有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

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30.許さない

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「…は。」

二の腕が痛い。黙って話を聞いているうちに、力いっぱい握りしめていたらしい。口を挟まず耐えていた自分を褒め称えたくなった。
怯えてか、寒そうに肩をすぼめるサキに真っ向から言葉を叩きつける。

「じゃあ、何か?お前が勝手にデキて、母親と育ての父親を不幸にしたから、“産まれちゃいけなかった”って思ってんのか?」
「そう、言われてきたから…。そうなんだろうなって。」
「お前、馬鹿だろ?何もしてないのにガキが勝手に出来るかよ。お前の親がしてたから、結果が生まれただけじゃねぇか。」
「それはっ!そう、だけど、でも…!」

頭では理解しているのだ。でも、赤ん坊を授かるかは運。決して確率が高い訳ではない。
自分がいるから、不幸になった。母親はともかく、父親は被害者だ。そんな気持ちが、サキの罪悪感を際限なく膨れあがらせる。

「でもじゃねぇ!なんでそれでお前が責められる!?お前、母親の勝手な都合で殺されかけてんだぞっ!」

有り得ない。自ら子ができるような行為をしておいて、授かったら真っ先に流そうとするなんて。
金さえあれば、なんの躊躇いもなく中絶とやらをしていたのだろう。ただ、その手段が使えなかったから、偶然サキは殺されずに済んだだけ。

「いいか?この世に産まれちゃいけない人間なんて誰一人としていねぇんだよっ!ただの一人もだ!!」

そう。自分がこれまで見殺しにしてきたであろう、の犠牲者達だって生きる権利があった。それを、平気で奪ったのはこちら側なのだ。

(あぁ、そうだ。俺は所詮、サキの親と同じようなクズ野郎だ。それでも…っ!)

ーーロキートはまだ知らない。サキと同じく、彼自身も闇に囚われていることを。
彼もまた、犠牲者の一人であることを。
気付かないまま、彼は訴え続ける。

「お前はただ、人として当然の権利を理不尽に奪われ続けただけじゃねぇか!そんなクズ野郎どもの言葉を鵜呑みにして!仕方ないって自分を納得させ続けて!被害者はお前の親じゃねぇ!お前自身だろうがっ!」
「……。」

まただ。またその顔。でも、昨日とは違う。今のサキには、

「そうやって、昨日もさっきも!感情を殺して、笑って取り繕いやがって!お前がっ!なんでっ!なん、で…っ!」

感情がオーバーフローしたロキートは、その塊が喉につっかえてそれ以上の言葉が出てこない。大粒の涙が零れ落ち、片目を手のひらの中に隠す。そのまま自身の髪を乱暴に掴み、悔しそうにただ「クソ…ッ!」と下を向いた。

「…なん、でだろう?とっくに、悲しいとかって感情、つもりだったんだけど…な。」

そうだ、捨てたのだ。心がこれ以上泣かないように、完全に折れてしまわないように。耐えきれなくなる度に、一つ、また一つと。
それでも、完全に捨て去る事は出来ない。自分では気付かなくとも、恐らく人間である以上は、絶対に。

「えへへ…でも、今はなんか、嫌な気分じゃないや。」

昔は、あんなにギシギシと耳の中で鳴り響いていたのに。

「人から心配されるって、こんな幸せだったんだね。」

幼いサキが、無くしてしまったもの。
子供時代、決して手に入らないと諦めてしまったもの。
そしてきっと…見えていないまま、通り過ぎてしまっていたもの。

「ロキート君、ありがとう。私のために怒ってくれて…泣いてくれて。」

人前で泣いたのはいつぶりだろう。ずっとそれは、苦しみの前兆だったのに。

「…わざわざ言うんじゃねぇよ。」
「ふふ、ごめん。…今はまだ、呑み込めないことも沢山あると思う。それに、ロキート君への気持ちも…正直いうと、応えられるかは分からない。そういう感情とは無縁だったし…。」

でも。目を落としかけるロキートに、今の気持ちを伝える。全力で。

「少なくとも、私はロキート君に感謝してるし、人として大好きだよ。なんかね、自分でも不思議なんだけど、最初の頃からロキート君にだけは、触れられても恐怖心がなかったの。…お父さんとの事で、実は男性が少し苦手だったりして…。話す分にはいいんだけど、触られるとちょっと、ね。」

だから…この先どうなるか分からないけど、その気持ちは凄く嬉しいよ。心から。
目を見て、自信満々にそう言い切る。

「っ、」

全力投球のサキの言葉に、ロキートは全身に走る痺れに打ちのめされた。本人は気付いてないが、告白に近い言葉。

「あ~……。」
「ロキート君?」

天を仰ぐ。咄嗟に片手で顔を覆ったが、きっと耳まで真っ赤になってるだろう。自分で手に取るようにわかる。

「お前…覚悟しろよ?」
「え、えぇ!?」
「そこまで言って、俺の手から離れるなんて許さねぇかんな!何がなんでも逃がしてやらねぇ!」
「なんかいきなり不穏なことになってない!?」
「うるせー!」

ギャンギャンと犬のように言い合う二人。でも、その実明るいオーラを纏っている。
気になること、不安の種。それに、この恋の行く末。問題は山積みだ。
それでも、今は。この平和を享受し、噛み締めたい。

「それでも仕事だけはさせてー!」
「あーもう!わーったよ!ただし俺同伴だからな!?」
「何その保護者同伴みたいなノリ!?」

そんな事を思っているなんて知ったら、彼女はまた笑うだろうか。
しょうもない争いを勃発させながら、そんな事をふと思った。
棚の上、密かに佇む写真立ての中。
息子の様子を、どこか安心したような面持ちで見つめている女性が一人、そこに居た。

ーーto be continued...
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