王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

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断章 義理の息子の記録

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 私は戦災孤児で、エルドニア王国の辺境の領主が起こした反乱のせいで家族と、住むところを失った。
 記憶があるのは燃え盛る家と血を流し倒れている父と母。
 その後のことはよく覚えていない。
 気が付くとベッドの上だった。
「お、目が覚めたか?良かった良かった。」
 目の前には銀髪の若い男がいた。
「誰?」
「……覚えてないのか?」
 何やら記憶が曖昧である。
 おぼろげな記憶が少しずつ蘇ってくる。
 こことは明らかに違う世界。
 薙刀を振るい無数の敵兵を殺している。
 最後は四方から畳を盾に取り押さえられ殺される。
 自然と涙が出てくる。
「どうした!だ、大丈夫か!?」
 何故かは分からないが涙が溢れてくる。
 目の前の銀髪は大騒ぎしている。
 とにかく今は静かにしてほしい。

 あれから数年が経った。
 あの謎の記憶も所々、少しずつ蘇ってくる。
 どうやら自分の前世のようだ。
 将軍と呼ばれていたので調べてみたが該当するものはない。
 どうやら別の世界の出来事らしい。
 前世では足利義輝という名で将軍としてやっていたらしい。
 因みにだが、その辺境領主の反乱はすぐに鎮圧されたが、その鎮圧戦は悲惨なものだったらしい。
 住民もほんの少しでも逆らえばすぐに殺されたらしい。
 そして年が経ち、記憶が混同していくにつれ、少しずつ口調や言動、思考が変わってきた。
「おい、どうした?かかってこないのか?」
「うるさい!」
 今は義理の父となったセインと剣術の訓練をしていた。
 このセインは鎮圧戦の際に従軍していたらしく、自分を保護したのもこの人だそうだ。
 木剣で斬りかかる。
 が、軽くいなされる。
「そんなものか!?」
 セインの剣の訓練はとても厳しい。
 ということにしておく。
 正直前世の記憶のある自分からしたらこの世界の剣術は大したものではない。
 ただ、純粋な筋力や、体力の問題で少々つらいところはある。
「……今日はもうやめておこう。」
「……まだやれる。」
 この世界の剣術から学べることは少ないが、自分の体力向上の為には使える。
「いや、そろそろアルフレッド様が来られる。お前も体をきれいにしてきなさい。」
 確かに汗をかきすぎた。
 そういえば今日はこの国の王子、アルフレッドがこの領地に来るらしい。
 この領地はあの反乱を起こした領主のいた土地で、しばらくは領主が居ない状況だった。
 この度、色々あってこの領地の領主をアルフレッドがすることになった。
 ……取り敢えず風呂に入ろう。

 遠くから見かけた王子の印象は最悪だった。
 自分の地位にあぐらをかき、偉そうにしていた。
 そしてそれを叱る者もいなかった。
 なぜならとても優秀だったからだ。
 反乱の鎮圧戦のせいで街は酷いもので、人が離れ始めていた。
 それをまだ幼いながらも見事に内政をこなし、領地を立て直したのだ。
 同い年とは思えない。
 それほどまで教育係が優秀だったのか、それとも天才なのか。
 どちらにせよ、気に食わないことには代わりはない。

