『【実録】深夜リビングの密事 ―寝静まった家族の足下で、僕はママ友の深淵に堕ちる―』

まさき

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深淵の日常編 ​第17話:夜の当番制 ―壊れゆく自意識―

深淵の日常編 ​第17話:夜の当番制 ―壊れゆく自意識―

​ リビングの壁に、見慣れないカレンダーが掛けられていた。
 それは子供の学校行事や家族の予定を書き込むためのものではない。赤、青、緑のシールが整然と並んだ、僕という「共有資産」の運用スケジュール表だった。
​ 「パパ、今日からこれが我が家の新しいルールよ。混乱しないように、ちゃんと覚えておいてね」
 妻が、指示棒のような細い指先でカレンダーをなぞる。
 「月曜と木曜は、私。火曜と金曜は、眼鏡の彼女。水曜と土曜は、もう一人の彼女。日曜日は、三人であなたの『メンテナンス』をする日。……わかりやすいでしょう?」
​ 僕は呆然とその表を見つめた。そこには「夫」としての役割など存在しない。ただ、どの曜日にどの女の所有物になるかという、冷酷な当番制(シフト)だけが記されていた。
​ 「待ってくれ……。そんな、まるで僕は機械か何かのようだ」
 「あら、機械なんて失礼な。あなたはもっと価値のある『お掃除ユニット』よ」
 眼鏡の彼女が、僕の背後から肩に手を置き、耳元で低く笑った。
 「今日は火曜日。つまり、私の日。……奥様、彼を借りていってもいいかしら?」
 「ええ、もちろん。しっかり磨き上げてやってね。もし不手際があったら、明日私から厳しく指導しておくわ」
​ 妻が微笑みながら、僕の背中を軽く押した。
 自分の妻に、別の女の元へ「送り出される」という絶望。かつてあの日、隣人のリビングで感じた背徳感は、今や見る影もない。そこにあるのは、妻が管理し、隣人が消費するという、完璧にシステム化された屈辱だった。
​ 「さあ、行きましょうか。子供たちが寝静まるまで、私の家でたっぷり『お掃除』の宿題が溜まっているの」
 眼鏡の彼女に腕を引かれ、僕は夜の冷たい廊下へと連れ出された。自分の家から、数歩先の隣の家へ。そのわずかな距離が、僕にとっては奈落の底へと続く一本道のように感じられた。
​ 隣の家のリビングに入ると、そこには以前のような「偶然の誘惑」などなかった。
 「まずは、床の四隅を綺麗にしてもらいましょうか。もちろん、道具は使わずにね」
 彼女はソファに深々と腰掛け、脚を組み、僕を見下ろした。
 「あなたが昨日、奥様にどんな甘えた顔をしていたか、全部聞いてるわよ。私の前では、もっと卑屈な顔を見せてちょうだい」
​ 僕は膝をつき、言われるがままに床に這いつくばった。
 抵抗する気力は、もう残っていない。拒めばあのスマホの動画が世界に放たれ、僕の社会的な死が確定する。そして何より恐ろしいのは、こうして虐げられ、管理されることで、自分の思考を放棄する安らぎに、心が染まり始めていることだった。
​ 「いい子ね……。パパ、あなたはもう、私たちの所有物でいるときが一番輝いているわよ」
​ 夜の静寂の中、隣の家から漏れる微かな声。
 妻が自分の家で、僕が隣で蹂躙されている様子を想像しながら微笑んでいるかと思うと、脳の芯が痺れるような感覚に襲われた。
 夫、父、サラリーマン。そんな仮面は、もうどこにも落ちていない。
 僕はただ、三人の女が回す巨大な歯車の一部として、壊れるまで回り続けるだけの存在へと成り果てたのだ。

​(深淵の日常編・完 / 第18話:プロローグ編へ続く)
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