立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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入隊試験編

第8章 入隊試験開始

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ガンダラ王国。

人間と魔獣が支配圏を巡り鎬を削る世の中において、干渉地帯を挟み、最も魔獣側の支配圏に近い位置に領土を持つにも関わらず、魔獣側の侵に屈することなく、人間側の隣接国からも一目置かれ続けている軍事大国である。

その戦力は、潤沢な軍事予算と、魂気使いを育成するノウハウによって、裏打ちされていた。

魂気は、人間の魂が発する生命エネルギーそのものを、可視化できるほどに練り上げたオーラである。

鍛錬を重ねることで、自分の意思で操り、肉体を補強し、魂気未習得者とは比較にならないほどの膂力、耐久力を得ることを実現する。また修練によって、個々人の特性や信条に応じた特殊能力を身につけることを可能にする。

魂気自体は、常人であっても微弱ながらに有してはいるが、それを自覚し、自分の意思で操ることができる者は、相当に希少であった。

ガンダラ王国では、教育制度を通じて魂気の概念を国民に教え、その習得方法や鍛錬方法を体系化し、他国とは比較にならない数の魂気使いを排出することで、他の追随を許さない戦力を実現していた。

魔獣に関連する事案へと対応を専門とする、軍直轄組織『モンスターフォース』。その中でもさらに、力を認められた魂気使いのみで編成される特殊精鋭部隊、それが『鋼魂(こうごん)精鋭隊』であった。

精鋭隊への入隊を決意してから早一月、軍の施設で怪我の療養とリハビリ終えたメタルは、入隊試験に臨むべく、ガンダラ王都に足を運んでいた。

やはり王都は活気がある。
人の往来も街並みの洗練された感じも、故郷の街とは全く違っていた。

「『魂鋼精鋭隊』への入隊試験の会場は、ガンダラ軍の演習施設内か。もう1回、受験資格と入隊条件を見ておこうかな。」

会場へと続く道の途中で手元の資料を見返していると、後ろから声がした。

「受験資格その1 、最低限魂気の使用ができること。経歴は不問。
その2、モンスターとの実戦経験があること。
その3、この先死ぬことがあっても、絶対文句言わない。
ざっくり言うと、こんな感じだよね!」

ティルが、メタルが持っているのと同じ、入隊試験の受験要項を片手に、受験資格の要点を高らかな声でそらんじていた。

「ちょっと久しぶりだね!1週間前に退院して以来かな?今日は頑張ろうね!」

まっすぐな目つきで両方の拳を胸の前でギュッと握っている。張り切っているのが伝わってくる。

「本当にティルも入隊試験受けるの?なんか、巻き込んじゃってるみたいだけど。」

「大丈夫だよ、私だって受験資格は満たしてるし、それに、バルトスさんからも見所ありそうって言ってもらえたし、なんかやる気出ちゃって。頑張るぞ!」

本当はそれだけではなかった。
バルトスから何者なのかと問いかけられた際、
すぐに答えを出せなかったことが、あれから引っかかってしまっていた。

「(『飛行少女』か。やっぱりちょっと、地に足着いてない、、かな。)」

入院中、メタルの生い立ちや、精鋭隊への志願を決意した経緯を聞いたときには、同い年なのにちゃんと自分の生き方を考えててすごいな、と素直に思った。同時に、実家を飛び出したもののこれといった目的意識を持てないでいる自分が、輪郭のふわっとした、ひどく頼りない人間に感じられてしまったのだった。

「あ、それに褒められて嬉しかったからだけじゃないよ。私やメタルぐらい魂気が使える一般人って、実は珍しくって、モンスターフォースからもスカウト対象になる『特記戦力』らしくって。まだしっくり来てないけど、自分が役に立てるなら、やっぱり何かしたいなって。世の中のために。」

