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神のいない山
陸
しおりを挟む「どう、でしたか? 時政さん」
何処へ向かっているのやらわからない時政の後を追いながら、おそるおそる伺う。
「大体は掴めてきた。が、まだ核心には届いていない。七年前……。確実に何かあったが誰も話す様子はない」
美岬館の人間もな。そうこぼす時政に愕然とする。
「じゃあもう打つ手が……」
「ハッ、この俺を誰だと思ってんだ。こういうのは専門家に任せりゃいいんだよ」
――専門家……?
時政は不敵に笑うと、懐から携帯電話を取り出し。
プルルルル……ピッ
「よーお、かがり。泣いて喜べ。仕事だ」
…………だから誰。
――『かがり』
この旅が始まって以来、いや、それ以前から度々時政の口から出ていた人の名らしき単語。
気にならなかったと言えば嘘になるが、ずっと気にしないようにしていた事柄の一つだ。それが今、目の前の小さな機械越しに繋がっているらしい。
「調べる内容は、今から七年程前に美岬館と清海野の間にあった事。……あ? 休暇中? 知るか。適当にファイルさばいて調べろこのロリコン」
……どうやら謎のかがりなる人物はロリコンらしい。
「そもそもテメェがこんな面倒俺に押し付けるからだろーが。あ゙? いいからつべこべ言わずに動きやがれ。きおくちゃんに昔の話チクんぞコラ」
まるでチンピラのような時政の台詞に、携帯越しにかがりらしき人物の焦った声が漏れた。
……男、だよな? 声的に。
微かに聞こえる低い機械音は、どう取っても女性には聞こえない。
「おう。じゃあ明日までな。はいはい、よろしくー」
最後まで時政優勢だったようで、反論らしき声が未だ続く携帯の接続がブツリと切られる。
あ、相変わらず横暴だな……この人。
「それじゃあ次は、問題の本拠地、美岬館の人間に事情聴取といきますか」
どうやら先程から美岬館への帰り道を辿っていたらしく、目の前には今朝目にしたばかりのエントランスが広がっていた。
「いいか。お前は都合の良い事に童顔だ。どう見ても中学生のガキにしか見えねぇ。で、子供ってのは多少おイタしても許される。……俺の言ってる意味、わかるな?」
「……は、」
ひくりと口元が引き攣った。
そんな僕を嗤うように、時政は爽やかな笑顔を浮かべると。
「偶然装って内部探ってこい☆」
「――いやいやいや! なに言ってんですかッ! それヘタしたら犯罪じゃないですか!」
サァーと顔を蒼くしながら時政へ食い下がる。
「何を今更。そもそもこの仕事自体が犯罪の片棒みたいなもんじゃねぇか。正義のヒーローだって正義、て建前なくしたらただの犯罪者なんだぞ?」
「そんなダークな話、今、求めてませんよッ」
必死に時政の腕にしがみ付きながら首を振って拒否を示す。
すると、そんな僕の様子を見た時政は、一言。
「何の為にテメェを連れてきたと思ってんだ」
――っ最初からこれが狙いかコノヤロー!!
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