有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

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13.屋敷に招かれたようです?

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「着いたぞ。」
「あ、はい。……んん?」

(まだ分かってなさそうだなこいつ。)

しかし待たない。ズンズンと無遠慮に進み、門の前に立つ。

「“開け”」

誰もいないはずなのに、ひとりでに門が開く。意志を持ったように。コンビニのドアみたいだな、なんて現実から少し離れた意識でサキは思った。

「ヴァーマリー子爵!お帰りになられたのですね!」

事前連絡もなしに現れたロキートを目視し、ギョッとしながら駆けつける門兵。雇われの身からすれば、肝が冷える思いであろう。
そして。そんな雇い主の腕に抱かれているサキを見て、二度目の変顔を決めた。

(なんかごめんなさい…。)

所在なさげに肩をすぼめる。

「ああ。引き続き警備を頼む。」
「は、はっ!」

サキは知る由もないことだが。ロキートは生まれてから23年間、女の影が全くなかったのである。当たり障りなく柔らかに。拒絶感を意識させず、ひたすら遠ざけていた。
2年前、巡礼の旅に同行する事となった時も、終始無表情。

彼を幼い頃から知る者なら、その態度は至極納得のいくものではある。だからこそ、聖女との二人旅は不安の種であった。
門兵がどもってしまうのも、仕方がないと言える。

ーー実のところ、当時のロキートは別の意味で虚無を覗いていただけなのだが。
兎にも角にも、そんな当主が女性を抱きかかえ、突如として帰ってきた。暫くは忙しくなると、数日前報せを受けていたばかりだというのに。

「当主様…如何されましたか…?」

白髪を清潔にまとめあげている老執事。互いの顔を見合わせ、影から覗き見るメイド達。一同の困惑は想像に難くない。

「暫く休暇を取ることにした。そのつもりでスケジュールの変更を頼む、ロジェ。」
「休暇…ですと?で、ですが先日…。」
「それについては後で説明する。…あと、客室の準備を。」
「は、はいただいま!」

理解が追い付かないこの状況。しかし、流石は年配者というべきか。今まで執事頭として弁を取ってきたその手腕を存分に発揮する。
メイド達に主の命を伝達しつつ、各種備品を調達するようにと指示を出していく。言わずもがな、サキ…女性に必要な品々のことだ。
この家には、メイドのもの以外何も女性用の生活必需品がないのである。

「当主様、今夜はどのようなものをご用意いたしましょう?」

機敏に動き回っていたかと思えば、ロキートのすぐ後ろへと控えながらそう問いかける。
その早業に、サキは目を丸くするばかり。もちろん、この状況にも。

「…少量ずつ、なるべく種類を増やしてくれ。」
「畏まりました。そのように。」

当然だが、サキとは初対面である。しかし、何者かも知らぬとは言え、あのロキートが手ずから招いた大切な客人。
万が一にも失礼があってはいけないと、それとなく好みを聞いたのだ。
だが、彼自身その答えを持ち合わせていなかった。一瞬ばつが悪そうに口角を歪める。
それを見逃すロジェではなかったが、突っ込むなんて野暮なことはしない。

「それでは、客室の用意が出来ましたら声を掛けますゆえ。」
「ああ、よろしく頼む。」

いつの間にやら、サキの目の前にはシンプルながらも高級感あふれる木製の扉があった。
はて、いったい何がどうなっているのか。とりあえず、ロキートの家に招かれた事だけはわかる。
逆に言えば、それしか把握できていなかった。
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