ぜにもうけっ!

紅き鮮血に染まりし肛門

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銭儲け部

1「おかっぱ少女と怪しい影」

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 極度の緊張により額から大粒の汗を垂らした生徒が、声を裏返らせて〝面接〟をしている。

「わ、私は、人間関係を円滑にする潤滑油じゅんかつゆのような存在であり――」

 その生徒の前にテーブルを挟んで、足を組んで偉そうに座る別の生徒が、うんざりした表情でため息をついて言葉を遮った。

「あぁ、聞き飽きたよ、それ。君で八人目だ。もういいや、君不合格」
「は!? まっ、待ってくださ――」

  なんとか食い下がろうとする、ワインレッドの真新しいブレザーに身を包んだ男子生徒を、『広報部こうほうぶ』と書かれた腕章をつけ、真新しさはないが同じ制服を着た生徒達が、男子生徒の脇を抱えて、テント内の長テーブルの前に置かれたパイプ椅子から無理やり退けている。
  
 テントの外には、数十に及ぶ生徒が自分の写真が貼られた履歴書を片手にずらりと列を成していた。
  テントには『広報部』と、デカデカと印字されている。

  ちなみに、これは入学試験の面接でもなければ、就職試験の面接でもない。
  部活動の〝入部面接〟だ。
  散り始めた桜の木に挟まれた校門から果てしなく伸びる、レンガが敷き詰められたアプローチの脇に並べられた、同じように様々な部活動名が印字されたテントの数々。
  風に運ばれた桜の花弁が舞い散る中、緊張の面持ちでピシリ、と整列して自分の面接の順番を待つ新入生たち。

  そのアプローチをとぼとぼと歩く一人の少女がいる。
  彼女は金田一天音きんだいちあまねこの、山一つを丸々切り開いて建てられた【有栖川学園】に今年入学したての一年生である。
  黒髪の〝おかっぱ頭〟という、時代錯誤も甚だしい髪型の彼女は、深くため息をつき俯き、普通にしていれば大きいはずの瞳を伏せて歩いている。

「はぁ~」

  また、ため息。彼女の手には先ほど、入学式で支給されたばかりの『スマートフォン』通称、スマホが握られており、画面には【残高80,000円】と表示されている。

「はぁぁぁ~ぁ」

 スマホの画面を見て三度、今度はさらに深く、内に溜まった鬱憤を全て吐き出すようなため息を吐く。目蓋に生える綺麗に整った睫毛が、目蓋を閉じたことによってより強調されている。

「この八万円を一年で三百万円にするなんて、無理に決まってるよぉ」

  天音の口から思わず零れた力ない独り言。
  天音は残酷な現実から逃避するため、校舎の、壁のほとんどがガラス張りになった近代的かつ無駄に贅沢な校舎の裏へと歩みを進める。その足取りは重たかった。

 そんな天音を、校舎の脇にある掲示板の陰から覗き見る三つの妖しい〝人影〟。なにやら、ボソボソと話している。

「おい、アイツいいんじゃねえか?」
「ホンマやな、さっきからため息ばっかり吐いてるわ」
「気も弱そうだし、ピッタリだね」

 三つの〝人影〟は一斉に頷くと、天音の背後からゆっくりと忍び寄った。

「どうせ、私なんてどこの部にも入れっこないし……大体、八万円じゃ入部基準を満たしてる部の方が少ないよ……」

 天音の、まるで誰かと会話をしているかのような独り言。彼女は独り言が多かった。

「はあぁぁぁぁ~ぁ、お父さんたち大丈夫かな……」

 天音は遠く離れた家にいる父や兄弟を想う。そして彼女はため息も多かった。


「そんなにため息ばっかりついてたら、幸せが逃げるで? 自分」
「――へっ!?」

  天音が丁度、色とりどりの花が植えられた、高校にしては豪華すぎる中庭に差し掛かった時、突然後ろから聞こえた胡散臭い関西弁の女の声に、ビクリと体を跳ねさせ降り返る。

「グヘヘ、観念しな、お嬢ちゃん」

 髪を真赤に染め、春先にも関わらずブレザー着ずに、襟元のボタンを二つ開けた長袖の白いシャツの裾をだらしなく垂らした目つきの悪い男、銭形泡ぜにがたあぶくが両手を頭上にあげ、わしわし、と指を動かしている。白いシャツの下には真赤な柄物のTシャツが透けて見えている。

「…………」

 黒髪のもじゃもじゃアフロで、メガネを掛けた百八十はゆうにありそうな高身長の男、一二三大金ひふみせんまんは、アブクの隣で恥ずかしそうに棒立ちになっている。

「おいコラ、キラキラアフロ! 黙ってないでテメェもやれよ!」
「……ぐ、ぐへへ……」
「……何してんの、アンタら」

 猫のようにな目をした、族に言う〝金髪ツインテール〟で、規定の制服を改造し、スカートをミニして胡散臭い関西弁を操る女、福沢加奈ふくざわかなが、呆れ顔でツッコミを入れる。

(――何!? この人たち、すごく……変!)

