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消えた友人
伍
しおりを挟む――なにも、ない。
飛び交う笑い声も、先生の怒鳴り声も、人が走り回る足音も。
誰もいない学校とは、こんなにも淋しいものだったのだろうか。
……佐竹は、昨日こんな所を歩いたんだ。
一人で。暗闇を。
「……っ」
その事実にひどく恐怖した。堪らない孤独感に襲われているような気持ちになった。
――と、
そんなフィルター越しの静寂のような光景に、あまりにも不自然な異物が映る。
……あれは、
「ビデオ……?」
すでに完成していた絵に、無理矢理ポイントを混ぜ込んだかのような違和感を醸し出しながら、ビデオカメラがポツリと捨て置かれている。
佐竹の物とみて間違いないだろう。彼は昨日、撮影しながら進める、なんて豪語していた筈だ。まさか本当に実行するとは思ってもみなかったが。
「なんで……」
忘れていった? いや、これは置いたというよりも――
「…………、」
僕はその落とし物へ近付くと、そっと拾って帰った。
◆◆◆
「お前らー。席着けー」
油が足りない横開きの扉を、ガラガラと音を起てながら大柄な担任教諭が入ってくる。その声に、チラホラと生徒達が自身の席へと着席していく。――が。
(佐竹……)
普段ならば真っ先に反応を返す彼の姿が未だに見当たらない。
「せんせー、佐竹はー?」
「……あー、そのことなんだが、――お前ら、落ち着いて聞けよ?」
誰かが呑気に張り上げた声に、担任教諭の顔色が変わった。
その反応に、うっすらと教室内に緊迫した空気が流れた。
「さっき佐竹の親御さんから電話がかかってきてな、――佐竹が昨夜から帰ってきてないそうだ」
「――ッ!!」
息が詰まった。
うそだ。まさか、そんな――――
「なんだよー。佐竹のやつ無断外泊かよー」
「ま、あのアホの事だからどうせひょっこり帰ってくるだろうけど、一応、この中で佐竹の居場所知ってるやつがいたら後で先生とこ来てくれ。んじゃ、ホームルーム始めるぞー。委員長号令ー」
頭が真っ白になった。クラスメイト達の声がとてつもなく遠く聞こえる。
ドクン
ドクン
「……っ」
どう、しよう。どうしよう。
こんなこと、誰に……
そっと暴れる胸を服の上から押さえる。――と。
カサッ……
「あ……」
『あなたのお悩み、承ります。時刻探偵事務所――――』
――――運命は、廻り出した。
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