立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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入隊試験編

第20章 吹っ切れたのだ

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鋼魂精鋭隊の入隊試験の死闘から3日後、メタルは一次試験が行われたのと同じ多目的ホールに向かっていた。

足取りは決して軽やかなものではなく、面持ちは神妙であった。

自身の入隊試験への合格は、ジェノとの最終試合後に目覚めた軍の医療施設で、軍の使者を通じて聞いていた。
ティルを含めて、二次試験参加者の全員が合格に至ったことも。
3日後には今後のことについて説明があるので、一次試験と同じ会場に招集がかかっていることも、同時に聞かされた。

メタルは、最終試合に敗れた直後のことを思い返す。

・・・

二次試験の最終試合でKO負けを喫したメタルは、そのまま軍の医療施設へと搬送されていた。寝台で意識を取り戻したとき、全身はジェノの猛攻にさらされたためどこも傷だらけ、うずくような重い痛みが体の中から込み上げて来ていた。

「(・・・そうか、最終試合、負けたんだ。)」

ジェノの勝利への執念は、さすがだった。実際に向き合ってみて、今回の試験に並々ならぬ覚悟を持って臨んでいたのがわかった。互いに1戦目で消耗していた状態での戦い。メタルも持てる限りの力を出し尽くしたが、1戦目で敗北を喫して後がなくなっていたジェノの気迫に、及ばなかった。

自分が医療施設にいることがわかると、体中の痛みとともに、試合に敗れた実感と、力及ばなかった悔しさが込み上げて来た。そして何より、これが模擬戦でなければ、もしもモンスターが相手だったなら、自分は命を落としている。

「目が覚めたか。お前もティル同様、ダメージが大きい。『リペアボディ』で処置しておこう。」

スカーフェイスの手から放たれた緑色の輝きが体を包むと、まるで体内を蠢いていた痛みが大気にみるみる霧散するかのように消えて、二次試験で受けた体の傷が修復されていくのがわかった。これはすごい。肉体の傷はほとんどどんなものでも回復できると話していた、スカーフェイスの規格外ぶりを肌身で感じることになる。

・・・それでも、試合に負けた悔しさと、自身を戒める心のおもりが消えることはなかった。
軍の使者から、合格の一報を聞いた後でさえも。

・・・


晴れない気持ちのまま足を進めているうちに、いつのまにか招集場所に辿り着いていた。中にはまだ誰もいない。どうやら自分が最初に着いたみたいだ。

浮かない気持ちでいると、後ろから声をかけられた。

「やっほーメタル。怪我治ったんだね!良かった。」

「ティル・・・。お前も、もうだいぶ元気そうだな。」

出会ってから決して長い月日が経ったわけではないが、その声を聞くといくらか心が軽くなるようになっていた。

「へへ!怪我はスカーフェイス先生のおかげでもう大丈夫。」

『怪我は』
あえて限定した話し方に聞こえた。ティルは1戦目で最終的に勝ち点を手にしているものの、ギーメルから手ひどく痛めつけられ、2戦目は棄権に追い込まれた上での、合格。ギーメルとの戦いで見せたティルの心の強さは、もちろんメタルも認めている。ただ、自分自身、敗北を経験した上での合格を手放しで前向きに受け取れていない状況であるため、ティルの中にも葛藤があるのかもしれないと、勝手に想像が及んでしまう。

そんなメタルの様子をしばし眺めた後、少し間を置いてティルは付けたした。

「・・・怪我だけじゃないよ。心も吹っ切れちゃった!」

思いがけない言葉に、メタルは目を丸くした。自分から聞いたわけでもないのに意表を突かれ、不覚にも少し間の抜けた顔をしていたかもしれない。
そんなメタルの様子を見て、さらにティルが続けた。

