くだらない物語と、死にざかりな僕達。

金本シイナ

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2章: リンドウの花に、口づけを

2-1 奇妙な事件(挿絵あり)

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唐突だった。なんの前触れもなかった。ただ自宅で会ったあと、彼女の見送りを駅のホームでした時だった。


鼻先をくすぐる、湿っぽい夜の芳香。茹だる夏の街明かり。虫が集る夜。至る所で鳴く鈴虫と蛙。紺青色に染まったホーム。列車が来る事を知らせる警笛音。次第に近づく鉄の塊。



「先生は、どっちを選ぶ?」



汗ばんだ首筋に、張り付いた髪。



隣にいた彼女は、そう言葉を発すると、ホームへ飛び降りた。



そして彼女は僕の目の前で呆気なく弾け飛ぶ。手を伸ばした、僕の右腕と共に。それらは走る鉄塊に押し流されて、二度と届かぬ所へと行ってしまった。



今でも思い出す。青く照らされた夜へと飛び立つ彼女の後ろ姿と、あの時の芳香。

無くしたはずの右腕は、未だに痛みを発している。無くしたものが痛むなんて、そんな筈はないのに。こういう痛みを幻肢痛、と呼ぶらしい。まさしく、彼女は幻になった。幻になってなおも、僕の耳元で囁き続ける。




「先生は、どっちを選ぶ?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「蛍光灯?」



「因みに被害者の部屋の蛍光灯の色は元々白よ。型番も調査の結果白色として販売されている蛍光灯だった。にも関わらず蛍光灯は青色に変色してる。どのようにして変色させたのかは鑑識が調査中。」



「ターゲットの能力と何か関係があるということかね。」



電話で神永に呼び出された僕は、今彼女の部屋にいる。また不可解な事件が起きたから調査してほしいとのことだ。それにしても妙な事件だ。



「・・・で、その被害者たちってみんなペシャンコなんでしょ?」



「ペシャンコよ。『横』から何か大きなものに激突されたみたいにね。このケースはこれで4件目ね。」



どうもこの一連の被害者には奇妙な共通点が3つあるらしい。

1つ目は、被害者の遺体には全て、横からダンプカーか何かに激突されたかのような不自然な形跡があるということ。

2つ目は、被害者の近くにある照明が1つ青色に変色しているということ。これは室内であれ、屋外であれ関係なく発生する。今回は屋内だったが、他三件は屋外で発生した事件であり、近くにあった街灯が何故か青色に変色していたらしい。なお変色したメカニズムに関しては一切不明。

そして3つ目は、これらの被害者が全て同じ女子高校の生徒であるという事。



「怖すぎだろ。こんなもの僕には荷が重すぎる。犯人の特定はまだしも、僕がこの凶行を止めるのは無理があるよ。下手すりゃあ僕もペシャンコさ。」



というか関わりたくない。権藤なんかよりよっぽど危険そうじゃないか。



「まぁ気持ちはわかるわ。」

「いや分かってないだろ、この冷血漢め。」

「分かってるわよ。だから今回は助っ人を用意してあげてるのよ。」



いくら人員をつけたところで、能力者相手ではあまり意味が無いように思うが。



「助っ人?まあ、助っ人でもなんでも良いけどさ、そもそもこいつをどうするつもりなんだ?仮に捕まえたって法的に立件できないと思うんだけど。ていうか警察はこの不可解な事件をどう思ってるわけ?」



当然の疑問だろう。今回の件は権藤の時と違って、周囲の誰がどうみても超常現象だ。科学的に説明できないようなことが起きている。まず警察の手に負えるようなものではないだろう。



「警察はこの事件に厳正な報道規制と情報統制を行っているわ。でなければ今頃世間は大騒ぎだもの。それにこういう不思議な事件は初めてじゃないのよ。たまに起きては、未解決のまま闇に葬られる事が大半。そういう事件記録を、結構たくさん見てきたわ。そういう情報を閲覧できるのも、警察庁長官の娘である私の特権よね。」



「いやそれ特権じゃなくて犯罪だから。」



こんな女が娘になってしまった、彼女の父親を僕は哀れに思った。これがバレれば警視庁長官の立場を追われることは必至だ。それか、バレないように彼女の父親が揉み消すだろうか。もしかしたら、それが分かっているから彼女はこんな大胆な行動を取れているのかもしれない。



「あと立件に関しては心配しないで。そもそも立件するつもりないから。貴方結構、『運が良い』わよ。おかげでうまい具合に対処できる。」



「それはどういうーー」



「とにかく、明日指定した日時に事件現場に行ってきて頂戴。そこに用意した助っ人がいるから、今後は『彼女』とよく打ち合わせて作戦を立てて。」



神永は話をぶち切り「じゃあ」といってさっさと部屋を出て行ってしまった。相変わらず、彼女は必要以上の説明を嫌がる。呼び出されてものの5分で会議は終わった。

体を張って危険に身を投じる僕に、彼女はもっと敬意を払うべきだ。依頼者なら依頼者としての義務を最低限果たして欲しい。

1人残された部屋の中、僕は立ち尽くす。

『彼女』と言っていたが、助っ人は女性なのか。であれば尚更心許ない、と僕は思った。この先のことが思いやられる気分だ。

ここからこの犯人に対処するビジョンが一切浮かんでこないのだ。



「はぁ・・・」



思わず深いため息を吐き、頭を抱える。権藤の時に感じたが、彼女と関わってるといつか僕は破滅する気がする。あれからそれなりのお金を神永から貰ったわけだが、その額の多さがむしろ僕の行先の不安を煽るのだ。

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