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#8 無垢を尻で食った男
しおりを挟む虫の音が響いている。頭上をわたるような鳥の声を仰ぎ、ルーファスがユーゴの背中に手を伸ばした。伸ばし、それからユーゴにとって最も重大な問題を起こしている腰へとくだっていく。
触るな、と言ったはずなのに、しかし、口から実際に出たのは嬌声だった。
「ぅあ、…ぁァッ」
尻穴の収縮にともなって性感の波がユーゴの五感をかけあがる。いったいどこから出たんだと思うような甲高くひきつったような声が喉から飛び出して、ユーゴの股を濡らした。
「ぁ……ぁ、…」
ほろほろと涙が出て、それでも体は満足しない。足りない。地団駄するように暴れ回って、ユーゴはそれを押さえつけるように地面を二度打つ。
「大丈夫ですよ、ユーゴ」
傷ついたユーゴの手をとって、ルーファスが耳元で言った。拒まないでと続けながら、肩甲骨から脇へくだり、ぞくぞくするような何かをそこから芽吹かせていく。体内でとどこおる熱を吐きだそうと、ユーゴは顔を上げた。
口をひらいて息をはきだすユーゴを、ルーファスが従順な獣に素質を見出したトレーナーのように見る。
「おいで」
「え……?」
人前で痴態をさらすまいとただその一念で自我をつなぎとめていたので、ルーファスが何を言ったのか、ユーゴにはわからなかった。わかったのは、ルーファスがユーゴの顎を一度指で軽くあげさせたのち、自分によりかからせるようにユーゴの体を起こしたことと、ついでに体液でどろどろになったユーゴのスキニーと下着をおろしたことだった。
何をしているんだと驚いたのは一瞬、その指がユーゴのペニスをこすりはじめる。
「え、…ちょっと、――ぅ、あ、あ!」
汚れる、と言おうとしたが遅かった。射出された精液がルーファスの腹をしとどに汚して、ユーゴに激しい羞恥と混乱をもたらす。「まだですよ」
なのにルーファスはそう言って、今度はユーゴの胸部に指を伸ばした。トントンと布を踏みながら進んだ指が乳首をつまんで、それから唇に軽くふくむ。
「ひ、ぁ!」
がくんと大きくユーゴの腰が跳ねた。もっと、もっと。ユーゴ自身の意思を無視して、からだがルーファスにそこをおしつけるようにしてねだる。
「かわいい」
ルーファスのやわらかい舌が褒美を与えるように乳首をねぶって、そうしながらユーゴの精嚢の裏へ手を伸ばした。そこじゃない、と思うけれど、一方でこっちこっちと招くように尻穴がせっかちに収縮をくりかえす。そしてルーファスの指は、まったく恐れのない動作でそこに指をおさめると、まるで知った場所のように探り始めるのだった。
「あ、あァ、――や、ぁッ!」
いやだと言いたいのにまるでルーファスの指を誘導するように腰が揺れる。はりつめたまま放置されているペニスが、それをうらやましがるようにとぷとぷと先端から透明な液体をあふれさせた。
いやだ、いやだとうわごとのように吐き続けるユーゴの耳元で、ルーファスが内緒話をするように言う。うそつき。
「こんなにどこもかしこも熟れて、おいしそうなのに。嘘は、いけません」
かすれた低い声は、興奮した雄そのものだ。彼の発するあまい、甘いにおいにおぼれる。理性が飛ぶ音を、ユーゴは聞いた。
それから、どれくらい我を失っていただろう、気づけばユーゴはルーファスの頭を抱えるようにして、彼の勃起したペニスをソコでくわえてむさぼっていた。
「!?」
「ああ、気づいてしまいましたね」
ちっとも残念じゃなさそうに言って、ルーファスが体位の変更をリクエストする。
「大丈夫ですよ、顔は、見ません」
お互いに、一体何度射精を経たのだろう、もはやどちらの体液かわからないようなありさまだ。さいわいなのはその間の記憶がユーゴにないことだが、惨状を見れば嫌でも想像がついてしまう。
「ほしくなったら、いくらでもあげますから」
いったいどうしてこんなことになってしまったのだ、どう責任をとるつもりだと上下左右からさまざまに責め立てられて、行為の中断を申し出る気力も余裕もない。
そして宣言通り、ルーファスは背面からの挿入によってユーゴの名誉を守った。甘えるようにユーゴのうなじあたりに額を押し当てて、ルーファスが言う。
「私以外には、…ゆるさないでくださいね」
「…ッ」
「だめですよ、ユーゴ」
こどもっぽい、心細そうな声がきゅ、とユーゴの心臓をしぼって、それからルーファスをしめつけた。どくりどくりと何度目かの射精を背中越しに感じながら、ユーゴはふと、あれほど自分の中で荒れ狂っていた飢餓感が小さくなっていることに気づく。むせかえるようだったリンゴのにおいも。
耳元で低くルーファスがうなって、それからユーゴもぎゅっと目を閉じた。うわごとのように彼の名を呼ぶと、ルーファスがそのままユーゴのうなじにキスをする。
「ここにいますよ」
私のユーゴ。
幸福そうな充実した声で、ルーファスがこたえた。
*
「死刑より重い処刑方法って何だ…?」
翌朝、ユーゴは自己嫌悪と自責と呵責連合軍による二度目の総攻撃を受けたが、落ち込んでいる暇はない。いつまた国王からの「追手」が襲ってくるかわからない。日程が長引くことを見越して猟師村で準備しておいてよかったと、ユーゴは自身の判断を褒め称えた。
「ヤンガルドに着いたらでよいのですが、私に何か武器を見繕っていただけませんか」
ルーファスがユーゴに頼んだのは、そのあとのことだった。
「エドモントを守護する獅子王さまが力と火をつかさどることから、エドモントの王子はかならず武器の扱い方をひとつ習得します。ですが、“リュカ”は姫だったので、私は短剣の持ち方さえしらないのです」
顔つきがかわったな、とユーゴはルーファスを観察する。ただ髪が短くなっただけではない、雰囲気が、昨日の彼とは別人のようだ。
子どもの成長は早いなあ、とユーゴはまぶしいものをみるような心もちでうなずく。断る理由はなかった。知っていて損することはないし、もしかしたらこの先にも、ユーゴの手が届かないことが起こらないとはいえない。そのとき、その知識がルーファスを守るかもしれないからだ。
「じゃあ、練習な」
言って、ユーゴは荷袋から短剣を出した。ナイフのような片刃式で、主に野営周りの雑用に使っているが、狭い場所などアーガンジュを振るえない場面では戦闘に用いることもある。こちらの意を汲んで素直に動いてくれるので、入門用にはもってこいだろう。
「刀身が赤いのですね」
歩きながらうけとって、ルーファスがカバーをあける。きれい、と無邪気に目を輝かせるようすにはまだいくらか“少女”の面影があるようだった。かわいいじゃんと唇の端で笑みながら、ユーゴは説明する。
「ヒイロノカネっていうらしい。ヤンガルドの北部だけで採れるんだ。おれの髪と色が同じだからって、ドハラがくれたんだけどさ」
「“ドハラ”」
「駆け出しの頃一緒に組んでたやつ。ちょっとクセがあるけど、おもしろいやつだったよ。アーガンジュ買った店教えてくれたのもこいつでさ、運命の恋人を探してるんだってさ。おかしいだろ」
「…どのように握ればよいのでしょう」
ルーファスがぎこちなく短剣を握って、首をかしげた。あなたはどう持つのかとたずねられ、ユーゴは短剣をうけとる。
「おれもこっちは得意じゃねーし、あくまで参考程度にしとけよ。下手にまねして、いざって時手首がかたまったとか、そんで怪我したとかばかみたいだろ」
しばらく進むと、小川を見つけた。太陽の角度とルーファスの様子をみながらそろそろ休憩を入れようかと考えて、ユーゴはふと、小川の浅い岩陰に何かがひっかかっているのを見つける。
(…ハト?)
水を飲みに降りたところを、獣にやられたのだろうか。狐か、それとも別の獣か。考えて、ユーゴは予定変更を決める。
「もうちょっと先に、泉があるんだ。今日はそこにしよう」
ルーファスが汗をぬぐいながらうなずいた。さっきまで短剣にはしゃいでいたが、さすがに疲れているようだ。山のあちこちから聞こえる遠吠えのようなカラスの声をあおぎながら、ユーゴはルーファスを横抱きにもちあげる。
「ユーゴ、」
ルーファスがおどろいたように顔を赤くした。腰に響かないかと小さな声でたずねてくるのへ、ユーゴは沈黙ののち笑んで見せる。
「忘れてください」
「…だ、だいじょうぶです、ユーゴ。かわいかったですよ」
「忘れてください」
ユーゴはくりかえした。
*
それからヤンガルドに到着するまでの間、ユーゴたちは追手とも黒い魔物とも遭遇することはなかった。
かわりにヤンガルドへ近づくにつれてハトの死骸と、せわしげに森のうえを飛び回るカラスがユーゴの第六感をざわつかせた。
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