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基盤の解体(ファウンデーション・リセット)
第4話:【美女アスリート】―最速のプライドを砕く、ドーピング検査の真実―【前編:加速する絶望、記録の裏の不純物】
第4話:【美女アスリート】―最速のプライドを砕く、ドーピング検査の真実―
【前編:加速する絶望、記録の裏の不純物】
乾いたタータンが焦げ付くような、真夏のスタジアム。
轟く歓声の中、彼女は勝利の象徴のように颯爽とトラックを駆けていた。しなやかに隆起した大腿四頭筋、風を切り裂く流麗なフォーム。そして、ゴールテープを切った瞬間に見せる、完璧なまでの勝者の咆哮。
彼女は、日本陸上界の至宝。女子100mの日本記録保持者であり、メディアが「美しすぎるスプリンター」と称賛する、我が社にとって最も重要な「広告塔」だ。
メインスポンサーである我が社のロゴが刻まれた、肌に密着するセパレートタイプのユニフォームを身につけ、彼女は今日も期待通りの結果を出した。
「……お疲れ様です。素晴らしい走りでした。」
僕は、レース後の記者会見を終えた彼女を、選手専用のラウンジで迎えた。
汗で濡れた健康的で艶やかな肌、高揚に輝く瞳。普段はメディアの前で見せない、勝利に酔いしれた無邪気な笑顔で、彼女は僕に歩み寄ってきた。
「室長! 見ていてくれましたか? 御社のサポートのおかげで、ついに壁を突破できました。次の国際大会も、必ずや表彰台の真ん中に立ってきますから!」
差し出された手は、想像以上に強く、そして熱かった。僕の顔を直視するその瞳には、一切の曇りがない。純粋な勝利への渇望と、トップアスリートとしての揺るぎないプライドが宿っている。
だが、僕は知っている。その輝かしい記録の裏側に潜む「不純物」を。
「……ええ、期待していますよ。ですが、一つだけ、至急確認しておきたいことがありましてね。……少し、二人きりで時間をいただけますか?」
僕は周囲のコーチやマネージャーを鋭い視線で退け、彼女を控室へと促した。
控室の重厚な扉が閉まる。外の歓声が遠ざかり、空調の音だけが響く静寂が降りた瞬間、彼女はトップアスリートとしての仮面を微かに緩め、不思議そうに首を傾げた。
「……改まって、何ですか? 室長が、そんな真剣な顔をして」
「核心を話しましょう。……あなたの、最新のドーピング検査の結果についてです」
僕の言葉に、彼女の表情から一瞬にして血の気が引いた。鍛え抜かれた身体が、自身の意志に反して微かに震える。
「……何を、言っているんですか。私は、クリーンです。抜き打ち検査だって、これまで何度もパスしてきました!」
「口頭での宣言は、この場では無意味だ。僕の手元にある、最新の『内部監査データ』が、あなたの身体がクリーンではないと証明している」
僕はタブレットを彼女の目の前に突きつけた。そこには、彼女の体内に検出された、本来ならあり得ない微量の禁止薬物成分の分析グラフが表示されていた。
「……っ……そんな……! 何かの間違いです、私はそんなもの……」
「間違いではない。……あなたは『速さ』という魔物に取り憑かれすぎた。この短距離走という、コンマ数秒を争う極限の世界で、絶対に負けられないというプレッシャーに負けた。……密かにあの新興のサプリメントに手を出した。……違いますか?」
彼女は顔を真っ青にして後ずさり、壁に背中を打ち付けた。勝利への強欲さが、今や彼女自身を社会的に抹殺する猛毒となったのだ。
「……お願い、です……。国際大会が来月なんです。ここで、このことが明るみに出たら……私のこれまでの努力も、名誉も、すべてが……!」
「すべて? その『すべて』を、我が社の莫大なスポンサー料と開発費で支えてきたのは、僕たちだ。……だからこそ、その『すべて』を、僕が『査定』する権利がある」
僕は彼女に一歩、また一歩と近づく。アスリートとして限界まで鍛え上げられたはずの彼女の身体が、恐怖に支配されて萎縮していく。
「……僕が求めているのは、金ではない。僕が欲しいのは、あなたのその『勝利』への執念が、どれほどの『誠意』に変わるかだ」
僕は彼女の、胸元に我が社のロゴがプリントされたユニフォームのファスナーに手をかけた。
「……まずは、その『偽りの栄光』を脱ぎなさい。……そして、その薬物に汚染された肉体が、僕という支配者のためにどれほど従順に動けるのか、僕が直々に査定してあげる。……これが、記録(レコード)を闇に葬るための、唯一の交換条件だ」
彼女は涙を浮かべ、震える瞳で僕を見つめた。
