アルトリアの花

マリネ

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いつもより早いペースで朝食を切り上げると、すぐにギルデガンドの出立の時がやってきた。
邸の前に集められた騎士団の面々は、普段の練習の時に出会う笑顔はなく、凛々しく引き締まった表情をしている。
演習場に行った時には、笑顔で出迎えてくれる見知った面々も、今日は鬼気迫るものを感じるくらいだ。
遅れて立つと言うソウンディックとともに邸を背にして、ギルデガンドと向き合う。
そっと、ギルデガンドの大きな手が頭の上に置かれた。

「お義父様?」

不思議に思って見上げたが、優しげな笑みを返された。
幼い頃にエデルが兄として、たまにしてくれた慈しみとも違うけれど、その手には不器用で無骨だけど優しみを感じる。

「こんなに慌ただしく離れるつもりはなかったのだが。すまないな。」
「いえ。お気になさらず、お気をつけて下さい。」

義理の娘としてから、ほんのわずかな時間だったにも関わらず、負担に思わず受け入れてくれた事が嬉しかった。
まだまだこれから、少しずつでもお互いの距離を縮めていきたい。

「私達も共にいるし、アルトリアの騎士団は先鋭だ。心配はいらないよ。」
「そうだな。少し感傷的になってしまった。」

側にソウンディックが居るのを忘れたわけでもないだろうに、恥ずかしそうに鼻先で笑うと、耳まで赤くなっているのが良く分かる。

「無事のお帰りをお祈りしておりますわ。」

自分に出来るのはそれくらいしかない。
寂しさを見せれば、ギルデガンドどころかソウンディックは行くのさえ躊躇ってしまうだろう。

「すぐに戻る」

頷きながら、手に持った甲を被ると騎士団へと向き合った。

「行くぞ。」

一言だけにも関わらず、騎士団はザッと居住まいを正す。
一矢乱れぬその姿は、先鋭と呼ぶにふさわしいだろう。
早速と愛馬に跨るギルデガンドの姿は、今ほどまで真っ赤に頬を染めていたのと同じ人には思えないくらいだ。
ザッザッと、砂煙を上げて進む騎士団と、振り返らずに進むギルデガンドの姿を、門から見えなくなるまで無言のまま見送った。
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