24 / 43
2章: リンドウの花に、口づけを
2-11 後日談:また、観れると良いな。
しおりを挟む
「それで、むざむざと帰ってきたわけ?」
凍てつくような視線と刺々しい声。僕は今彼女の部屋にまたもや呼び出されていた。
あれから、ユズキさんと僕はそれぞれあの駅で解散した。もう彼女と暫く会うことは無いだろう。今回の依頼は、犯人が死んだ事により失敗した。彼女も今頃は権藤に怒られたりしてるんだろうか。
「いいじゃん。これで事件解決じゃん。もう殺人は起こらない。」
神永はため息をつく。
「そういう問題じゃないのよ。彼、怒ってたわ。『話が違う。何の為に人員を寄越したと思ってる』ってね。せっかく私が橋渡しをしたのに。もう彼は私達に協力しないかも。」
「えぇ~!」
「えぇ~、じゃないわよ。しょうがないでしょ。貴方達がヘマしたからじゃない。」
「でも誰もあんなことになるとは思わないよ。誰のせいでもないさ、あんなのは。」
「それは・・・わかっているけれど。はぁ。」
実際そうだろう。まさか能力で自殺できるとは思わない。というか、分かっていたところでどうしようも無い。
「それに、あんなキチガイ向こうに送ったってどうせ『処理』されてたよ。あんなもの、使い物にならないもん。」
「だから、そういう問題じゃ・・・。いや、もういいわ。これ以上文句を言っても不毛ね。」
僕はぱちぱちと拍手をする。
「流石、素晴らしい判断力だ。」
「その代わり、お兄さんの情報は渡さないわ。だって依頼は達成されてないんですから。」
「・・・オイ。ふざけるなよ。」
「あら、そんな怖い顔しないで。冗談よ。」
してやったりと笑みを浮かべる神永。思わず挑発に乗ってしまったことを悔やむ。
「ただ支払う額は少なめよ。それは仕方のないことよね。」
「とにかく、二つ目の兄の情報を言え。」
「はいはい。二つ目は『彼には彼女がいたらしい』という情報よ。警察が関係者の聞き込み調査をして分かったそうよ。」
彼女。僕はともかく、父や母ですら恐らくそれを知らない。いや、彼のスペックを考えると、腹立たしいことに居てもおかしくはないが・・・
「その『関係者』って誰だよ。兄の同級生とかか?」
「そうじゃない?詳細は知らないけれど、まぁそれ以外居ないものね。」
「その関係者が具体的に誰かは分からないのか?彼女ってのは誰なんだ。」
「だから知らないわよ。それが分かってたら教えてるわ。でも、これは結構重要な情報なんじゃないの?貴方のお兄さんが何を考えていたのか、何故死にたいと思っていたのかをその彼女とやらは知っているかも。」
そういえば、こいつは僕と権藤の会話を盗聴していたのだった。まったく、家族のプライベートな話なのに、その侵害も甚だしい。だが皮肉なことに、現状彼女は僕よりも兄のことを色々知っている。
これは、本当に笑える皮肉だ。僕は自嘲した。
「まぁ、分かったよ。また依頼があれば頼んでくれ。次はヘマしないようにするって権藤にもできれば伝えといてくれよ。」
基本的に表情の変化に乏しい彼女は、珍しく驚嘆の表情を僅かに見せた。
「あら、いい心がけね。次は、期待させて頂戴。」
不敵な笑みを湛える彼女を背に、僕は彼女の部屋を後にした。
あの日、家から持ち帰った白川コウの衣服の一部と血液から、僕は彼の半生を読み取った。いつも視る情報量をより多く読み取れた。その要因が何だったのかはわからない。彼の想いの強さなのか、それとも遺留品の鮮度の問題か、僕の能力が強化されたのか。
とにかく、面白かった。どうやら彼の動機は復讐ではなく「生きる為には選ばなければいけない」という強迫観念だったようだ。それが彼に亡霊のように取り憑き、あれらの凶行を起こさせた。
能力者はおよそ普通の人間とは違う物語を持っている。故に見応えのある記憶だった。僕が神永に前向きな発言をしたのは、単に彼の記憶が視れて気分がよかったからだ。
再び、能力者の記憶が視れると良いなと思うようになった。だがそれはつまり能力者が死ぬということで、また神永の依頼を失敗してしまうということだ。
ーーそれは流石に良くないか、と僕は1人笑った。