今、日本最速の女が、そのプライドとユニフォームを脱ぎ捨て、一人の商社マンの前に膝を折ろうとしていた。
【前編:加速する絶望、記録の裏の不純物】
乾いたタータンが焦げ付くような、真夏のスタジアム。
轟く歓声の中、彼女は勝利の象徴のように颯爽とトラックを駆けていた。しなやかに隆起した大腿四頭筋、風を切り裂く流麗なフォーム。そして、ゴールテープを切った瞬間に見せる、完璧なまでの勝者の咆哮。
彼女は、日本陸上界の至宝。女子100mの日本記録保持者であり、メディアが「美しすぎるスプリンター」と称賛する、我が社にとって最も重要な「広告塔」だ。
メインスポンサーである我が社のロゴが刻まれた、肌に密着するセパレートタイプのユニフォームを身につけ、彼女は今日も期待通りの結果を出した。
「……お疲れ様です。素晴らしい走りでした。」
僕は、レース後の記者会見を終えた彼女を、選手専用のラウンジで迎えた。
汗で濡れた健康的で艶やかな肌、高揚に輝く瞳。普段はメディアの前で見せない、勝利に酔いしれた無邪気な笑顔で、彼女は僕に歩み寄ってきた。
「室長! 見ていてくれましたか? 御社のサポートのおかげで、ついに壁を突破できました。次の国際大会も、必ずや表彰台の真ん中に立ってきますから!」
差し出された手は、想像以上に強く、そして熱かった。僕の顔を直視するその瞳には、一切の曇りがない。純粋な勝利への渇望と、トップアスリートとしての揺るぎないプライドが宿っている。
だが、僕は知っている。その輝かしい記録の裏側に潜む「不純物」を。
「……ええ、期待していますよ。ですが、一つだけ、至急確認しておきたいことがありましてね。……少し、二人きりで時間をいただけますか?」
僕は周囲のコーチやマネージャーを鋭い視線で退け、彼女を控室へと促した。
控室の重厚な扉が閉まる。外の歓声が遠ざかり、空調の音だけが響く静寂が降りた瞬間、彼女はトップアスリートとしての仮面を微かに緩め、不思議そうに首を傾げた。
「……改まって、何ですか? 室長が、そんな真剣な顔をして」
「核心を話しましょう。……あなたの、最新のドーピング検査の結果についてです」
僕の言葉に、彼女の表情から一瞬にして血の気が引いた。鍛え抜かれた身体が、自身の意志に反して微かに震える。
「……何を、言っているんですか。私は、クリーンです。抜き打ち検査だって、これまで何度もパスしてきました!」
「口頭での宣言は、この場では無意味だ。僕の手元にある、最新の『内部監査データ』が、あなたの身体がクリーンではないと証明している」
僕はタブレットを彼女の目の前に突きつけた。そこには、彼女の体内に検出された、本来ならあり得ない微量の禁止薬物成分の分析グラフが表示されていた。
「……っ……そんな……! 何かの間違いです、私はそんなもの……」
「間違いではない。……あなたは『速さ』という魔物に取り憑かれすぎた。この短距離走という、コンマ数秒を争う極限の世界で、絶対に負けられないというプレッシャーに負けた。……密かにあの新興のサプリメントに手を出した。……違いますか?」
彼女は顔を真っ青にして後ずさり、壁に背中を打ち付けた。勝利への強欲さが、今や彼女自身を社会的に抹殺する猛毒となったのだ。
「……お願い、です……。国際大会が来月なんです。ここで、このことが明るみに出たら……私のこれまでの努力も、名誉も、すべてが……!」
「すべて? その『すべて』を、我が社の莫大なスポンサー料と開発費で支えてきたのは、僕たちだ。……だからこそ、その『すべて』を、僕が『査定』する権利がある」
僕は彼女に一歩、また一歩と近づく。アスリートとして限界まで鍛え上げられたはずの彼女の身体が、恐怖に支配されて萎縮していく。
「……僕が求めているのは、金ではない。僕が欲しいのは、あなたのその『勝利』への執念が、どれほどの『誠意』に変わるかだ」
僕は彼女の、胸元に我が社のロゴがプリントされたユニフォームのファスナーに手をかけた。
「……まずは、その『偽りの栄光』を脱ぎなさい。……そして、その薬物に汚染された肉体が、僕という支配者のためにどれほど従順に動けるのか、僕が直々に査定してあげる。……これが、記録(レコード)を闇に葬るための、唯一の交換条件だ」
彼女は涙を浮かべ、震える瞳で僕を見つめた。
今、日本最速の女が、そのプライドとユニフォームを脱ぎ捨て、一人の商社マンの前に膝を折ろうとしていた。
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