 アルフレッドがこの領地に来てから数年が経った。
 セインとその父セイルズはアルフレッドに仕える執事となった。
 どうやらセイルズは昔からアルフレッドの事を知っていたようだ。
 遠巻きにでも良く仕えているのがわかる。
 セインもアルフレッドの剣術指南役としてアルフレッドにつきっきりになっていた。
 そして、自分の記憶についてだが前世の記憶がどんどんと薄れて行っているのがわかる。
 まだ完全に思い出してもいないのに消えていく。
 ただ、剣術については体が覚えているのか、自然と動く。
 昔から影でセインに見つからないように特訓していたのだ。
 今も素振りを続けている。
 が、アルフレッドが来てからと言うもの、よく邪魔が入る。
「ジョナサンちゃーん。どこにいるのー?フレンが来ましたよー。」
 アルフレッドの母親フレンである。
 何故か俺のことをちゃん付けで呼び、ことあるごとに構ってくる。
 どうやら親バカという人種らしく、セインのことも息子同然にかわいがっているらしい。
 ということはフレンから見れば、俺は孫ということだ。
(くそ!早くどこかへ行ってくれ!訓練が出来ない!)
 まぁ、孫じゃなくても自分の息子と同い年なのだから構おうとするのもわかるのだが。
 捕まればどうなるか想像したくもない。
 一度捕まったことがあるが、あれは思い出したくもない。
「ジョナサン?何してるんだ?」
「ひっ!ア、アルフレッド様!?」
 木陰に隠れていたのだが、後ろからアルフレッドに声をかけられる。
 しかし、俺が何をしているのか気付いたのか、すぐさま共に隠れてくれた。
「なるほどな……。すまない。お前も同じか。」
「え?」
 話を聞くとどうやらアルフレッドもフレンから逃げていたらしい。
 それにセイルズからも逃げていたとのことだ。
 どうやら流石に内政が嫌になったようだ。
 流石に年相応ということか。
「こっちだ。秘密の抜け道がある。ついてこい。」
「は、はい。」

 アルフレッドに付いて行き、城の外まで出てこれた。
 河川敷で草の上に寝転がる。
「なんとかまけたな。」
「はい。ありがとうございます。」
 そういえば、アルフレッドとはしっかりとした面識はなかったがこちらの事を理解していたのだろうか?
「そういえばセインがお前の事を話していたぞ。」
「え?」
「義理の息子と剣筋が似てるって。俺のことを褒めてくれてな。訓練を続ければとても強くなるとな。」
 つまり、いつもダメ出しをしていたかに見えてしっかりと評価はしていたのだ。
「あいつとの関係はなかなかややこしいものだってことは理解している。だが、少しくらいは心を許してやったらどうだ?」
 これまでまともに話したことは無かったが、幼いながらもしっかりとした人だ。
 この人の成長を見てみたい気もする。
「……そうですね。善処してみます。」
 すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アルフレッド様!どこですか!?」
「セインか。どうやら迎えが来たみたいだな。」
 アルフレッドは立ち上がる。
 すると、セインも見つけられたようだ。
 こちらに駆け寄ってくる。
「アルフレッド様!あれ?ジョナサンと一緒だったのですか?」
「あぁ、少し気分転換に付き合ってもらっていた。」
 そういえばここに来たばかりのあの偉そうな態度をしなくなった。
 なんとなく片鱗は見えてはいるが、随分と丸くなったものだ。
 ここに来てからいい人達と関わりあえたのが大きかったのだろう。
「そうなのか?ジョナサン?」
「えーと……。あぁ。」
 頷く。
 いつもなら罵倒して逃げ出すのだが、今はやめておこう。
 すこしくらいは親孝行してもいいだろう。
 セインは少し気持ち悪いと言っても良いような笑顔を浮かべている。
「いやージョナサンもついに心を許してくれたか。アルフレッド様から何か言われたのですか?」
「いや、何も。」
 アルフレッドは何も知らないといった感じである。
「あ!そういえば!すまないジョナサン!お前が小さい頃から大事にしてた人形、部屋を片付けてた時に壊したんだった。」
 ちらりとこちらを見る。
 心を許したら何でも許されるとでも思っていたのだろうか。
 その人形はセインの養子になる前から持っていたものだった。
「心を許したついでにこれも……。」
「……許されると思ってんのか!?」
 訓練の途中だったので木剣を持っていたのでそれで思い切り殴る。
 そしてそのまま逃亡する。
 まぁ、これぐらいはされても当然だろう。
「痛い……。」
「今のはお前が悪いな。」
 アルフレッドはわかってくれたようだった。
 まぁ、死ぬまでに親孝行くらいはしてやろう。
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