​『支配者の美学―女たちの「誠意」を査定する男―』

まさき

文字の大きさ
7 / 24
​基盤の解体(ファウンデーション・リセット)

第4話:【美女アスリート】―最速のプライドを砕く、ドーピング検査の真実―【前編:加速する絶望、記録の裏の不純物】

第4話:【美女アスリート】―最速のプライドを砕く、ドーピング検査の真実―

【前編:加速する絶望、記録の裏の不純物】

乾いたタータンが焦げ付くような、真夏のスタジアム。
轟く歓声の中、彼女は勝利の象徴のように颯爽とトラックを駆けていた。しなやかに隆起した大腿四頭筋、風を切り裂く流麗なフォーム。そして、ゴールテープを切った瞬間に見せる、完璧なまでの勝者の咆哮。

彼女は、日本陸上界の至宝。女子100mの日本記録保持者であり、メディアが「美しすぎるスプリンター」と称賛する、我が社にとって最も重要な「広告塔」だ。
メインスポンサーである我が社のロゴが刻まれた、肌に密着するセパレートタイプのユニフォームを身につけ、彼女は今日も期待通りの結果を出した。

「……お疲れ様です。素晴らしい走りでした。」
僕は、レース後の記者会見を終えた彼女を、選手専用のラウンジで迎えた。
汗で濡れた健康的で艶やかな肌、高揚に輝く瞳。普段はメディアの前で見せない、勝利に酔いしれた無邪気な笑顔で、彼女は僕に歩み寄ってきた。

「室長! 見ていてくれましたか? 御社のサポートのおかげで、ついに壁を突破できました。次の国際大会も、必ずや表彰台の真ん中に立ってきますから!」
差し出された手は、想像以上に強く、そして熱かった。僕の顔を直視するその瞳には、一切の曇りがない。純粋な勝利への渇望と、トップアスリートとしての揺るぎないプライドが宿っている。

だが、僕は知っている。その輝かしい記録の裏側に潜む「不純物」を。

「……ええ、期待していますよ。ですが、一つだけ、至急確認しておきたいことがありましてね。……少し、二人きりで時間をいただけますか?」
僕は周囲のコーチやマネージャーを鋭い視線で退け、彼女を控室へと促した。

控室の重厚な扉が閉まる。外の歓声が遠ざかり、空調の音だけが響く静寂が降りた瞬間、彼女はトップアスリートとしての仮面を微かに緩め、不思議そうに首を傾げた。
「……改まって、何ですか? 室長が、そんな真剣な顔をして」

「核心を話しましょう。……あなたの、最新のドーピング検査の結果についてです」
僕の言葉に、彼女の表情から一瞬にして血の気が引いた。鍛え抜かれた身体が、自身の意志に反して微かに震える。
「……何を、言っているんですか。私は、クリーンです。抜き打ち検査だって、これまで何度もパスしてきました!」

「口頭での宣言は、この場では無意味だ。僕の手元にある、最新の『内部監査データ』が、あなたの身体がクリーンではないと証明している」
僕はタブレットを彼女の目の前に突きつけた。そこには、彼女の体内に検出された、本来ならあり得ない微量の禁止薬物成分の分析グラフが表示されていた。

「……っ……そんな……! 何かの間違いです、私はそんなもの……」
「間違いではない。……あなたは『速さ』という魔物に取り憑かれすぎた。この短距離走という、コンマ数秒を争う極限の世界で、絶対に負けられないというプレッシャーに負けた。……密かにあの新興のサプリメントに手を出した。……違いますか?」

彼女は顔を真っ青にして後ずさり、壁に背中を打ち付けた。勝利への強欲さが、今や彼女自身を社会的に抹殺する猛毒となったのだ。
「……お願い、です……。国際大会が来月なんです。ここで、このことが明るみに出たら……私のこれまでの努力も、名誉も、すべてが……!」

「すべて? その『すべて』を、我が社の莫大なスポンサー料と開発費で支えてきたのは、僕たちだ。……だからこそ、その『すべて』を、僕が『査定』する権利がある」

僕は彼女に一歩、また一歩と近づく。アスリートとして限界まで鍛え上げられたはずの彼女の身体が、恐怖に支配されて萎縮していく。
「……僕が求めているのは、金ではない。僕が欲しいのは、あなたのその『勝利』への執念が、どれほどの『誠意』に変わるかだ」

僕は彼女の、胸元に我が社のロゴがプリントされたユニフォームのファスナーに手をかけた。
「……まずは、その『偽りの栄光』を脱ぎなさい。……そして、その薬物に汚染された肉体が、僕という支配者のためにどれほど従順に動けるのか、僕が直々に査定してあげる。……これが、記録(レコード)を闇に葬るための、唯一の交換条件だ」

彼女は涙を浮かべ、震える瞳で僕を見つめた。
今、日本最速の女が、そのプライドとユニフォームを脱ぎ捨て、一人の商社マンの前に膝を折ろうとしていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

スパダリな義理兄と❤︎♡甘い恋物語♡❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
IT関係の会社を起業しているエリートで見た目も極上にカッコイイ母の再婚相手の息子に恋をした。妹でなくわたしを女として見て

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。