけるとやけに大きく感じてしまう。
居心地の悪さに、端の方へと、もぞもぞと移動すると、小さな背中をますます小さく丸めてしまった。
「お待たせしたね。込み入った話になるから、メイドは呼ばなかった。俺の給仕で我慢してくれ。」
そう言うと、アルベルトは慣れた手付きでティーセットを目の前に差し出した。 
花のような香りがふわりと漂う。
改めてアルベルトを眺めると、深緑の短髪に日に焼けた素肌、軍服の上からも分かる引き締まった体躯、それでいてどことなく愛嬌がある。
ソウンディックとは違った魅力を持った青年だった。
「アルトリアのハーブティー。オリジナルブレンドだけど、結構自信作。」
ニカッと八重歯を見せて笑う姿に、こちらもつられて微笑む。
「ありがとう。」
「!」
隣に座ろうとしていたソウンディックが、こちらを見て息を飲むのが分かった。
「レティ、私にも…。いや、何でもない。」
アルベルトだから仕方ないと、小声で呟くのが聞こえた気がした。

「さて、お嬢さん。私の事は分かるかな?」
「はい、ギルデガンド様。」
促されるままハーブティーに手を伸ばし、ほっと一息つく。
香りのわりに味わいは優しく、体に染み込むようだ。
「レティには、私の事とリュクスの事は少し話した。」
「あー、本当に簡単にしか話してないんじゃないか?」
満足げなソウンディックを、アルベルトは呆れ顔で指摘する。
「ソウンディック様は何事も急ぎ過ぎる。お嬢さん、ここでの話は口外出来るものではない。どんな振る舞いも不問にすると誓おう。その上で話がしたいが良いかな?」
ギルデガンドは、その見た目とは裏腹に繊細なのかもしれない。
しっかりとレティに向き合いながら、言葉を選んでいる。
貴族や平民の格差はあるものの、昔に比べれば言動が罪に問われる事は少なくなったと聞く。
それでも、先ほどのソウンディックの話からも分かったが、この場にいる人達は平民の立場であるレティが気軽に声をかけて良い立場の人達ではなかった。
それを無視してでもレティと話がしたいのだと、ギルデガンドは真摯に伝えていた。
「まずは、そうだな。お嬢さんの事を聞いてみたい。アルトリアの民で間違いないかな?」
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