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神のいない山
肆
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――悪夢を、見るようになった。
あの日からだ。
私は何故か“あの”崖の上に立っていて、深く抉れた“下”を覗き込んでいるのだ。
そして、そこには、――崖から落ちたのであろう血塗れの男が一人、死んでいる。
幾分か成長しているその姿は、しかし見間違える筈もない“あの人”で。
男は、血を頭と瞳と口から絶え間無く流しながら此方を向くと、
――××てよ。
そう私へ囁きかけてくるのだ。
私はそれが怖くて怖くて、思わず背を向けて山を降りようとするのだけれど、
――また逃げるの? ……僕を見殺しにするの?
走っても走っても耳元で吐息のように掛けられる言葉。
存在する筈のない幼い声は、呪いのように私を責め、追い立てて行く。
――千代瀬はひどいね。僕を犠牲にしておきながらのうのうと生きて。ねえ、恥ずかしいとは思わないの? 僕に申し訳ないと思わないの?
やめて。ごめんなさい。ごめんなさい。
――謝るなら××してよ。僕も手伝ってあげるからさ。それが君の唯一の罪滅ぼしなんだよ。
いや、やめて! やめて! いやああああッ!!
そこで暗転して目覚める。それの繰り返し。
最近は特に酷くて、起きてる時ですら幻聴が聞こえていた。
――苦しいよ。苦しい。助けて、千代瀬。
――誰の所為でこうなってると思ってるの? 君だろう?
――ねえ、千代瀬。本当はわかってるんだろう? 自分の感情も。
ねえ、千代瀬。千代瀬。聞こえてるでしょう?
千代瀬。千代瀬。千代瀬。
千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬千代瀬――――!!
っもうやめてええええええッ!!
頭が痛い。身体が重い。息が苦しい。
誰か助けて。もう許して。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
「……たすけて、圭司さん」
プツリと切れた意識の先。
大好きなあの人が泣いている気がした。
――千代瀬はクローバーが好きなんだね。ふふっ、じゃあこんな話は知ってる?
クローバーの花言葉はね――――――
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