有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

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25.伝わらない夜

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暗闇の中、ロキートはベッドに寝転び天井を無気力に見つめる。
窓から入る月光が眩しくて、腕を目の上に被せた。

『生まれちゃ、いけなかったから…。』

闇を落とした視界に浮かぶ彼女が、先ほどの言葉を繰り返す。

『えっと…そろそろ戻っても良い、かな?ちょっと落ち着いてからまた話そう?』

遠慮がちに、一歩退いてそう言う彼女に、ただ一言。
『わかった…』としか答えられなかった自分が情けない。

「くそ…。」

怯えさせたいわけじゃなかった。追い詰めているつもりも。
それでも、燃え広がる怒りをどうにも出来なかった。詳しくは聞けていないが、今日知ったあの言葉が脳みそを揺らし続ける。

(…はっ、俺が言われたわけでもないのに。)

自分の身体がズタズタに引き裂かれ、四肢がバラバラになっていくような、奇妙な感覚があった。
頭の裏側から金属同士を思い切り叩かれている。振動と音が、三半規管を狂わせていく。
もちろん、それらはただの幻。だが、確実に存在する犯人。
その正体を、ロキートは
ずっと昔。まだ子供の頃だ。同じ現象に苛まれたことがある。

(あの時は、暫くに悩まされたっけ。)

切り離された四肢を自分の意志で動かすことが出来ないように、身体の自由を奪っていく脱力感。
身体の動かし方を忘れてしまったのか。そう自分を疑ったのは一度や二度ではない。

「…はは、全然動かねえや…。」

乾き笑い。己の脆さが憎らしかった。

「お前は…ずっとそう言われてきたのか?」

拳を握りたくとも、今はそれすらできる気がしない。全身が波にさらわれてしまったようだ。

(他人の俺がこのザマなのに…お前はどうやって耐えてきたんだ…?)

ーーいや、違う。耐えられないから、捨ててしまったんだ。
奇妙だが、ふと浮かんだ考えがストンと胸に落ちる。同時に、サキの分からず屋な一面が何に起因しているのかも何となく理解出来てしまう。
元々、なかったことにすればいいのだ。自分という自我を。心を。ーー希望を。

「ああ、そっか…。」

自分を認めない。希望を抱かない。全て、だと諦めれば心が整理できてしまう。
だから、彼女は平気な顔をするのだ。自分が受ける理不尽はすべて起きるべくして起こった、必然なのだから。
そんな偏見と諦観で塗り固められた部屋に居座ることで、己を守っている。

「…上等だ。」

ーーそんなの、許さない。エゴだろうがなんだろうが、自らを不幸に縛り続けるなんて許せるわけがない。

(少なくとも、俺にとってはたった一人の大切な存在なんだよ。)

身体にあると聞いた痕よりも、恐らく遥かに大きくて深い心の傷。
そんなものを抱えて、これからも独りぼっちで生きていくつもりなのだ。無自覚に。

「絶対に認めねぇからな。」

まだ弱々しくはあるものの、先ほどに比べ力が入るようになった手のひらを力いっぱい握る。
あの頃と違い、力も知も人脈もある。もう、昔の俺じゃない。
そんな決別と共に、脱力感はスッと影を潜めた。
眩しく感じていた月明りが、そっと優しく背を押してくれている。そんな気がした。
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