おとぎ話の造形屋

蜂須賀漆

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(12)金の卵を産む雌鶏①

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魔法の学習は、座学の時間数はそれほど多くはない。
各々の魔力をどの程度体外に放出できるかと、それを使ってどう魔法をかけるか、どういう魔法が使えるかについて、全ての点で個人差が激しいため、学校で教えられるのは基本だけで、後は自己研鑽と本人のやる気に任せられていた。
それでも、職業として魔法を扱っている魔法利用者が一定数いるため、学校でもかけ方の実践に重きを置いて授業時間を設けていた。
さまざまな例を知り知識として蓄えておくことで、自分で試行錯誤する時の候補が増えるだろうという観点から、学外の魔法利用者を招くこともしばしば行われた。
州内で活躍者が少ない分野については、州外から人材を招くことも行われており、大概の州で同じような状況であったため、そういう人材は引っ張りだこにされていた。

イーデン・マクドネルは、そういうわけで今週もまた教壇に立たされていた。
今日の依頼はスタフィー州バーミアの中等教育学校で、卒業前の最高学年ということだから、前の学校よりはまだましではないか、と淡くもはかない期待を抱く。
早期教育を推進するという社会的要請があるのは分かるが、講義の内容を理解できる国語力を持たない者に先取りをさせようとしても無駄だ。
そもそもイーデンが魔法利用するのは、農作物の品種改良のほんの一部にであり、まず品種改良とは何ぞやというところから説明を始めなければならない都合上、どう頑張っても子供向けにはならない。
イーデンは元来人前で話すのが苦手な上に、子供に分かりやすく授業をするために仕事をしているのでは決してない。
事実、前の学校では、理解のできない子供達は早々に遊び始めてしまい、歓声と教師連の怒声とが飛び交うカオスと化し、収拾がつかなくなった。
頻繁に駆り出されて本業が圧迫されるだけでもデメリットなのに、と少なくとも先週のあの学校は、オファーを受けても二度と行かまいと心に決めた。
帰り際に断って来れば早かったのだが、面と向かっては強気に出られない性格も災いを招く一因になっていた。

「えー、私は一応職人とは呼ばれておりますが、器物などの、いわゆるものづくりの職人ではないのでありまして。
私は農業分野において、品種改良という限られた範囲で、魔法を利用しているに過ぎないのであります。
ですから、正確には職人とは呼べないのではと日頃思っているところなのですが、国は我々をも職人に含めて統計を取っているので、まあそれに従って面倒でも職人という看板をぶら下げております」

生徒は80人程度と聞いていたが、教員を除いても明らかに100人を超えている。
実際は興味を持つ地域住民が聴講していて、よく見れば後ろの方に、生徒にしては年齢が高すぎる顔が混ざっているのに気づいただろうが、話している間はとにかく上がってしまうので、誰が増えてこうなっているんだと混乱する元になった。

「それでですね、今日は魔法の使い道ということで説明して欲しいというご依頼だったんですが、品種改良ではどういうことをやるかというのを先に説明しておかないと分かりづらいと思うので、そこから話します。不明なところがあればその都度聞いてください」

そこで一旦聴講者を見渡したが、顔を上げている者は皆イーデンを凝視するばかりで、特段の反応を示さない。
こういう場所に、いつまで経っても慣れることができないイーデンは狼狽えながら、心持ち上擦った声で「それでまず、品種改良というのはですね」と本題に入った。
   
「品種改良はですね、大雑把に言いますと、植物や動物について、有利な性質を持った個体を掛け合わせて交配する、要するに子孫を作ることを繰り返していって、目指す特徴を持った子孫を作り出すためにやるのであります。
例えば、皆さんが日頃食べているパン、あれは小麦からできていますが、病気や寒さに強くしたり、粒の数を多くして収穫量を増やしたりするのに、品種改良は魔法とは関係ないところで昔から行われて来ました、いや今でもやってます、あと最近は魔法を取り入れてる場合もあるみたいです、私はやってないので詳しくは分かりませんが。
私が最近手がけたもので言うと豆ですね。
依頼があって作ったんですが、何に使うのか全く分かりませんけれども、生長すると蔓が雲まで届くくらいに伸びて巨大になるという豆でした。
ただあれは品種改良とは言わないですかね、あんなに巨大な豆、収穫するのも一苦労、加工するのも一苦労でとても改良とは呼べませんが、あれも作業としては同じことをしたんで、一応含めておきます」
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