立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

eggman

文字の大きさ
56 / 70
キサラギの里編

第53章 交渉

しおりを挟む
メタル達の前に姿を現した、キサラギ家当主ジルは、掛け軸を背中にして上座に腰を下ろすと、口角を結んだまま、鋭い視線で3人を順に射た。

「お前達の用件と、ティルのことは、伝令から話を聞いている。家を飛び出して行ったきり、どこで何をしているのかと思っていたけれど、まさか鋼魂精鋭隊に入っていたとはね。」

気炎とも溜息ともつかない一息で、肩を揺らす。

家出したティルのその後は、本当に今まで知らなかった様子だ。確かに、今まで密かにキサラギの里の者がティルの後をつけているような気配や、捜索願いが出ているようなこともなかった。魔獣が暗躍する世の中に1人娘が飛び出して行ったというのに、なかなかのスパルタといえる。

「それなら話が早い。ティルを助けるために、里が所有している古代超文明のアイテム、オーバーテクノロジーを使わせて欲しい。ティルは、精鋭隊の貴重な『戦力』だ。
可能な限り急ぎたい。この里にも危険が迫っているかもしれないからな。」

ジェノは、組織としての立場から言葉を選んで、単刀直入に告げた。

「そして、危険から守るために、オーバーテクノロジーを軍の管理下に置かせろ、とでも言うつもりかい?」

「・・・!」

切り出す機会をうかがっていた話を先に口に出されて、ジェノが言葉に詰まった。

「この里を守る隠蔽の術と『神隠しの森』は、キラサギ家の遠い御先祖が残したものだ。確かに強力だが、絶対だとは思っていない。だが、それでも我々には、自分達の身は自分達で守り続けて来た。それだけの武と、誇りが、キサラギ一族にはある。」

ジルの眼光が鋭さを増し、彼女の周囲の景色がほのかに揺らめく。魂気を実際に発したわけでもないのに、その実力はビリビリと伝わって来た。

だが、怯むわけにはいかない。

「ティルは、オレ達の大事な仲間なんだ。力を貸して欲しい。」

「ずっと眠ったままですけど、ティルもきっと、お母さんの助けを待っていると思うんです。」

メタルとレイチェルが、別の視点からすかさず訴えた。

しかし、ジルは表情を崩さない。

「オーバーテクノロジーは希少品。この里にとって貴重な財産だ。オーバーテクノロジーの研究から得られた知見や技術もだ。
もし、迂闊な使い方をしてアイテムが壊れてしまうことでもあれば、それは大きな損失だし、技術の流出も懸念材料だ。あれは、使い方を一歩間違えれば、里に災いをもたらすかもしれないものだからね。」

「それは百も承知だ。」

ジェノは固唾を飲みながらも、じっと話の続きを待ち、相手の出方を見る。
ジルは湯呑みを口へ運び、茶を一口含む。

「経緯はどうあれ、ティルはこの里にとって『抜け忍』だ。抜け忍を簡単に許して、里の規律を乱すことは出来ない。自分の娘であるかは関係ない。
抜け忍のためにオーバーテクノロジーを使わせることも出来ない。まして、軍に引き渡すなど論外だ。」

「な!」

「・・・っ!」

メタルが思わず怒声を漏らし、レイチェルは顔に影を落とし、口元を押さえた。

「血族だけがキサラギ一族ではない。当主として、抜け忍のために里の財産を毀損することも、一族に不利益をもたらすことも出来ない。以上だ、引き取り願おう。」

カン、と音を響かせて湯呑みを机に置くと、ジルは言葉を切った。

「何で、何でそんなことが言えるんだ!」

「ひ、酷いです。」

メタルは掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出し、レイチェルは信じられないとばかりに青ざめて、涙を浮かべさえした。

「軍からは、場合によっては強制的にでも、オーバーテクノロジーを持ち帰る許可が出ている。手荒な真似はさせないで欲しいな。」

「・・・ほう?手荒な真似をすれば、持ち帰れるとでも思っているのかい?」

痺れを切らしたジェノが決定的な一言を口走り、一触即発の空気が流れる。

そんな時、もう1人別の影が応接間の入り口に立つ。

「みんな落ち着いて。ジルさん、僕からも頼めないかな。」

場違いにさえ感じられる、伸びやかな声で口を挟んで来た。

濃い髪色をした、細身の男性が静かに現れた。
忍び装束の上に白衣を羽織った独特の出立ちで、メガネの奥にある丸みを帯びた目は、ティルの人懐っこい目つきを思い起こさせた。

