時刻探偵事務所へようこそ!

椎名

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喋るミカちゃん人形

◆助手

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「――――――だれ」


「…………へ?」





 事の始まりは、時政のこの一言からだった。


「あ、お前ちょっとケーキ買ってきて」

「……うぇ?」


 学校が休日な為、朝から事務所へ出勤していた僕は、今日も今日とてプリントを纏めたり食器を洗ったりと、ベテラン家政夫さながらに家事をこなしていた。

 そんな僕にこの一言である。


「いやいや、どう見てもアンタのが暇でしょーが。買い物くらい自分で行ってきてくださいよ」


 どうせ今日も依頼なんかないんだから。

 ぼそりとぼやいて濡れた手を拭く。

 近頃、依頼も仕事もなく、事務所で二人ごろごろするのが通例になり始めている。
 こんな状態ではたしてアルバイトをしているといえるのかどうかは甚だ疑問だが、給料だけはしっかり出ているので今の所文句はない。

 時政さんに対する不満はいっぱいあるけどね!


「ちょっと席外せないの。ほら、お駄賃やるから。ショートケーキとシュークリームとモンブランな。お釣りでお前も好きなの買ってこい」

「えー。一人でそんな食べるんですか?」


 エプロンを外しながら、ペロンと差し出された樋口さんを手に取る。

 時政さん甘い物好きだったっけ?
 ブラックコーヒーのイメージしかないんだけど。


「アホか。生憎、甘味は専門外だ。人様用だよ」


 それだけ言い渡すと、話は済んだとばかりに手で払われた。

 入り用なら最初から電話で言っておいてくれれば良かったのに。
 そうしたら、こんな手間かけなくても行きに寄って買ってきたのにー。

 横暴が通常運行な時政に、呆れながらも、ソファーに投げ出されたままのバッグを取った。

 ……ま、これもバイトのうちか。


「じゃ、いってきまーす」

「おー。いってらー」


 ゆるーく振られる腕が見える。


(……しょうがないなあ、もう)


 帰ってくれば、次は『おかえり』が返ってくるのだろう。

 自宅にはないその声が、なんだかくすぐったかった。



 ◆◆◆



 さてさて。そんなこんなで僕は、早速、彼の有名チェーン店、不三家へ来ている訳だが――

 なんだか店内が異様に騒がしい。
 ざわざわ、ざわざわ、と喜を帯びた小声がそこかしこで囁かれているのだ。


(なんだろう、有名人でも来てるのかな?)


 野次馬精神がうっかり顔を覗きかけるが、
 それよりも今はお使いを済ませねば、と叱咤し甘い誘惑を振り切った。

 そういえば、人用、て言ってたよな? てことは今日、お客様が来るの?

 ハッ! もしかして久々の依頼!?


「…………」


 おっと、しまった。

 一人息巻く僕に、前列に並んでいたおばさんが迷惑そうに睨んでいた。


「あ、えへへ……」


 取り合えず笑っておこう。日本人お得意のお愛想笑いだ。

 逸る気持ちが抑えられない。あんまりにも代わり映えのない日常に飽き飽きしていたのだから。

 あれ、でも、時政さん着替えてなかったよな。
 いつも依頼者に会う時は最低限、それなりの格好してるのに。

 じゃあ、一体……?

 うつら、と再び思考に陥りかけた所で、


「次にお待ちのお客様ー」

「あ、はい!」


 いつの間にか順番が回ってきていたようだ。レジカウンターに立つ店員のお姉さんに呼ばれる。


「ご注文どうぞー」

「あ、えっと、ショートケーキひとつと、シュークリームひとつと、モンブランと、あと、……チーズケーキとコーヒーゼリーも下さい」


 会計の五千円札をカルトンに置き、組み立てられた箱に消えていくケーキ達を眺める。

 甘い物苦手でも、コーヒーゼリーくらいならいけるかな。時政さん、コーヒー好きだし。
 やっぱり、どうせ食べるなら一緒に食べたい。

「甘ぇ!」と、文句を言いながらも完食してくれるであろう不器用な彼の姿を想像しながら、笑みをこぼした。





 〔要読〕
今回、テーマを病気に、精神病を主題に扱って作品を執筆するに当たって、おそらく不快に思われる読者の方がおられると思います。不謹慎だと怒りを覚えられるかも知れません。なので、ここで事前に謝罪申し上げておきます。
しかし、私は決して適当に書いたり、患者の方を馬鹿にするような気持ちで執筆したりは致しません。どれ程重く難しい問題なのかを理解した上で、挑みたいと思っています。
ですので、書き直せ、消せ、などの要望には応えられません。どんな言葉を頂こうとも、物語上必要な過程ですので、省く事が出来ないのです。どうかご理解頂けると嬉しいです。
それから、精一杯調べているつもりではありますが、間違った知識で書いている場合はどんどんつっこんでください。ナイーブな問題ですので、間違いのままは不味いと思うので。それと普通に作者が恥ずかしいので!
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