凍てつくような視線と刺々しい声。僕は今彼女の部屋にまたもや呼び出されていた。
あれから、ユズキさんと僕はそれぞれあの駅で解散した。もう彼女と暫く会うことは無いだろう。今回の依頼は、犯人が死んだ事により失敗した。彼女も今頃は権藤に怒られたりしてるんだろうか。
「いいじゃん。これで事件解決じゃん。もう殺人は起こらない。」
神永はため息をつく。
「そういう問題じゃないのよ。彼、怒ってたわ。『話が違う。何の為に人員を寄越したと思ってる』ってね。せっかく私が橋渡しをしたのに。もう彼は私達に協力しないかも。」
「えぇ~!」
「えぇ~、じゃないわよ。しょうがないでしょ。貴方達がヘマしたからじゃない。」
「でも誰もあんなことになるとは思わないよ。誰のせいでもないさ、あんなのは。」
「それは・・・わかっているけれど。はぁ。」
実際そうだろう。まさか能力で自殺できるとは思わない。というか、分かっていたところでどうしようも無い。
「それに、あんなキチガイ向こうに送ったってどうせ『処理』されてたよ。あんなもの、使い物にならないもん。」
「だから、そういう問題じゃ・・・。いや、もういいわ。これ以上文句を言っても不毛ね。」
僕はぱちぱちと拍手をする。
「流石、素晴らしい判断力だ。」
「その代わり、お兄さんの情報は渡さないわ。だって依頼は達成されてないんですから。」
「・・・オイ。ふざけるなよ。」
「あら、そんな怖い顔しないで。冗談よ。」
してやったりと笑みを浮かべる神永。思わず挑発に乗ってしまったことを悔やむ。
「ただ支払う額は少なめよ。それは仕方のないことよね。」
「とにかく、二つ目の兄の情報を言え。」
「はいはい。二つ目は『彼には彼女がいたらしい』という情報よ。警察が関係者の聞き込み調査をして分かったそうよ。」
彼女。僕はともかく、父や母ですら恐らくそれを知らない。いや、彼のスペックを考えると、腹立たしいことに居てもおかしくはないが・・・
「その『関係者』って誰だよ。兄の同級生とかか?」
「そうじゃない?詳細は知らないけれど、まぁそれ以外居ないものね。」
「その関係者が具体的に誰かは分からないのか?彼女ってのは誰なんだ。」
「だから知らないわよ。それが分かってたら教えてるわ。でも、これは結構重要な情報なんじゃないの?貴方のお兄さんが何を考えていたのか、何故死にたいと思っていたのかをその彼女とやらは知っているかも。」
そういえば、こいつは僕と権藤の会話を盗聴していたのだった。まったく、家族のプライベートな話なのに、その侵害も甚だしい。だが皮肉なことに、現状彼女は僕よりも兄のことを色々知っている。
これは、本当に笑える皮肉だ。僕は自嘲した。
「まぁ、分かったよ。また依頼があれば頼んでくれ。次はヘマしないようにするって権藤にもできれば伝えといてくれよ。」
基本的に表情の変化に乏しい彼女は、珍しく驚嘆の表情を僅かに見せた。
「あら、いい心がけね。次は、期待させて頂戴。」
不敵な笑みを湛える彼女を背に、僕は彼女の部屋を後にした。
あの日、家から持ち帰った白川コウの衣服の一部と血液から、僕は彼の半生を読み取った。いつも視る情報量をより多く読み取れた。その要因が何だったのかはわからない。彼の想いの強さなのか、それとも遺留品の鮮度の問題か、僕の能力が強化されたのか。
とにかく、面白かった。どうやら彼の動機は復讐ではなく「生きる為には選ばなければいけない」という強迫観念だったようだ。それが彼に亡霊のように取り憑き、あれらの凶行を起こさせた。
能力者はおよそ普通の人間とは違う物語を持っている。故に見応えのある記憶だった。僕が神永に前向きな発言をしたのは、単に彼の記憶が視れて気分がよかったからだ。
再び、能力者の記憶が視れると良いなと思うようになった。だがそれはつまり能力者が死ぬということで、また神永の依頼を失敗してしまうということだ。
ーーそれは流石に良くないか、と僕は1人笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる