学習型AI機能付きディルドを買ったら赤ん坊が届いた

おく

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#3 初めてはエプロンプレイ(※ただし入ってない)

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 他人から見たらおかしいかもしれない。だってジローはディルドで、無生物だ。ジローを開発した会社も、よもやこんなふうに商品を使われてるなんて思ってもないだろう。どの口で言うのかぜひツラを拝んでみたいが。
 俺はジローとさまざまな場所に出かけて、さまざまなものを見た。
 暇さえあれば部屋にこもってアナニーを楽しんでいたこの俺が、だ。幸い恋人もなければ友人づきあいもない独身、金と時間にはそこそこ融通が利く。
 俺はジローにとにかくいろいろなものを見せてやりたかった。体験させてやりたかった。
 空の青さ、海の色、生き物のあたたかさ、そして星。古いものに新しいもの。
 さすがに国外までは及ばなかったが、そこは映像資料でいくらでも補える。学校へは通わせられないから(なにしろ10日で1歳成長するのだ)学習教材を与えてやると、12歳になる頃には高校教材を卒業してしまった。

「セイ、これは何?」
「!?」

 そんなふうにジローが見覚えのあるバスケットを持ってきたのは日曜日のことだった。ジローのために本棚を増やしてやろうと思って、その片づけの一環としていったん収納の中身を全部出したのだ。その時に俺は思い出すべきだった。
 それは一見すると女性用のコスメでも入っていそうな白いバスケットだった。万が一ジローに中身を問われた場合に「前の彼女の忘れ物」という無難な設定をつけるために選んだもので中身は言わずもがな、「ツッパリ番長ジョニーくん」ほかアナニー道具もろもろが放り込まれていた。
 ただ開けてはいけないもの、と漠然と禁止するよりは「他人のものだから」と何らかの設定を作った方がもっともらしく聞こえるものだ。そう、そこまでしておいて俺はその禁断のバスケットの存在を忘却してしまったのである。

「ど、どこでそれを!?」
 俺はあやうく包丁を落としそうになった。切りかけのタマネギがゴトンと流しに転がり落ちたのを回収する。
 ああ、どうして俺はのんきに昼食づくりになど入ってしまったのか。
 愕然とする俺の目の前、ジローがバスケットの中身をソファーの上に落とした。最近カバーを替えたばかりのそこにかつて熱い夜を何度も過ごした恋人たち――さまざまな形状や色をしたディルドや道具がバラバラと落ちていく。うん、こうして改めて見ると俺、本当にいろいろ集めたよね。

「うぎゃあああ!」

 一口にコレクションといっても人に見せられるものと見せられないものがあるわけで、そしてこれらは俺の性的な好みと要求を満たすために買い集められたわけで、いわば「こんなふうにされたい」を生々しく表す願望そのものなわけで。
 それを白日の下にさらされてどうして叫ばずにいられようか。
 俺は恥も外聞も忘れてそれらを隠すようにおおいかぶさった。

「だめだめだめ、見ちゃだめ!」
「セイ、それは質問の答えになっていない。これは何?」

 半泣きになってわめく俺にジローは容赦しない。俺の腹の下からはみでていた「ツッパリ番長ジョニーくん」をむんずとつかむと俺の目の前につきつけた。ああ、相変わらず惚れ惚れするようなエラだなあ。
「セイは、こういうのがいいの?」
「そんなもの、つかんじゃいけません!」
 体に入れたり舐めたりするものなのでもちろん清潔にはしてあるが、自分以外の人間が持ってるのを見るのは気分的に抵抗がある。俺はジローからジョニーくんを回収しようとするが、ジローは逆に俺の腕をつかんで言った。