「メタルったら、2戦目で負けたの気にして、素直に合格喜べてないでしょ?顔に書いてあるよ。」

「・・・そりゃ、負けたのは悔しいよ。心の整理したっていいだろ?」

「そんでもって私のことも、勝手にへこんだままだと思ってた?」

「いや、そんなことは・・・!」

思わず取り繕ってしまうと、ティルが小さく吹き出した。

「・・・ふふ、図星だったかな?いいんだよ。実際、最初はへこんでたし。でもね、結局吹っ切れたのだ!」

「・・・怖くないのか?」

メタルは言葉を選ぶように尋ね返した。

「・・・私、忍の訓練に嫌気がさして実家飛び出しちゃったけど、結局自分がどうしたいのかわからないままだったの。精鋭隊の試験受けることにしたのは、バルトスさんから見込みあるって話を聞いて、自分も世の中の役に立てるのかなって、嬉しくなったからだけど、それ以上にメタルのこと偉いなって思ってたんだぞ?」

メタルは、はっとする。
ここで、自分の名前が出て来るとは思っていなかった。

「ちゃんと自分で目的意識持って、精鋭隊に志願するって決めてたんだから。・・・それでなんか、私も頑張らなきゃって。」

ティルがそんなことを考えていたなんて。

「ギーメルにやられたときは、そりゃ悔しかったし、怖かったよ。でもね、やっぱり嬉しかったんだ。意地張ってギーメルに降参しなかったのが本当に良かったのかわからなくなりかけてたとき、審判のガルドさんが勝ち点つけててくれたことがわかって、ちゃんと認めてもらえたような気がして。」

メタルも思い出す。
あのとき自分も、ティルの強さに心打たれ、労いたい気持ちでいっぱいになった。

「・・・合格の話聞いたとき、最初は、本当に私もいいのかなって気持ちになった。やって行けるのかなって不安もあるよ。でもね、試験を通して自分を認めてくれる人がいて、それが嬉しかったんなら、それを素直に受け止めて、前を向こうって思ったの。
・・・私、メタルが『やっぱり強い。』って言ってくれたのも、本当に嬉しかったんだよ?」

メタルは胸の奥を直に手でつかまれて、揺さぶられたような気がした。

自分は最終試合での敗戦を引きずったまま、合格の知らせを聞いてなお、気持ちを切り替えられていなかった。あまつさえ、ティルのことまで勝手に心配してしまった。

メタルは反省した。

確かにティルは、葛藤していた。だが、自分よりも辛い思いをしているはずなのに、すでに先に進もうとしている。届かなかったものや痛みばかりを見るのではなく、背中を押してくれる者の声を大事にし、前を向いているではないか。
しかも、メタル自身がティルに向けた言葉が、彼女の心にそこまで響いていたなんて。
ここまで聞かされて、自分が前を向かなくてどうするというのか。