ティルなりに考えや思いがあっての行動らしい。あれから、ティルの実家のことや、勢いで飛び出していたことは、話に聞いていた。行きがかりで出会ってから、思いがけず行動を共にすることになったわけだけれど、頼もしいのは確かだ。

「分かった、よろしく頼むぜ、『飛行少女』!」

冷やかすようにティルに笑いかけると、再びメタルは会場へと続く道を歩き始めた。

受付を済ませた受験者たちは、一同に施設内の多目的ホールに集められた。見渡したところ、30名ほどの顔ぶれが揃っている。各々、視線を合わせることはなく集中を高めている様子だ。

壇上には、がっしりとした体格で軍服姿の、年は40代そこそこと思われる男性の姿が。マイクの調子を確かめながら、入隊試験の概要とルールについて改めて説明を始めようとしていた。いかにもベテランといった風格の持ち主だ。

マイクの音が会場に響き渡っているのを確認すると、軍服の男性が話し始めた。

「あー、一次試験の進行を務めさせてもらうガルドという者だ。一応確認しておくが、ここにいる者たちは、最低限、いつ死んでも構わないという覚悟は持ってるってことでいいな?」

会場がどよめく気配は、微塵もない。

「うむ、よろしい。その上で、力を示してさえくれれば、どんな奴かってことは問わねぇ。聖職者からムショ上がりまで、分け隔てなく歓迎する。それが、ガンダラ軍の実力至上主義だ。」

なるほど分かりやすい。
確かに受験者の風貌や年齢は皆バラバラだった。いかにも武闘派という感じの成人もいれば、メタルたちとあまり年が変わらないであろう年少者の姿もあった。また、これ見よがしに尖らせたモヒカン頭に、襟元や袖口に黒い羽飾りをあしらった、真っ赤な羽織をまとった、体格のいい男も目を引く。(世紀末に暗躍する悪党かな?)明らかに目付きが堅気ではない。
少し見回すだけでも、受験者層の幅の広さが感じ取れた。

「私たちと同じくらいの子も来てるね。後で話しかけてみようか?」

ティルは、ツインテールの少女の方を見て、メタルに小声で伝えてきた。黒いローブを纏い、先端に宝石のような意匠をあしらった、自分の身長ほどもある杖を手にしている。
一見、ぼんやりとした雰囲気だけれども、内に何かとてつもないものを秘めていそうな、独特の空気を纏っている。

「遊びに来てるんじゃないんだぞ、もう。まぁ、気になるのはわかるけどさ。」

壇上では、ガルドが試験の説明を進めていた。

「さて、肝心の一次試験の内容だが、まぁ至ってシンプル。魂気の総量の測定だ。魂気が使えることは大前提だが、諸君の力量がどの程度なのかを振り分ける目安として、順番にこいつを使ってもらう。」

人の顔ぐらいの大きさの箱状の物体に、片手で握れるほどのグリップがついた、見たことのない器具を取り出した。器具の表面には、小さなモニターのようなものが付いている。握力計をイメージさせる形状だ。

「魂気を非常に高い伝導率で伝える特性がある素材を使って作られた、魂気メーターだ。ちゃちい見た目だが、立派な特注品だ。雑に扱わないように。」

あんなもので魂気の量がわかるのか。メタルは、ハンターとして実践は重ねてきたが、自身の魂気を測定する機会などは、今までなかった。

「戦士の実力を分類する基準として、『ガンダラグレード』はもちろん知っているな?魂気が曲がりなりにも使えるなら、ここにいる諸君は、軍の隊員で言えばB級程度の力は持っている者がほとんどだろうが、精鋭隊でしっかりやっていくなら、A級以上が望ましい。厳しく振り分けさせてもらうぞ。」

ここにきて、会場がざわめいた。
それもそう、軍の隊員でA級相当以上というのは、なかなかに厳しい合格基準だ。特殊精鋭部隊というだけのことはある。
実際のところ今日の試験には、すでに軍に所属しているB級隊員で、己の腕試しやステップアップのためにやってきている者もいるのだった。