「こいつの方が好きなの?」
「……。ジロー」

 俺は困惑する。
 俺はこれまでジローを見た目通り「人間のように」扱ってきたわけだが、ジローの方はそれをどう感じていたのか、と思い至ったのだ。
 学習型AI機能付きディルド。その自覚が、ずっとジローにはあったのか否か。そのうえで俺の「ままごと」につきあってくれていたのだとしたら。
(さぞ困ってただろうな)
 腕をつかまれたまま、俺は空いている方の手でエプロンの肩紐を戻した。ジロー、と呼ぶとジローが腕を離してくれる。

「まず、……そうだな。おまえが今持ってるそいつは、『ツッパリ番長ジョニーくん』と言う。俺はジョニーくんがお気に入りだった。ジローから見ればいわば『前のオトコ』ってやつだな。うん、好きだったよ」
「……」
「わかるか? 『だった』、過去形だ。今はジョニーくんとはしてないからだぞ。そして正しくおまえの質問に答えるにはジローともしなきゃいけないが」

 俺はおどけるようにそこで肩をすくめた。
「俺に今、その意思はない」
「どうして? ぼく、そいつよりセイを くできる自信があるよ」
「うーん、……その質問についてはノーコメントだな。って、こらこら」
 ぐり、とエプロン越し、股間にジョニーくんを押しあてられて内心ドキッとする。この硬いのを腹とか内股に押しつけて遊んでたな、などと思い出してにやにやしていたからだろうか、ジローがむっとしたように頬をふくらませた。
「浮気だ!」
「浮気なの?」
 浮気にカウントされるらしい。ジローがパンツごとジャージを脱がそうとするので、俺もちょっと真面目に抵抗する。だから、しないって言ってるでしょ! め!

「じゃあ、セイはどうしてぼくを必要としたの?」
「――うっ!」

 躊躇したことで抵抗が弱まり、その隙にジローが俺の下半身を剥いた。さっきジョニーくんとのやりたい放題を思い出したせいで半勃ちになっているそこを、ジローのあたたかい手がふに、と揉む。
「さ、触っちゃだ――ぅんッ」
 3か月? 違うな、約4か月ぶりにそういう意図で触れられたからなのか、びりっと体が震えた。皮の上からゆるゆると先端をこねるようにされると、いじめられるのが好きな俺のちんこがはっきりと形を持つ。そう、それでこのままジョニーくんの硬い先端でぐりぐりするのが好きなんだ……♡♡

(って、ちがーーーーーーう!)

 うっとりとやらしい妄想にトびかけた意識をかろうじて引っ張り戻す。しっかりして!? 俺!?
 ディルドで人外だから法律的にはセーフかもしれないけど絵的には12歳の子どもだからね!? 社会が許しても俺の良心は踏みとどまらなきゃだめだ! 人間をやめるな!

「エ、エプロンが、汚れるからぁっ……!」

 なのに俺の口からは昼下がりのえっちな人妻みたいなセリフしか出てこない。ちくしょう完全にソノ気じゃねーか!
 いやまだだ、頑張れ俺! 負けるな!
 残った理性で股を閉じようと試みる。ともかく股間を隠せば、と両手をそこに伸ばしたものの、そんなもの、男からすれば煽ってるのと同じである。結果として俺は当初妄想した通りにジョニーくんの硬い先端でぐりぐりされることになった。

「あっあっん、そこ、そこ好きぃ……っ」

 ぐりぐり、ぐりぐり。
 ローションを俺とジョニーくん両方にぬりぬりして素股するように股間で挟んで上下させたり一緒にこすったり精液でどろどろのまま乳首をぐりぐりされたりまあ、いろいろ。すっぱだかなのにエプロンだけは外してもらえなくて、おかげさまでそのエプロンもとっくに俺の何度も吐き出したナニでどろどろのべたべたになってしまった。お気に入りだったのに。
「ぁう、んぅっ……は、あ」
 自分でするときの長所はなんといっても、「今」ほしいところ「今」してほしいことが自分の加減でできることだが、他人とするときの長所はやはりそれらが意のままにならないことだろう。もどかしかったり逆に刺激が過ぎたり、その駆け引きがいいのだと思う。ずっと自分で自分を支配してきた俺にとってジローのくれる支配は絶妙だった。翻弄され支配され、俺はすぐにジローの従順なしもべになってしまう。
 ジローがジョニーくんをぽいっと放ったときには俺はすでに仕上がったメインディッシュ、生殺与奪の権さえゆだねるありさまだった。

