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#エピローグ
しおりを挟むせっかくいい男に成長してくれたので途中で服をプレゼントしたら道行く女の子たちの視線がすごかった。隣を歩く側としてはなかなか気分がいい。繁華街をぶらぶらして海が見える公園を歩いて夜は予約しておいたちょっといい店でディナー。まあ、デートコースとしては無難なところではなかろうか。しゃれでホテルもリザーブしておくべきかと思ったが、それは俺が恥ずかしいのでやめた。
「どうだった? 楽しかったか?」
「うん!」
それはよかった。帰りに買ったケーキを皿に分けてティーバッグを放ったカップに湯を注ぐ。ぽつぽつと今日一日をしずかに振りかえっているとあっという間にカップが空になってしまった。誰かとこんなふうにおだやかに時間を過ごす。共有する。それも得難い幸福の一つなのだと、俺はジローと暮らすようになって知った。
さて、そろそろ風呂にでも入るか。立ち上がって、ふとジローを見る。
「一緒に入る?」
「!」
特に深く考えての誘いではなかったが、ジローが顔を真っ赤にした。やば。ジローの反応を見て俺も自分の言葉が「お誘い」になっていたことに気づく。気づくが、かといってひっこめるのも恰好がつかない。
できれば最初はベッドがよかったんだけどなあ。
「う……ン、も、ジローっや、ぁっあ」
勃起したジローのちんこを股に挟んだまま後ろからねちねちと乳首をいじられ始めてどれくらいが経過したのか。まるで自分が今までどれほどこの瞬間を待ち焦がれていたのかを思い知らせるようにねちっこい前戯に俺は早くも涙目になっている。そうしながらときどき思わせぶりに腰を動かすものだから余計に期待が募って切ない。
もう自分でちんこを擦ってしまいたい。そのたびに俺はだらしなく濡れた自分の性器を握るのだが、そのたびにジローがやさしく呼び止めてくるものだからとうとう俺はその場に座り込んでしまった。
「いれて、いれてえ、……」
たまらずジローにすがりついて、許しを請うようにジローの凶暴なちんこを自分からくわえる。初めて見たときはナッツみたいに小さかったジローの性器、勃起した状態をちゃんと見るのはこれが二度目になるが改めて化け物みたいだと思う。化け物なんてレベルじゃない、もはや悪魔だ。その悪魔を、俺は懸命にしゃぶる。しゃぶりながらこいつが自分のナカに入って暴れまわる様を想像した。ごりごり、ごりごりと俺の隘路を無理やり拡張して俺自身でも知らないような場所をあっさり蹂躙する。そんな様を想像して俺は恍惚とした。ああ、いい、やばい。早くやって。今すぐ。
(イく…………ッ!!)
無意識にケツを床に擦りながらその瞬間を迎えようとした時だった。「すぽっ」と音がして口の中が空虚になる。なんと無情にもちんこを抜かれてしまったのだった。俺はケツを揺らしながら俺からちんこを奪った非情なる犯人を睨みつける。
「返せ、返せよう」
ああ、もうちょっとだったのに。もう少しでイけたのに。
俺は尻をあげ、ヒクヒクと卑猥にうごめくアナルに自分の指を入れる。とにかくこのもどかしいのをなんとかしたい一心で腰を揺らしてよがっていたのだが、これもやがて止められてしまった。
「セイ、すごく、えっち」
たまらない、とジローが熱く湿った声で言って。さびしくてもどかしくて切ないばかりだったそこに、ずこん、とぶっといちんこがつっこまれる。
「あっあ――」
自分が真っ白になったような感覚と同時、俺はようやく待望の射精をした。ここまでさんざんじらされてきたのだ、しばらく余韻に浸ろうと息をゆっくり吐いていると、ずこん、とまた体内をこすられる。
「え!? あっあっんっやっ俺、まだぁっ」
イってる。と、男は続けさせてくれない。
さっきまでさんざんもったいぶっていたのが嘘のようだ。さっきまでは欲しくてすすり泣いていたのに、今度は逆に与えられすぎてイきながらイく、という天国なんだか地獄なんだかわからない状態になる。むろん好きか嫌いかで問われれば好きなんだが、それは自分のタイミングとペースでやるからイイのであって、こんなふうに続けざまにされたらもう拷問みたいなもんだ。
「あんあっあっあっあッジロー、ジロー、おれ、しんじゃうっしんじゃうっ」
「うんうん、大丈夫だよ、セイ」
そんなふうになだめられながら気を失ったのが1回。そのあと湯船のなかで1回。2回目に突入する前に俺がのぼせたのでクールダウンのための休憩をはさみ、寝室に移動してバックで2回。正面で2回。
若さっておそろしい。
しかし若さっていうのは尽きがないから若さなのである。あと1回だけとおねだりされて再戦。ここで応じてしまったあなた、失敗です。往々にして男が床で求める「あと1回」はただのフラグであり前フリにすぎないのだ。ここテストに出ます。
上に載ってほしい、と要求されて俺はにっこりと笑った。甘い快楽の鞭で調教されジローの忠実な性奴隷と化した俺はご主人様のお願いを叶えるべく嬉々として、だがのろのろとジローの腹の上にまたがる。
「んぅっ……」
尻をあげ、依然豪傑のごとく猛々しく天を仰ぎおとろえることのないジローの凶暴なちんこを自分で挿入しようと俺は奮闘した。ここまでさんざんこいつに愛されてきた俺のアナルだ、入らないわけがないのに右にそれて左にそれて、また右にそれるを幾度か繰り返し、なんとか念願を叶える。ずぼっと再び迎え入れたときの達成感。だが性奴隷の仕事はここからだ。自分で腰を振ってご主人様をイかせないとならない。だが、すでに体力の限界を超えていた体は力を入れようにも入らずだらしのない軟体動物と化して俺はあいまいに腰を揺らすことしかできないのだった。
ここで初めてセックスの支配権を得たのだ。すわプロアナニストの本領発揮、といくべきなのに、俺はもう自分が以前どうやってイっていたのかわからない。あれ? 俺、どうやってたっけ?