 天音は急に目の前に現れた三人の奇妙な人間に瞠目し、あまりの奇妙さに恐怖すら感じている。

「ごめんな、コイツら頭おかしいから、ほっといて」

 加奈が苦笑いを浮かべながら、手を合わせて天音に謝る。

「おい待て、エセ関西人。誰が頭おかしいってんだよ」
「エセちゃうわ! ウチはホンマもんの関西人や、ナメとったらいてまうぞ!」
「うるせえな、ギャーギャー喚くな、お前出身三重だろ」
「三重も大体は関西弁じゃボケ! しったか抜かすな」
「おーコワ、関西人は下品でいやですねー? キラキラアフロくん」
「そのキラキラアフロっての、やめてよ……」
「『大金』と書いて『せんまん』なんて〝キラキラネーム〟以外の何者でもねぇだろ、後アフロだし」
「そんなこと僕の親に言ってよ……アフロなのも、どうせ卒業したら実家の寺を継ぐ修行で髪を剃るから、思い出に……」
「〝天パ〟隠しだろ」
「……そ、それもあるけど……」
「性格のねじれが毛根に出てんだよ」
「え!? ホント!?」
「せやったら、アブクの髪は果てしなくクルクルやないと辻褄あわんな」
「んだと、時代遅れ」
「はぁ!? それはウチのこの、芸術的な〝金髪ツインテール〟に向って言うてんの!? ……」

 (――何!? この人たち、なんか……面白い!)

  天音の感じていた感情が、恐怖を通り越し、それが好奇心へと変わった瞬間であった。

「はぁ、もうアンタらエエ加減にしぃや、この子ほったらかしやん」
 
 加奈が横目で天音を見ながら二人に促す。

「あぁ、マジで忘れてた」
「かわいそうに……」

 センマンが天音に不憫そうな顔を向けながら呟く。
 アブクが片手をポケットに突っ込みながら天音の前に立った。

「キミ、金に困ってるんだろ? 悪いようにはしねぇからさ、俺たちに着いて来てくれねぇかな?」

  アブクはポケットに突っ込んでいない残った左手で、ダルそうに真赤な髪の後頭部をボリボリ掻きながら天音に言う。

「え? あぁ、はい。いいですけど」

 天音は少し困惑を見せつつも、特に何の疑問もなく快諾する。

「ええの!?」
「え?」
「……自分、もうちょっとだけ、人を疑ったほうがええよ?」

  加奈は心底、心配するような表情と声色で天音に忠告する。

 (そっちが誘ってきたんじゃ……でもたぶん、この人たち先輩だよね。口に出すのはやめとこ)と天音は心の中でこっそり反論する。


「さすが、入学初日に三十万騙し盗られたやつが言うと、やっぱ説得力が違うなぁ」

 アブクは馬鹿にするように口元を吊り上げてニヤリと笑う。

「うっさい、ほっといてよ……」

 過去のトラウマが蘇ったのだろう。加奈はさっきまでの威勢を失い、うな垂れるように肩を落としている。

「三十万円も盗られたんですか!?」

 天音は何の悪意もなく純粋に驚き、聞き返す。
「……う、ウゥ……」

 加奈は目に涙を浮かべて、俯いてしまう。
「やめてあげてくれ、彼女、すごく泣き虫なんだよ」
 
 センマンが加奈の振るわせる肩に手を置きながら、天音に言う。

「あっ、ごめんなさい! 私、そんなつもりじゃ……」

 天音は罪悪感を感じ、ペコペコと頭を下げている。

「ウチもなぁ……盗られるつもりなんかなかってんけど……」

 加奈はグスグス、鼻を鳴らしながらブレザーが捲られて肌が露出した腕で涙を拭う。センマンが肩を優しく叩いて、加奈をあやしている。センマンは優しい性格なのだ。

「そりゃそうだ、盗んでくださいっつって、盗まれるやつなんていねぇよな」

 アブグが腕を頭の後ろに組みながら、ハハハッと笑っている。
 
「……ぐっ、う、うわぁっぁぁぁぁああ、アブクのボケぇぇぇ、アホぉぉぉぉ」

 アブクの言葉がトドメとなり、加奈の心の防波堤は決壊した。加奈は花壇の周りに、さらに置かれていた、明らかに値の張りそうな陶器でできたプランターを、アブクに向って投げつける。

「アブク! いい加減にしろよ! 加奈も落ち着いて」

 ボンバーな髪型とは裏腹に、普段はおっとりしているセンマンが、語気を強めてアブクに迫る。

「ほっとけほっとけ、それよりほら、一年生のキミ」

 アブクは、次々に飛んでくるプランターを器用にかわしながら天音に言う。投げられたプランターは地面に落ちて、中の花ごと粉々になっている。

「あ、は、はい?」

 天音は飛び交うプランターを目で追っていたが、突然呼ばれたため視線をアブクへ移す。

「そんなやつほっといていいから、行くぞ」

 アブクは頭の後ろで腕を組んだまま本当に、泣き喚く加奈を無視して歩き出してしまった。

「え? え? ほ、本当にいいんですか!?」

 天音は子供のように泣きじゃくる加奈と、さっさと校舎の裏、そのさらに奥の方へ歩いて行ってしまうアブクを、さながら天使と悪魔に振り回されているように交互に首を振っている。

「どうせいつものことだー、ほっときゃそのうち泣き止むよー」

 既に中庭を抜け、校舎に重なってほとんど姿が見えなくなっていたアグトが、普段より張ってはいるものの、特に感情の篭っていない声で返答する。

 それでも尚、迷っている天音を見てセンマンが助け舟を出す。

 「大丈夫だよ、加奈は僕が後で連れて行くから、キミはアブクに着いて行って」
 「え、あ、はい。……わかりました。アフロさん、すみません、ありがとうございます!」

 戸惑いつつも、ペコッと可愛くおかっぱ頭でお辞儀をして、もう姿の見えないアブクが向った先へ天音が走っていく。

 「……アフロはやめてねぇ~……」

 力なく抗議するセンマンの声は、残念ながら天音の耳には届かなかった。
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