黒鬼の旅

葉都

文字の大きさ
28 / 70
第二章 地の底の緑

第四話 昼の通り道

しおりを挟む
細い道の両脇に、雑然と立つ建物たち。

お昼時の光を、土壁が照り返す。


茶色く日に焼けた身体に、袖のない白いシャツ、黄土色のズボン。

黒い長袖の上着を腰に巻き付けた少年、コレウセは通りすがりの人物の視線の先を見て、声をかけた。


「おいしいよ。」


視線の先、コレウセの家の前にある長い台には、食べ物がのった皿がたくさん置かれている。

赤や、緑色の野菜や、肉の料理の中で、子供の頭ほどの大きさの丸い黄色いものが、ぼん、と異様に目立っていた。

その人物は、コレウセに勧められた、背もたれのない三つ脚の木椅子に座る。

黄色の丸いもの、このあたりの主食となるマルモを、渡された箸でつついている。

ほろほろと、カケラが落ちた。


「食べないの?おにーさん…?うわッ?!ソイツ?!」


マルモを、横から白い小鳥がつついていた。

フワフワの白い毛帽子をかぶった小鳥は、群青色の目を見開き、ムシャムシャと食べている。

気にしない様子の少年に、小鳥からそろりと距離を取ると、コレウセは台の上に頬杖をつき、客人たちを眺めた。


「おにーさんどこの国から来たの?そんな服初めて見た。」


その人物は、白い長衣と茶色がかった黒のズボンを身に付けていた。

艶々の美しい白の衣には、パラリ、パラリと、太陽や雲が、玉虫色をした糸で散りばめられている。

揺らめく茶色の髪、すっぽりと円柱型の白い帽子をかぶった少年は、黒い長布を首元に巻き、これまた黒い手袋と、黒い靴を身に付けている。


『…空から』


少年は、人差し指を空に向けそう言うと、横でマルモを啄んでいた小鳥が、ピトピキュ鳴いた。


『…間違えた。北の……「ピトピヒャラ」から来た僧侶だ。』


途中、小鳥の鳴き声で聞き取れなかったが、コレウセは頷いた。


「ソウリョ?ふーん…おにーさんの服、その服なんだ。キレイだよな。

…あ、虎がいるー。虎は、このあたりじゃ、神聖なんだぜ。あっちの山、タウランガ・テナタっていうんだけどさ、"巨人の牙"って意味。あの山、ずっと氷で覆われてて、登ったやつはいないんだけど、あの山のてっぺんにかかる雲の先には、神様が住んでいて、真っ白い虎の姿をしているんだってさ。」


コレウセは、白い長衣に描かれた虎の模様を指差し言った。

小鳥が、コレウセをその空色の目で見て、ヴィッタッタピナと鳴いた。

少年は、白い唇を開いて、マルモを箸で口の中へ運んでいる。

それにしても血色が悪い、とコレウセは思う。

家の白壁や、雲のように真白い。

揺らめく茶色の髪と茶色の目と、優美な顔立ち、陶器でできた人形のようだ。

少年は、コレウセをちらりと見て、身に付けている白い長衣を指差した。

指の爪まで白かった。


『…オレたちもいる。』

「?」


少年が無表情にそう言って指差すところを、コレウセは見た。

白い長衣に、太陽を囲む虎たちの模様があった。

その隙間に、灰色の小人と鳥がいた。

虎の足先くらいの大きさだ。

目を凝らさないと見えない。

コレウセには、少年の言っていることが意味不明だった。

が、とりあえず言った。


「ちっせえッ!」












毛皮への侮辱に怒り狂い、黒朗に襲いかかっていた虎たちだが、そのうちの1体が、むしりと、己の毛を一掴みして黒朗に向かって叫んだ。


[駄毛かどうか、試してみろ!!]