メタルは改めて、素晴らしい仲間に巡り会えたのだという思いを強くした。

「・・・ごめん。確かにもやもやしてた。でも、ティルの話聞いて、おかげで目が覚めたよ。やっぱりティルは強いよ。・・・ありがとう。」

「そんな、私の方こそだよ。・・・これから一緒に、頑張ろうね!」

ティルは、一瞬はにかむように視線を下に向けたが、やがてまっすぐな視線をメタルに向けると、屈託のない笑顔を添えて、掌を差し出した。

「ああ、頼むぜ・・・ティル!」

メタルは『飛行少女』と続けそうになったが、少し間を置いてそれを飲み込むと、目の前の頼もしい同志の名で言葉を結び、彼女の差し出した手に応えた。


その次に姿を現したのは、レイチェルであった。試験のときと同じ、黒のローブにツインテールという出立ちである。

「あ。あの子は二次試験ですごい一撃を放ってた・・・。」

元々、年齢の近そうな同性の受験者を気にかけていたティルが、吸い寄せられるようにレイチェルに視線を向ける。

レイチェルもその視線に気づくと、恐る恐ると言った雰囲気ながらもメタルとティルの方へと歩み寄ってきた。

「お二人とも、合格されてたんですね。・・・見たところ怪我ももう大丈夫そうで。良かったです。」

ジェノとの試合で見せたカオスフレアのインパクトや、ギーメルに対して向けていた激情から感じた印象とは裏腹に、控えめでどこか物怖じすらしているような物腰だった。

「ありがとう。あなたの技も、まるで魔法みたいですごかったよ。」

待ってましたとばかりに、ティルが応じた。

「属性を3つも使える上に、最後の大技。びっくりしちゃった。あ、私はティルで、こっちがメタル。あなたとお話してみたかったんだ。」

気になっていた相手と話すきっかけをつかんで舞い上がったティルが、矢継ぎ早にレイチェルを褒め称え、一息にメタルのことまで紹介してしまった。

「た、大したことないですヨ。私なんか。でも、私もあなたたちのこと気になってました。声かけてくれて嬉しいです。」

戦闘中の肝の据わった感じからは想像もできないような、少しオドオドしつつも気さくな話し口でレイチェルが応じた。

「気にしてくれてたんだ。嬉しい!ねぇねぇ、落ち着いたら一緒にご飯行こうよ。」

物怖じしないティルの勢いに飲まれそうになりながら、レイチェルは照れ笑いを浮かべている。

まごうことなく試験トップ通過なのだから、もっとどっしりとしていても良さそうなのに、これが素の姿なのだろうか。それとも、スイッチの入った試験中の方が地なのか、何ともつかみどころがない。どこか浮世離れした感じがあるのは間違いないけれど、ギーメルのティルへの行いには、自分に負けないくらい怒りをあらわにしていた。実際に触れ合ってみて、きっといい子なんだろうなとメタルは改めて感じる。

「これからよろしく、レイチェル。」

メタルも新しい仲間との出会いを、前向きにとらえていた。

先日の試験の緊張感が嘘のように、和やかな雰囲気が漂っていた。そんな中、次に姿を現したのはジェノであった。彼が纏う空気は、試験の日の緊張感そのままに、まるでまだ戦いが終わっていないかのようにピリピリしていた。メタルたちの前を視線を合わせることなく通り過ぎると、壁際に立って腕を組み、静かに目を閉じた。

ジェノはメタルともレイチェルとも対戦をしている。互いに手を抜くわけにいかない状況だったとはいえ、ただでさえ会話の糸口が難しいのに、これでは取り付く島がない。

「うーん、私、彼はちょっと苦手かも。オレに近づくなってオーラが半端ないし・・・。」

レイチェルにはまるで元々知り合いだったかのようにぐいぐいと距離を詰めていたティルが、眉を下げて口をとがらせていた。

「根はとても真面目な方なんだと思います。私との試合でも、一切手を抜く様子が見られなかったです。結界の上からとはいえ爆破されたのは、まだ許してませんけど。」

レイチェルがジットリとした視線を向けていた。

「メタルさんとの試合でも、審判に止められなければカゲロウを爆破してたと思います。真面目さの表れなのかもですけど、歯止めの効かないところがあるのかもですね。」

ジェノの気質を肯定的にとらえながらも、物言いをつけていた。

報復にカオスフレアを見舞ったことはレイチェルが棚に上げていることを、メタルは突っ込みそうになったが、今は触れないでおくことにした。

確かに、試験中も今このときも、ジェノの発する空気は人一倍ヒリついている。ただそれが、執念すら感じさせるほどの、彼の入隊試験に対する気迫から来るものであることは、最終戦で直接刃を交えたメタル自身も、肌で感じとっていた。

その後は、静かにたたずむジェノをよそに3人で話し込む雰囲気でもなく、それぞれもの思いにふけりながら手持ち無沙汰に時が過ぎるのを待った。刻一刻と集合の時刻が近づく。

・・・まだあいつは、ギーメルは姿を現さない。あれだけの素行の悪さ。集合時間など気にするべくもないか。試験ではあれだけのことをしておいて、今度もまた、ふてぶてしい態度でやって来るのだろうか。そもそも、ちゃんと召集に応じるのかも怪しいものだ。

・・・そのとき、静寂を破るようにけたたましく扉が開き、ホールの中に入ってくる人影が現れた。
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