アイドルグループ脱退メンバーは人生をやり直す 〜もう芸能界とは関わらない〜

ちゃろ

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やり直し 10歳

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10歳になる年。
それは俺の人生の第1の分岐点である。
死ぬ前の人生で俺は10歳になった頃、母親が勝手に履歴書を送った芸能事務所のオーディションを受けることになった。
そこで審査員をしていた社長に気に入られ、見事合格。事務所が開いている養成所からのスタートになるが、俺はこのオーディションから芸能界への階段を昇り始めた。
ここが俺の分岐点だった。




「母さんッ!!!!」
「ん?莉音?アンタ確か今日ダンスの日じゃなかった?」
「体調悪くて早退した!!」
「普通に元気そうだけど…?」



首を傾げる母親に構わず俺は詰め寄る。




「母さんオーディションに履歴書勝手に送ろうとしてるだろ!!」
「え、何で知ってんの?」
「やめてくれ!俺、芸能界に興味ないから!!絶対に送らないで!!絶対だよ!!」


俺は母親の服を掴みながら必死に言う。



「えぇ……アンタなら受かりそうなのに」
「そりゃ俺なら確実に受かるけども」
「受けてもいないのに何この自信」



残念そうに呟く母親についいつもの調子で答えてしまった。事実だから大目に見てほしい。そう思いながら俺は母親に絶対に送るなよ!!と念を押す。言っておくが決してフリではない。




「芸能界に興味ないならダンスどうするの?続けるの?」
「できたら趣味で続けたいけど、辞めろっていうなら辞めるよ」
「まあやっておいて損はないから好きにしたら?アンタも楽しそうだし」



こういう時、寛容な母親で良かったとありがたく感じる。



事務所に入ることがなければレゾブンメンバーと関わることもなく、俺の人生は前回と違うものになる。
あとは伊月とさえ関わらなければきっとお互いに不幸な道を歩むことはないだろう。
こうして俺は自分の人生の分岐点を変えることに成功した。







と、思っていた時期が僕にもありました。



「……莉音くん、オーディション受けないの?」
「え、なに?なんのこと?」



俺はあれから伊月と距離を置こうと決めていた。このダンススクールに通ってる限り、無視まではできないが、学校が違う為、距離さえ置けば伊月と深く関わらないだろうと思っていた。
なのに何故、伊月に詰め寄られているのだろう?



「莉音くんのお母さんがオーディション受けさせようとしたけど、本人が嫌がったってうちの母さんが言ってた」



そうだったー!!!!
うちの母親と伊月の母親仲良かったんだったー!!!
俺はすっかり忘れていた。
死ぬ前の人生、母親経由で俺がオーディションを受けることを聞いて伊月も応募したということを。
何故忘れていたんだ俺!!!


俺はジリジリと迫り来る伊月から逃げたくて顔を逸らす。俺は壁を背に退路を塞がれていた。




「何でオーディション受けないの?」
「な、なんでって……」
「莉音くんなら絶対受かるよ?」



俺の顔の横に手を付いて、伊月はグッと顔を近付ける。これは壁ドンというやつなのだろうか。
追い詰められてる感が強くて、ドクドク早くなる心臓は決してときめきからじゃなく、恐怖からバコバコ暴れている。距離感の無さが怖い。




「お、俺、実はサッカー選手になりたいんだ……」
「莉音くんサッカー下手だよね?」



こいつ……!!
俺は確かにサッカーが下手だ。ドリブルすら上手くできない。それは事実だが、こうはっきり言われるとなんかムカつくものがある。
こういう遠慮のなさは伊月だなとも思った。



「ねぇ、嘘つかないで本当のこと言ってよ」
「う、嘘じゃない……」
「俺の目見ながら本当のことちゃんと言って?」



顎を持ち上げられ、強制的に伊月の方へ向かされる。伊月の眼はまるでゴミでも見るような冷たさを含んでいて、俺は余計にビビって身体を竦ませる。



「い、嫌だったんだ……」
「どうして?」
「俺、普通にみんなと遊びたいし、これ以上習い事で時間が無くなるのどうしても嫌で……」



伊月怖い。
さすがに「お前やレゾブンのメンバーたちと会いたくないからだよ」と本当のことを言えるはずもなく。俺は鼻を少し啜りながらそれっぽい言い訳をする。何とか伊月は納得してくれたようで俺はホッと肩の力を抜いた。




「莉音くん?今回は騙されてあげるけど次はないからね?」



伊月は静かな怒りを宿した瞳でニッコリと笑ってそう言った。前の人生、伊月とは長い付き合いだったが、伊月が俺に怒りを向けることなんて最後以外には1度だって無かった。俺は震え上がる。
今世に伊月様が誕生した瞬間だった。









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