​『支配者の美学―女たちの「誠意」を査定する男―』

まさき

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精神の隷属(マインド・ディミネーション)

第8話:【ニュースキャスター】―真実の仮面と、報道の裏の醜聞(前編)―

■第8話:【ニュースキャスター】―真実の仮面と、報道の裏の醜聞(前編)―

【前編:深夜のスタジオと、歪められた報道】

深夜一時、都内のキー局。全ての生放送が終わり、静まり返ったスタジオには、まだかすかに照明の熱気が残っていた。
そのスタジオの片隅で、完璧なメイクと衣装を崩さぬまま、一人の女がモニターを見つめていた。
視聴率20%を誇るニュース番組のメインキャスター。冷静沈着、かつ鋭い知性で権力者たちを厳しく糾弾し、「正義の代弁者」として圧倒的な国民的支持を集める、メディアの女王。

彼女のその凛とした佇まいは、周囲のスタッフさえも容易に近寄らせない不可侵の結界を張っているかのようだった。

「……何か忘れ物かしら。ここから先は関係者以外、立ち入り禁止のはずよ」

彼女はモニターから目を逸らさず、冷徹な声で告げた。その声は、テレビのスピーカー越しに聴くよりもさらに透明で、拒絶の意志が明確に宿っている。

「忘れ物ではない。君に、明日のニュース番組の『特大ネタ』を届けに来たんだ。……もっとも、君自身が主役のニュースだがね」

僕はゆっくりと、彼女のデスクへと歩み寄った。彼女は不快そうに眉を寄せ、ようやく僕をその怜悧な瞳で捉えた。
「冗談はニュースの現場では好まれないわ。警備員を呼ぶ前に、速やかに立ち去りなさい」

「警備員? 呼べるものなら呼んでみるといい。だが、そうなれば君が長年隠し通してきた、あの『建設汚職事件』の揉み消し工作の証拠が、ライバル局の速報に流れることになる」

彼女の瞳の奥に、一瞬だけ鋭い動揺が走った。だが、彼女は瞬時にそれを隠し、皮肉めいた笑みを浮かべる。
「……何を言っているのか理解できないわ。根拠のない誹謗中傷には慣れているけれど、あなたのような無礼な人間は初めてよ」

「根拠なら、ここに揃っている。君が今の地位を手に入れるために、当時の報道局長と交わした枕営業の記録。そして、スポンサー企業であるゼネコンの不祥事を、君の独断で『調査不足』としてボツにした社内メールの全履歴……。これら全て、我が社の情報局が完璧に復元し、裏付けを取ってある」

僕は手元のタブレットを彼女の前に置いた。画面に映し出された生々しい証拠の数々に、彼女の顔から血の気が引いていくのが、暗いスタジオの中でもはっきりと分かった。

「……っ、そんなはずは……あれは、全て処分したはず……」

「デジタルに『完全な処分』など存在しないんだよ。君がテレビで正義を叫ぶたびに、裏で不利益を被ってきた人間たちがどれほどいるか、考えたことはないのか? 君が守りたかったのは『真実』ではなく、その華やかな『椅子の座り心地』だった。そうだろう?」

僕は彼女の背後に回り、固く握り締められたその肩に手を置いた。
「三千万人の視聴者が信じている『正義の女神』。その正体が、保身と権力欲にまみれた醜悪な工作員だった。……これが世に出れば、君の人生は一瞬で崩壊する。今まで君が糾弾してきた政治家たちと同じ地獄へ、君自身が堕ちることになるんだ」

彼女の呼吸が乱れ、肩が小さく震え始める。国民の信頼を一身に受けていたその自負が、音を立てて崩れ落ちていく。

「……何を、すればいいの。お金なら、いくらでも用意するわ。……それとも、放送の内容を操作すればいいの?」

「金や放送枠など、今の僕には興味がない。僕が欲しいのは、君自身の『完全な服従』だ。メディアの頂点で、誰をも寄せ付けずに君臨してきたその高貴な自尊心を、今から僕がこの手で徹底的に査定し、調教してやる」

僕は彼女の顎を強引に持ち上げ、僕の目を見つめさせた。
「報道のプロなら、状況の判断は早いだろう? 君に残された選択肢は二つだ。全てを失って社会的に死ぬか、それとも僕の忠実な『拡声器』として、肉体も魂も僕に捧げるかだ」

彼女の瞳から、最後の一滴の理性が零れ落ち、代わりに底知れぬ絶望が広がった。
「……わかったわ。あなたの……あなたの、言う通りに……」

深夜の静寂に包まれた放送スタジオ。かつて真実を語っていた彼女の唇が、僕への屈従を誓うために震えていた。
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