アルトリアの花

マリネ

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「レティ!」

扉を開けると目の前には、今にも部屋に一歩踏み出そうとしていたソウンディックがいた。

「ソウ様。」
「体調はどうだろう。良く眠れた?」

きっと、昨夜顔を合わせ辛い形で部屋に引きこもったのを心配して、待っていたんだろうな。
心底ほっとした笑顔を見せるソウンディックに、そんな事を思ってしまう。

「はい。もう大丈夫です。」
「良かった。騒々しくて安心出来なかったんじゃかいかと、心配してたんだ。」
「お忙しくて、お疲れではありませんか?」

レティシアは部屋で落ち込んでいたものの、身体は休める時間はしっかりあった。
けれど、隊を編成しなければならないソウンディックやギルデガンドは、ゆっくりする時間など取れなかったはずだ。

「大丈夫だよ。慣れてるからね。」

確かに、そう言った顔付きからは疲れは感じられない。
そっと差し出された手に、掌を重ねる。

「とはいえ、慌ただしくはあるんだ。朝食を終えたら、すぐに森へ行くからね。ぜひレティシアと朝食は一緒にと思ったんだ。」
「ソウ様も向かうのですか?」
「ギルデガンドだけに任せてはおけないからね。」

エデルの話の整合性を確かめるだけなら、騎士たち先発隊に任せるものだと、勝手に思っていた。
ギルデガンドやソウンディックが忙しくしているのは、指揮を采るだけで、その後はいつもの通りだと。

「何があるか確認するだけだから、すぐに帰ってくるよ。レティシアはこのまま、邸で過ごしてくれてれば良いから。あ、時間があれば、シュタインの様子でも見てくれると嬉しいかな。」
「シュタイン様は邸にいらっしゃるのですか?」
「うん。今日の午後にはシュタインが置いてきた護衛団が到着するはずだから、出迎えてくれると助かるよ。加護を使って、勝手に一人で来たみたいだから、護衛団はさぞかし慌ててるだろうしね。」

国の一端を担うことになる重要人物が、行き先も告げずにいつの間にか居なくなっていたら、護衛の人々はさぞかし驚いただろう。
慌てふためいている姿を想像して、知らない人達ではあるが同情してしまう。

「分かりました。お出迎えの任、お引き受けいたします。」
「そんなに畏まることもないよ。」

お役目に意気込んでいるのがバレバレだったのか、ソウンディックは吹き出してしまった。

「シュタインが護衛を振り切って飛び出すのは、いつもの事だからね。皆慣れてはいるものの、大事があってはならないから…、一応ね。」

いつもヒヤヒヤさせられてるのか…ソウンディックといいシュタインといい、この国の王族はなんて身軽に立ち回るのか。
護衛の方々には、同情を通り越して親近感さえ感じてしまう。

「お任せ下さい。」

畏まりはしないものの、しっかりおもてなししたい。
そんな気持ちになってしまった。
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