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神のいない山
十参
しおりを挟む「“神”の定義を知ってるか? 神、てのは人の信仰の有無によって存在が左右される。つまり、信仰心が薄まれば神通力――神としての力も薄まっていく、てわけだ。そこを巧く突かれたんだろう。悪霊共に」
土産屋でのおばさんの言葉がリフレインする。
――『最近の子は氏神様を信じない。だから氏神が怒ってらっしゃるんだ』
「……っでも、それが一体今回と何の関係が……?」
「おそらく、館内を徘徊する不審な影の正体はその悪霊だ」
「悪霊……!?」
「美岬館を強く憎む誰かの怨念が媒体になって引き寄せられたんだろう」
『美岬館を強く憎む誰か』
けれど、それが誰かわからない。
一番可能性の高い人間は、たった今時政に覆されてしまった。
神奉山。清海野。この二つに共通するのは――――
(……あ、スカビオサ)
その単語に、連想するようにふとある奇妙な存在の事を思い出した。
何故忘れていたのか。こんなにも、胸を燻り苛み続けた要因だというのに――――
「――――クローバー」
「……は?」
「そうです! クローバー! スカビオサの隣に一本だけクローバーが置かれてたんですよ!」
霧が徐々に晴れていく心地だった。興奮のまま、時政を見上げる。
「ああ。あのスカビオサは圭司を弔う為に清海野が植えた花だろうからな。圭司の関係者が添えていったんだろう。来世での幸運を願って」
「あ、いえ、それが幸運の四つ葉のクローバーじゃなかったんですよ。何故か三つ葉で」
「……三つ葉?」
時政の声が硬質化していく。
「不思議ですよね。なんで四つ葉じゃなくて三つ葉なんだろう。見付からなかったのかな?」
妙に僕の興味を引き違和感を植え付け続けた葉。
そして三つ葉のクローバーといえば――
「――千代瀬さんだ」
「あ? 若女将がどうした」
謎がさらに深まってしまったのか、眉間に皺を寄せたまま時政が畳み掛けてくる。
「い、いや、あの、実は今思い出したんですけど、千代瀬さんも三つ葉のクローバーばかり持ってたなあ、て。もしかしてスカビオサに置いてあったクローバーも千代瀬さんのだったのかなあ。……なんて」
「――ッ!」
言うのが遅い! と、怒鳴られる事を覚悟の上で、渇いた笑いと共に述べた。――すると。
「繋がった……!」
「……ほへ?」
「そうか……! そうだよ……! 親だけじゃねえ。圭司が死んで誰よりも悲しみ理不尽を憎む人間はもう一人いたじゃねぇか……!」
爛々と、逸そギラギラと瞳を耀かせながらしきりに頷く時政を、若干引き気味に見守る。
「と、時政さん……?」
「確か今日は新月だったな。てことは動くなら今日か」
自身の中で解決までの道筋が固まったのか、自問自答しながら口角を吊り上げるその様子は、佐竹を救ったあの日のように、生き生きと、そして斬れてしまいそうな程に鋭く研ぎ澄まされていた。
「――よし、いけるな。でかした!」
「へ? え、え?」
「今回は今までにないくらい忙しくなんぞ。覚悟しとけよ」
「は?」
クツクツと妖しい笑みを浮かべる時政に、全く思考が追い付いていかない。
時政は、そんな僕の様子すらも予想の範疇なのか、余裕たっぷりの厭らしい笑みを浮かべると、
「くくっ、今夜は寝かせねぇぜ……? ――――謎解きの時間だ」
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