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第一曲
喧騒の花苗通り
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どうして早くそれを言わないのよと両掌をテーブルにぶつけると、メリーはまたしても震え慄いていた。
私は終業後、雇い主であるマスターに頼み込んで明日の仕事を休みにして貰い、メリーの言っていた果物屋に行く事にした。
花苗通りは今日も今日とて買い物客で賑わっている。日常的に訪れる客の数は、この花の都【フルールローゼ】で共に3大メインストリートを成す花葉通りや花茎通りと比べて多い。朝夕いつの時間帯でも食を求める人々で賑わっていた。
この都で暮らす私も例に漏れずこの花苗通りには足繁く通っており、行きつけの串焼き店や魚屋なんかがあったりする。
「う~何で私も行かなくちゃならないんですかぁ、私の仕事はこなしましたよぅ」
「いいじゃない、どうせ観客も来なくて暇なんでしょ?」
日が昇り身支度を済ませた私は、これから広場に向かおうとせんメリーとばったり会った。軽い挨拶をしながらそのままコンサートとやらに向かおうとするメリーを無理やり引っ張って来たのだ。
「はい、ここの山岳豚の串焼きが絶品なのよね」
私はお気に入りの露店で買った串焼きを渡してやる。
「はぐはぐ、さあ行きましょう!むぐむぐ、果実屋のおやじが待ってます!」
この元気娘、ちょろ過ぎでは?
この子ご飯さえ恵んで貰えれば誰にでも付いていくのではなかろうか。まるでかつての自分の事のように思え言いようの無い不安に駆られるが、今日のところ、釣った張本人としては心の目を自由に泳がせておこう。
「ところで果物屋の主人が私の探し人の友人ってのは本当な訳?」
「ああ、それは分かりませんよ」
は?何を言ってるんだこな小娘は。
無理を言ってまで貰った休日のことを思い、両の拳を構える。
「ええええ違います違います!別にテキトーに言ったんじゃありませんよ!」
だからその怖い目と怖い両手を止めて下さいなどと喚き散らかすメリーによりキツめの圧をかけると、ひぃ!などと言いながら白状し始めた。
曰く、毎日開催しているメリーのコンサートに足を止めた数少ない物好きの中に件の果物屋の店主の友人という男がいたらしい。その男は真昼間から右手に串焼き左手に酒というこの世の駄目を極めた様なおじさんであるらしい。彼が語る所によれば、その店主は元騎士団員なのだそうだ。
確かに長く騎士団に所属していたのであれば、ヴォルツさんとの間に親交があってもおかしくはない。さらに、同世代ということでもしかしたら普段から連絡を取り合っている可能性だってある。
また一つ、ヴォルツさんに繋がる手がかりを見つけた。それだけで、石煉瓦を踏む足取りが速くなる。歩幅を広げるにつれて、小ぢんまりとしたメリーが遅れがちになり焦ってちょこちょこ小走りして追いつく。また私の歩幅がさらに広がると、またメリーが頑張って付いてくる。面白いなとは思いつつも止めることができない足に身を任せながら雑踏を潜り抜けてゆくのだった。
私は終業後、雇い主であるマスターに頼み込んで明日の仕事を休みにして貰い、メリーの言っていた果物屋に行く事にした。
花苗通りは今日も今日とて買い物客で賑わっている。日常的に訪れる客の数は、この花の都【フルールローゼ】で共に3大メインストリートを成す花葉通りや花茎通りと比べて多い。朝夕いつの時間帯でも食を求める人々で賑わっていた。
この都で暮らす私も例に漏れずこの花苗通りには足繁く通っており、行きつけの串焼き店や魚屋なんかがあったりする。
「う~何で私も行かなくちゃならないんですかぁ、私の仕事はこなしましたよぅ」
「いいじゃない、どうせ観客も来なくて暇なんでしょ?」
日が昇り身支度を済ませた私は、これから広場に向かおうとせんメリーとばったり会った。軽い挨拶をしながらそのままコンサートとやらに向かおうとするメリーを無理やり引っ張って来たのだ。
「はい、ここの山岳豚の串焼きが絶品なのよね」
私はお気に入りの露店で買った串焼きを渡してやる。
「はぐはぐ、さあ行きましょう!むぐむぐ、果実屋のおやじが待ってます!」
この元気娘、ちょろ過ぎでは?
この子ご飯さえ恵んで貰えれば誰にでも付いていくのではなかろうか。まるでかつての自分の事のように思え言いようの無い不安に駆られるが、今日のところ、釣った張本人としては心の目を自由に泳がせておこう。
「ところで果物屋の主人が私の探し人の友人ってのは本当な訳?」
「ああ、それは分かりませんよ」
は?何を言ってるんだこな小娘は。
無理を言ってまで貰った休日のことを思い、両の拳を構える。
「ええええ違います違います!別にテキトーに言ったんじゃありませんよ!」
だからその怖い目と怖い両手を止めて下さいなどと喚き散らかすメリーによりキツめの圧をかけると、ひぃ!などと言いながら白状し始めた。
曰く、毎日開催しているメリーのコンサートに足を止めた数少ない物好きの中に件の果物屋の店主の友人という男がいたらしい。その男は真昼間から右手に串焼き左手に酒というこの世の駄目を極めた様なおじさんであるらしい。彼が語る所によれば、その店主は元騎士団員なのだそうだ。
確かに長く騎士団に所属していたのであれば、ヴォルツさんとの間に親交があってもおかしくはない。さらに、同世代ということでもしかしたら普段から連絡を取り合っている可能性だってある。
また一つ、ヴォルツさんに繋がる手がかりを見つけた。それだけで、石煉瓦を踏む足取りが速くなる。歩幅を広げるにつれて、小ぢんまりとしたメリーが遅れがちになり焦ってちょこちょこ小走りして追いつく。また私の歩幅がさらに広がると、またメリーが頑張って付いてくる。面白いなとは思いつつも止めることができない足に身を任せながら雑踏を潜り抜けてゆくのだった。
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