聖犬伝説(ひじりいぬレジェンズ)~愛犬とともに異世界召喚されたけど、チートスキルはボクじゃなく犬の方に宿ってました~

たかはた睦

文字の大きさ
18 / 21

第18ワン 勇者と窮地

しおりを挟む
「シノブ様!ジロー様!私はどうなっても構いませんから、この者を討ってくださ…『誰が喋っていいといいました!』

 タモンの蛇首はナイーダの体を締め上げる。

「ああっ……」

 蛇の鱗が擦れ合う音と、ナイーダの骨が軋む音に混じり、彼女の悲鳴が聞こえる。

「(ナイーダさん、ちょっとえっちだな……なんて考えてる場合じゃない!どうする忍、何か策は……?)」

 しのぶは思った。漫画やゲームでのこういう局面では大抵、「かなり都合のよい奇跡」でも起きない限りピンチを突破出来ない。よって、今のしのぶは万策尽きたも同然であった。

「……解ったよ、言うとおりにするさ。どうすればいい?」

 しのぶは鞘を地面に突き立てる様に持ち、ジローは聖剣を口から放し、置いた。

『聞き分けがいいですね。では聖剣を鞘に収めなさい』

 しのぶとジローは言われた通りに聖剣を鞘へと収納する。

「シノブ様……」
「ナイーダさんはボク達がこの世界に来て初めて、そして一番優しくしてくれたんだ。そんな人を犠牲になんて出来ないよ」

 しのぶは笑って見せたが、その笑顔は策を弄する時の悪戯染みたものではなく、強がるための作り笑いであることがナイーダには解った。

『次に小僧はその剣を背負いなさい』

 タモンの言うがままに、しのぶは鞘に入った聖剣を背負う。

 『ではモンスター達よ、小僧の手と犬の口を縛りなさい!……抵抗するんじゃありませんよ?こちらには人質がいるんですからね?』

 タモンはナイーダを拘束する蛇をわざとらしく揺すってみせる。

「……っ!!」

 しのぶは思いつく限りの雑言をタモンに浴びせたいところを堪え、生き残ったゴブリンやトロール達が手首にロープを巻き付けるのに従っていた。

「ヘヘヘ…勇者もこうなってはただのガキと犬だな」
「子供の肉は美味いからなぁ。 今すぐ頭から食らってやりたいぜ」 

 モンスターたちの放つ悪臭と醜悪な言葉に耐えるしのぶ。

「この犬ッコロ!コイツのせいで俺達の仲間はっ……!」

 ゴブリンの一匹がジローの脇腹を蹴る。マズルを縛られ声を出せないジローは悶絶するのみ。 しのぶは今までにないほどの怒りがこみ上げてくるのを感じたが、ただ耐えるのだった。

『もうよいでしょう。 小僧の手と犬の口さえ封じれば聖剣は扱えまい』

 タモンがそう言うと、ナイーダの拘束は解かれ地面に投げ出された。そしてタモンの体は徐々に縮んでゆき、先ほど息絶えた影武者と同じく人型をした魔族の姿となり、しのぶ達の元へ歩いてゆく。

「……伝説の勇者と戦い、勝ったのだ。首の1本と命の一つは名誉の負傷という事にしておきましょう……」

 タモンはしのぶを見下ろすように睨む。

「だが」

 タモンの右拳がしのぶの顔面を打ち抜いた。

「只人《サピエント》のガキと犬《カニス》如きが!魔族を!この私を嘗めたことは許せん!!」

 続いてジローのマズルを蹴り上げる。 タモンの攻撃に倒れたしのぶとジローは気を失っ てしまった。勇者が魔族に倒された─その事実が絶望となりシソーヌ王国軍に暗雲が広が る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...