「バン、何しに来たんだい?」

忌々し気にジルが睨む。

現れたのはバン・キサラギ。キサラギの里の技術開発責任者にして、ティルの父親だった。

穏やかな視線を向けると、上座側、ジルの隣に着席した。
一目で強豪の魂気使いであることが分かるジルとは違い、武闘派の気配は一切と言っていいほど感じられない。

「あなたは黙っていなさい。この話は、当主である私に預けてもらいます。」

視線を合わせずにジルが低く言い放つ。

「そう言われると、立つ瀬が無いね。」

バンが、参ったとばかりに苦笑を浮かべ、沈黙が落ちる。

「(夫婦⁉︎ということは、これが、ティルのお父さんか。)」

思い出したように、獅子脅しの音が1つ。

「それに、ティルが勝手な真似をしたのは、何かにつけてあなたが甘やかし続けて来たことが原因だよ。」

言わないと気が済まないとばかりに、ジルが付け加える。

技術者としてのバンの技量は、ジルも認める所ではあったのだが、キサラギ家に婿入りした身である夫の立場は、事情を知らないメタル達の目から見ても、何やら弱そうだった。
そういえば、父親が正面から母親に物申しているのを見たことがないと、ティルがぼやいていたことがあったような。

「さっきの話だけれども、オーバーテクノロジー『黒き十字架』のレプリカを使うのはどうかな?レプリカなら、本物ほどの危険はないし、万が一壊れても時間をかければ作り直せるからね。」

バンが鷹揚に、話を戻した。
口調は穏やかながらも、その声には静かな熱を帯びているように思えた。

「レプリカ⁉︎そんなものがあるのか?だったら頼む、ティルか助かる可能性があるなら、何でもいいんだ。」

思いがけず提示された別の可能性に、メタルの声に自ずと力がこもる。

「オーバーテクノロジーの知見を持ち出すことには違いない。許可できないよ。」

またもやジルが切って捨てるが、その声は、一触即発になった時に比べれば、いくらか落ち着きを取り戻していた。
それを見たジェノも、冷静さを取り戻し、思考を巡らせる。

「(この当主は、情では動かない。動くことが許されない。あるいは、本当にそもそも情が無いか・・・。かと言って、熱量や力にも屈しないだろう。求められているのは、理か。)」

改めて観察すると、ジルの目つきは、メタルの眼差しを冷たく見下ろしながらも、僅かに揺らぎ、まるで『それ』だけじゃダメなんだ、と告げているようにも思えた。

「それならティルをこの里に運んで、ここで処置をさせてもらうのはダメかな?それなら、技術を持ち出したことにならない。」

メタルも、ここぞとばかりに熱を込めて畳みかけた。

「キサラギ一族にとって、この件でメリットはあるのかい?」

それでも、ジルの厳しい一言が返ってくる。
その目つきは、まるでこちらを試しているようだった。

「メリット・・・!そんな言い方・・・!」

レイチェルが思わず言い返しかけるのを、ジェノが制止した。

「オーバーテクノロジーの研究成果を、軍の依頼で実証実験出来る機会だろう。もし、レプリカの実用性が確かめられれば、里にとっても意味のある話のはずだ。」

ジェノの言葉を聞き、ジルの目つきがかすかに熱を宿す。
手応えを感じ、ジェノの目に光が灯ると、それを見たメタルとレイチェルも、それぞれ『理』を乗せて畳みかけた。

「ティルのことは、抜け忍じゃなくて、あくまでオレ達の仲間、軍の人間として扱えばいい。」

「ティルはとっても頼りにされてるんです。せ、成功したら軍からも、十分な見返りが期待できるハズです。」

ジルの口角が僅かに上がり、安堵が滲む。

「ようやく、商談らしくなって来たね。」

使用するのはオーバーテクノロジーのレプリカ、ティルの処置はキサラギの里領地内で実施、実証実験の成果の所有権はあくまでキサラギ一族、軍からの成功報酬を確約することで話がまとまった。

獅子脅しの音が、一際高く響き渡った。




























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉
ファンタジー
誰も傷つけないよう付いた嘘が暴かれる時、誰よりも優しい青年の真実が明らかになる。 悪逆非道な侯爵家に生まれたリトスは、王太子妃を狙っている妹の野望を阻止し、実家を良い感じに没落させて、自分は国外追放されたいな~と考えていた。 軟派で無能な侯爵令息を装い、妹の対抗馬である庶民出身のテレサ嬢を支援したり、裏でいろいろ画策していた。 しかし、リトスの完璧な計画は、国外から招聘された有名な魔術師レイヴンによって徐々に暴かれていく。 リトスとレイヴン、二人の【星瞳の魔術師】が織りなす、オリジナル世界観の異世界ファンタジー物語。 ※女性向けハイファンタジー&ブロマンス作品です  恋愛がメインではないので既存の女性向けカテゴリに分類できず・・主役二人の関係性はBLに近いです。  主人公最強、かつ相方も最強で、対等に戦うライバル&相棒です。  主役二人が水戸黄門よろしく事件を恰好よく解決していくお話になります。いっそ文芸の方がいいのかも? ※カクヨム、エブリスタ、Talesで連載中。掲載サイトによって進行がちがいます。  また、番外編の掲載の仕方も各サイトの仕様に合わせて変えています。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...