「A級相当の魂気を持ってるやつは、精鋭隊の二次試験に進んでもらう。B級相当の魂気が確認できた者は、別枠で、モンスターフォースの一般隊員候補として、引き続き審査することになる。それ以下の者は、お引き取り願おう。」

さらにガルドが続けるには、B級相当の魂気とは、AP(オーラポイント)1000以上、A級相当だと5000以上が必要とのことだ。ちなみにS級は10000以上らしい。

「魂気の値は、あくまで各グレードに認定されるための最低条件だ。一次試験でA級枠とB級枠に振り分けたあと、二次試験でそれぞれに求められる、実戦力や適正を見ていくことになる。以上、ここまでで質問のあるやつは?」

ここで1人、甲冑で身を固め、背中に大きな剣を背負った、いかにも戦士タイプという風貌の男が手を挙げた。

「前置きは分かった。魂気が基準を満たしていても、合格にならないというのは、どういう場合なんだ?実戦能力というが、まさか主観じゃないよな?基準を明確にしてもらいたい。」

一次試験は突破して当たり前という体で話をしている。腕に覚えがあるのだろう。

「気の早いやつだな。その話は一次試験を無事に通ってからだろう?」

まぁ、それはごもっともだ。
実は気にはなってたけど、今考えても仕方ないことだし。

さらにガルドが追い打ちをかけた。

「それに、そんなことをオレに聞いてる時点で、自分の力量をさらけ出してるようなものだと思わねえか?」

「な、何を!」

痛いところを突かれたとばかりに、甲冑の男が思わず声を荒げ、壇上に詰め寄らんばかりの勢いでホール前方に歩き出した。

腕に覚えがあったのかもしれないけど、まさか試験官に詰め寄るやつが出てくるとは。
会場内に緊張が走る。

ティルも隣で、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

「なかなか元気がいいな。よし、お前が一番乗りでいいぞ!やってみろ。A級枠に合格したら、さっきの質問に答えてやる。」

とうとう本当に壇上まで上がってきた甲冑の男に、ガルドは笑顔で魂気メーターを差し出した。

「バ、バカにしてるのか!」

逆上した甲冑がガルドにつかみかかろうとする。

だが、ガルドはつかみかかって来た男の手首を掴んで取り押さえると、無理やりその手にメーターを握らせた。男は抵抗しようともがいているが、ガルドの力に逆らうことができないようで、顔を引きつらせている。

「ほら、遠慮するな。早くしないと鎮圧しちまうぞ?」

ガルドの不敵な笑みに恐れをなしたかのように、男は抵抗をあきらめ、魂気メーターをひったくると、呼吸を整えた。

「こいつを持って、気を練り上げればいいんだな⁉︎」

男の全身を、燃え盛る炎のような輝きが包み込んだ。

「よし、なかなかいいぞ。見せてみろ。・・・AP3500か!悪くはねえが、精鋭隊でやってくには、まだちと厳しいな。まぁ、オレは血の気の多いやつは嫌いじゃねぇ。一般隊員からでもよければ、頑張ってくれや。」

ガルドは呆然自失としている男の手をとり、爆ぜるような笑顔で力強く握手した。
ガルドの力が強すぎたのだろう。男は明らかに痛そうな素振りを見せていたが、その手を解放されるとすごすごと壇上から降りて行った。

「まぁ、こんな感じだ!ちょうどいいチュートリアルになったな。では改めて、受験番号と名前を読み上げた者から測定をしてもらう。
受験番号1番ジョージ。」

ガルドは、思いがけぬ進行トラブルを、まるで当たり前の日常の一部であるかのように軽く裁くと、本来の流れに沿って再び試験を進め始めた。

「(いよいよか、一筋縄じゃいかないかもしれないけど、やってやる!)」

メタルは気をを引き締め直した。

会場を包む熱気が、肌に直接伝わってくるのが確かに感じ取れた。
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