「あいつがどこまでできるのかだいたいわかったよ、セイ」

 ちゅ、とジローが俺の額にキスをする。短時間で性感帯として開発されてしまった乳首は真っ赤に腫れて、エプロンの生地が触れるだけでも声が漏れる。ぴくぴくとささいな刺激でも感じる俺を、ジローはにっこりと笑んで見下ろした。その股間ははちきれそうなほど盛り上がっていて、否、ファスナーをおろしたそこから飛び出たモノといったら、あのジョニーくんが小柄に感じるくらいだった。12歳の少年についていていいモノじゃない。こんなのを見せられた日にはショックのあまり、世界中の男性の9割が寝込んでしまうだろう。
「ぐりぐりされるのが、好きなんだよね」
「……ッ」
 耳元でささやく湿った声がエロい。両ひざを立てられているから、今のでしっかり反応した俺の尻はジローから丸見えだろう。じゅくじゅくに熟れきったアナルは期待をいっぱいにしてぶっといそいつをぶちこまれることを心待ちにしている。ああ、そうだ。俺は太くて凶暴なちんこにめちゃくちゃにされるのがたまらなく好きだ。好きなシチュは無理やり系だし、正直3Pとか4Pにあこがれさえある。
 だけど。

「だ、だめ……だ……ッ」

 イきすぎてぷるぷる震えさえきている手を伸ばして、今まさに侵入しようとしていたジローの性器を阻んだ。涙でぼやける視界でせわしなくまばたきをしてどうにかジローの顔を映すことに成功する。
「おねがい、だから……ッジロー、待っ……」
「やだ。ぼくの方がいいって証明する。そしてセイといっぱいいっぱいする」
「じゅ、18歳っ」
 ぐちゅぐちゅと口の中をかきまぜるジローの舌からやっと解放されて、飲みきれなかった唾液のあふれる口でどうにか俺は言った。できればふさぐのではなくこの指でアナルをかきまぜてしまいたいが、どうせ指では切なさが募るだけだ。そうすると自然、暇を持て余している自身に向かうわけだがこれはジローによって捕獲されてしまう。

「18歳?」
「そう。18歳になったら……好きにしていいから……それまでは」

 ぐす、と鼻をすする。
 涙が止まらないのは別にさんざんイかされたせいだけじゃない。少年としか表現のしようのない未成熟の子どもに好き勝手にイかされた挙句はしたなく乱れてしまった自分への情けなさでも、結局快楽という欲望に負けてしまった己に対する失望でもなかった。
 俺は俺なりにジローとの日々を楽しんでいた。誰かといることがこんなにも大変で、でも楽しくて幸福であることを知らなかった。ジローはさびしかった俺の毎日に色どりとやすらぎを与えてくれた。大事だったのだ。
 それがこんなふうに壊れてしまったことが悲しかったのだ。

(そうか俺、さびしかったんだな)

 だからディルドであるジローと普通の、まるで人間の子どもといるような生活を楽しんでしまった。俺はきっとずっと誰かのぬくもりを求めていたのだ。
「セイ?」
 泣きじゃくる俺の理由がわからないのだろう、ジローが困ったように俺をのぞきこむ。
「セイ、どうして泣いているの? 泣くほど嫌だったの? あいつの方がいい? ぼくは必要ない?」
「そうじゃない、そうじゃないよ、ジロー」

 そうじゃないんだ。お前は何も悪くない。
 だだっこのようにひたすらかぶりを振って返す。ジローのせいじゃないのだと。
 悪いのはジローのやさしさに甘えきっていた俺の方なのだと。


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