『……?』


そうだ、使わずに何を言う、と他の虎たちも言って、むしりと、した。

各々の毛を、集めて、集めて、集まった白毛の小山の周りを数十体の虎たちが囲み、順々に何かを言った。

すると、白い毛が太陽の色に染まり、くるくると舞って、固まって、白い長衣と帽子になった。

そして、元々、黒朗が着ていた黒い着物と茶色の袴も、むしりとされて、茶色がかった黒のズボンと、黒い長布と、黒手袋と黒靴に変えられた。

着てみると、それらは、黒朗の沸き立つ力をなかなか良く押さえた。

そして、その衣服に、虎たちは色移の能力を付けた。

黒朗の灰色の髪が、肌が、人間たちに違和感のない色彩と見えるようにする能力である。

灰色の髪と黄色の目が茶色く、灰色の肌は、白色へ。

ついでに、灰色の小鳥にも、フワフワの白い毛の帽子が作られた。

その帽子をかぶると、小鳥の邪悪な黒目が、空色のつぶらな目に、灰色の身体が、白色に変化した。





ごと、と、台の上に、赤いタレがからまった太麺の皿がのった。

奥にいた中年の女性が、厨房から運んできたのだ。


「どうしたの、コレウセ。あら、この鳥ちゃんは…」


太麺を、ピヒャラと鳴いてすすり始めた小鳥をつまもうとした女性の手を、黒朗の白い手が掴む。


『…邪魔をするとつつく。…大丈夫だ、金なら払う。』

「あら、そーお?うふふ」


黒朗は、懐から薄緑色の袋を取り出した。


「母ちゃん、何でれでれしてんだよ。」

「だってー、かわいかっこいい子じゃなーい。」

「きもいこと言ってんじゃねーよ。」

「何ですって?ひどいこと言う子だわ!」

「いた、いたい、ほおはなしぇ、とーちゃ、にいいつけ、か、な」


黒朗は、小指の先ほどの銀色の粒を机に置いた。


『…これで足りるだろうか?』

「えー、多いわ…あら、小鳥ちゃんが、全部食べちゃいそうだし、いいかしらー。あと5つちょうだいな。」

『……。』


白い小鳥は、台の上に置かれた山盛り料理をはじからはじまで食べ尽くそうとしていた。


「あのちっさい身体のどこにいってんのこの料理、おかしいだろー。」


コレウセは、目と口をあんぐり開けて、小鳥の食べっぷりを眺めた。

黒朗は、薄緑色の袋の中身を台の上にひっくり返す。

3粒の銀が、転がった。


『……。』

「あらー。」







ダフネは、ふと気になる気配に目をやった。

昼時、屋台が建ち並ぶこの通りは、人が多い。

けれど、見失うことはなかった。

白い帽子、白い衣の上に茶色いエプロンを身につけた少年が、立っていた。

立ちふさがった長身の厳つい顔つきの男を無表情に見上げる。


『…いらっしゃいませ。』

「ちっげーよ、クロー!あ、ダフネ隊長いらっしゃい!にっこり笑って、いらっしゃいませー!お客さんには愛想良くだよ。」

『…大丈夫。必要ならどうせ買う。』

「どんな態度だよ!いいか、おんなじ値段で、おんなじ食べ物食えるとして、嫌な態度の店員と感じのいい店員とじゃ、絶対感じのいいほうがいいだろ?!」

『…別に、そういう人間には慣れてる。』

「おまえじゃねー!普通の人間はな、嫌なことは避けるんだよ!」

『……。』

「何だその目!』

『…逃げるのは良くない。』



ダフネは、言い合う二人の少年の向こう、小さな籠に近づく。

籠に敷かれた布の上で、白い小鳥が眠っていた。

ダフネは、その姿に目を見張る。


「そうだな、逃げんのはよくねーよな。おまえもだ。」

『…やめろ、顔をこねるな。』

「いーから、こーだよ、こーんな感じで口を上げるんだよ!」

「オオオオーーーーーーー!!!」


突如、男の野太い叫びが上がった。


「オオオオ!!」


ダフネ隊長が、小さな籠を抱え震えていた。


「ダ、ダフネ隊長?どうしたの?」


おそるおそる声をかけたコレウセは、振り返ったダフネ隊長のぐしゃぐしゃの泣き顔にヒッと声を上げた。


「…神がいた。」


ダフネ隊長は、褐色の髭を涙で濡らしながら、籠を高々と頭上に掲げた。




「神がいたぞーーーーーーーーーーーー!!」










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...