「ジロー、じろー」
迷子のように泣きじゃくる俺にジローがやさしくキスをする。
「ごめんね、セイ。泣かないで。ねえ、いじわるして、ごめんね」
「早く、早く好きにして……ジロー、めちゃくちゃに、されたい」
「だめだよ、セイ。そんなこと言われたら、……止まれなくなっちゃうよ」
「いい…から……あッ、ヒァ、んっ、あっあっああっ」
腰をつかまれてめちゃくちゃに掘られる。
自分が以前どうやってアナニーをやってたのか、ジョニーくんがどういう形だったのか。全部忘れてすっかりジローの形に塗り替えられた俺はただジローのちんこにおぼれた。
「ね、もう、ジョニーくんじゃ満足できないね?」
ぐりぐり、ぐりぐりと俺の大好きな場所に何度もその硬いちんこを擦りつけながらジローが言う。セックス禁止の間もジョニーくんにずっと対抗心を燃やしていたジローだ、俺は「ばか」と笑った。
つまりそれって、俺はもう一生アナニーができないってことだろ。
「そうだよ」
汗だくの顔が笑った。そうしてキスをして、またつながりが深くなる。
体の感覚はとっくになくなって、もうジローの形しかわからない。力の入らない腕をなんとか動かして、俺はジローの背中に回した。ジロー、と吐息のような声で呼ぶ。
目の前がチカチカする。
そうだ。文字通りむさぼられながら俺は干上がった口を開いた。ジローに言わなきゃいけないことがあるのだと言葉を続けたかったのだが、ジローがそこに舌をつっこんでくる。同時、ジローがイッたのがわかった。
すき、と耳元で泣きそうな声が言う。
「好き、好き、セイ、好き……!」
うん、俺も、好きだよ。
答えた声は、ちゃんと聞こえただろうか。
+++
それから目が覚めたのは夕方だった。
あれ? 変だなと思って俺はスマホのカレンダーを呼び出す。だってジローとデートして帰ってきたのは夜だった。
(つまり俺は丸一日寝てたのか……)
まさかと思いつつ有休をとっておいてよかった。俺は自分の判断に心の底から感謝する。
「あのう、……セイ?」
枕に顔を伏せていると入口からジローが呼んだ。でかい図体でかくれんぼでもしてるみたいにのぞいている。特別強く叱ったことはなかったはずだが、怒られることをしたと思うとジローはこんなふうに俺のご機嫌をうかがってくるのだった。思い出して、俺は肩を揺らして笑ってしまう。
「って、いたたた……」
腰というか腹というか股関節というか、とにかく下半身が痛い。喉も痛いけど。
「セイ、大丈夫? 水、飲める?」
「助かる……」
ジローに体を起こしてもらって水をゆっくりと口に含む。そこで初めて俺は自分がシャツを着ていることと、直視できない状態になっていただろうシーツが清潔なものに替えられていることに気づいた。枕カバーまで替えてある。
「ありがとう、セイ」
再び俺をベッドに寝かせてからジローが言った。情事のときにはさんざん俺のなかをかきまわしたり体を好き勝手にしていた意地悪な指が大人びたしぐさで俺の髪を撫でる。
「セイと過ごして、楽しかった。もう大丈夫だ」
「うん、それなんだけどさ」
別れの言葉を口にしようとしたのだろう、その一拍をすくいとって言った。帰らなくていいんだ、と。
「ずっと一緒だ」
ぽかんとしているジローに俺はゆっくりと繰り返す。
「ずっと一緒だ、ジロー」
値のことはあえて言うまい。そういうのは野暮ってもんだ。
「セイ……!」
やがてジローの目がきらきらと輝きだした。喜びに満ちたそれがまたたくまに水分をたたえてとびこんでくる。
「セイ、セイ!」
「あははは、びっくりしたか?」
「した! もっと早く聞きたかった……!」
「悪い悪い。ほんとは昨日言うつもりだったんだが」
調子にのってジローを煽りまくった挙句に落ちちゃったからなー。
喜ばせるつもりが泣かせてしまったジローをあやしながらあらためて「ごめん」と言う。ジローが首を振って顔をあげた。
「ずっと一緒なんだね」
「ああ。病める時も健やかなるときもってやつだな」
「”病める時も健やかなるときも”」
生まれてまだたった180日を過ぎたばかりの少年にはまだその誓約の意味がわからないらしい。俺はくすんと笑ってジローの耳元で教えてやる。
「愛してるよ、ジロー」
キスをすると、ジローが初めて俺の名前を呼んだときみたいに笑った。
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