また地獄で逢いましょう

遠月 詩葉

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審判

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そこは、生前の行いを振り返り審判を下す場所。

「ーーさて、葛城 弘人かつらぎ ひろと。最後に申し開きはあるか?」

そうこちらに目を遣る男は、イメージとはだいぶかけ離れていて気だるげな、無気力な表情で机に肘をつき、手のひらに顎を乗せている。
細身で整った顔立ちは、さながら人気俳優のようだ。

(閻魔って、もっと怖い大男を想像してたんだけどなぁ…。)

弘人はそんな、今となってはどうでも良いことを思いながら短く答える。

「いいえ。」
「ふむ…お前のような罪深い魂は、終始喚く者ばかりだが…。やけに冷静だな。」
「弁明するつもりもありませんから。それに…僕は、例え何度やり直したとしても、同じことをするでしょう。」

淡々と、表情を変えることもなく弘人は言い切る。それだけは確信をもって言えた。

「…それほどの想いを抱えておいて、何故…。いや、今更か。詮無き事を言ったな。では、判決を言い渡す。葛城 弘人はーー」

とうに覚悟は出来ている。僅かに上下する喉仏の感覚を意識の端に置きながら、沙汰を待つ。

「ーー有罪。しかし地獄行きとするには、魂の穢れが足りぬ。よって特例として、幽界の管理棟への就任を命ずる。」
「……は?管理棟…?」
「そうだ。稀に、お前のような魂がいる。天国にも、地獄にも行けぬ憐れな者よ。そのような奴らには、幽界で仕事を請け負ってもらっている。なぁに、やることは現世とあまり変わらぬよ。そこで評価を得れば、再び輪廻の輪へと戻り天国行きが許される。…まあ、それには何百、何千という歳月がかかるだろうがな。」

そんなもの、聞いたことがない。何故そんな措置を取られるのか理解できない。

「で、でも僕がやったことは…!」
「ああ、重罪だ。そして血に濡れた魂には穢れが溜まり、それを削ぎ落すために地獄を巡る。…しかし、お前の穢れはその、地獄へ落とすための一定基準に達していない。だが、そのまま天国へ行けるような状態でもない。そのための特例措置だ。」

ふざけるな。そんな馬鹿な話があるか!そう叫びたい衝動をぐっと堪え、弘人は努めて冷静に問う。

「…そこに、彼女はいるのか?」
「どうだろうな。まあ普通に考えれば、地獄が妥当だろう。」
「そんな…!」

閻魔に仕えているであろう人物たちが、弘人の腕を掴み引きずっていこうとする。足を踏ん張り、弘人はもがいた。

「やめろ!僕はそんな措置なんか要らない!」
「これは決定事項だ。それに…お前にとっては、これが最も重い罰だろう?」

そこで初めて、閻魔は弧を描いた笑みを浮かべる。愚かな罪人を嘲笑う、絶対者の冷酷な顔だった。

「連れていけ。」
「やだ!やめろ!離せっ!!香奈!香奈ぁ!!」

死ぬ瞬間まで…いや、死んでからも愛してやまない、唯一の女性。その名前を叫びながら、弘人は引きずられていく。

なんで。どうしてこうなった。例え地獄であろうと、彼女とまた逢えると信じていたのに。何を間違えた?もしもあの時、違う選択をしていれば…。

そこまで考えて、ふと我に返る。そもそも、他の選択肢なんて取りようもなかったではないか。彼女を見捨てるなんて、たった一人にすべてを背負わせるなんて、絶対に出来なかったのだから。

(僕は…どうすればよかったんだ?)

とうとう部屋から追い出された。扉が閉まっていく。二度と弘人を迎え入れることはない、審判を下す場を隔てる頑丈な門。
その奥で静かに、残忍に笑みを浮かべる閻魔を見て…そして全てが視界から消え失せた。

「香奈ーーっ!!!」

“地獄でまた逢おう”という約束だけを置き去りに、弘人の魂ははじき出される。
彼の慟哭だけが、暫しその場を満たしていた。
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