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アナテルの悲劇
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「くそ!」
念のため自室に戻り、武装を整えてから地下牢を見に行ったが、そこにあったのは見張りの兵の死体と空になった牢、そして血まみれの牢だけであった。
状況から察するにスロールが、事前に魔道具か神具かはわからないが、爆弾を体内に仕込んでいたのだろう。
牢にいれる際に衣服は全て指定のものに変わる。
仕込めるとすれば体内だ。
そしてそれを起爆し、壊れた牢から出た囚人が見張りの死体から鍵をとり、解放。
ジェラルドの牢は最初の自爆で牢が壊れたようだ。
そして、肝心のスロールの自爆のタイミングだが、予め示し合わせていたのだろう。
詳しくは分からないが、内通者かスパイのような存在がこの国に入り込んでいるかもしれない。
だが、道中誰にも遭遇しなかった。
一体何処に行ったのだろうか。
そして、この手薄なときに仕掛けてくる。
これも計算のうちなのだろうか。
恐らくジェラルドや囚人が逃亡し、騒ぎをおこす。
その騒ぎのうちに市民に偽装した敵が街中で暴れるといったところか。
等と考えながら外に出る。
案の定町からは悲鳴がきこえ、火の手が上がっている。
「いたぞ!」
振り替えるとそこにはフードを深く被った3人の男達が武器を構えていた。
こちらも武器を抜く。
「何者だ!?」
「問答無用!」
すぐに切りかかってくる。
が、軽くいなし、返り討ちにする。
「なんだ?弱いな。奇襲は得意だが、それ以外はダメなようだな。」
「くっ!退くぞ!」
引き際は良い。
しかし、あんなやつらが城に入り込んでいるのでは、ネロも危ない。
直ぐに玉座の間にもどり、近衛を集めて街を救いに行かなければならない。
「こ、これは……。」
玉座の間に入ると、そこは血まみれの状態だった。
無数の死体が転がり、生きているものは一人も居ないようだ。
「ネロ!何処だ!?何処にいる!?」
しかし、返事はない。
辺りを見渡し、探す。
「……っ!」
見つかってほしくはなかった。
できれば見つからずに何処かで生きている可能性があればまだ希望を持てて生きていけたのに。
足に何かが当たった。
それはネロの首であった。
それを拾い上げる。
「ぐっ……。」
声が漏れてしまう。
おや、もうこらえるのは限界だ。
「うぁぁぁぁ!!!!」
城に叫びが響く。
敵に聞こえてしまうかもしれないが、もはやお構い無しだ。
「お、いたいた。」
声の方に振り向く。
そこには幼い少女がいた。
セインの報告にあったリンだろう。
銃を持っていたからだ。
「お前がやったのか?」
「いや、私じゃないよ。そんな悪趣味なことしないって。」
ネロの頭を布で包み、抱えながら立ち上がり、歩きだす。
「なら、どうでも良い。」
「ちょっと待ちなよ。おっさん。」
銃を、向けられたことが分かる。
ネロを静かな所に持っていきたかったのだが、まずはこちらが先なようだ。
ネロの頭をそっと地面に置く。
「邪魔をするな……。」
「もういいや、死にな。」
相手が引き金を引いた。
銃声が鳴り響く。
が、俺は生きている。
「は!?何で!?」
引き金の部分の指の動きと銃口をみて、最小限の動きでかわしたのだ。
「邪魔だ。消えろ。」
すぐさま距離をつめ、剣を抜き、斬ろうとした。
「あ、やばい。」
が、その剣が届くことはなかった。
「だから油断しすぎだっていっつも言ってるだろ?」
その剣先が無かったのだ。
すぐ近くには報告にあった、ランと思わしき少年が既に大剣を振り下ろしていた。
こちらの剣を叩き折ったのだ。
「くっ!」
すぐさま距離を取る。
あのまま反撃されていたら危なかった。
「あ~あ逃げられちゃった。」
「お前何やってんだよ、一発目は外すなよ。」
相手は口論を始めた。
今のうちにこちらも準備をしておく。
奴らを殺さなければ、ネロを弔うことも出来ないだろう。
「うるさいなぁ。仕方無いでしょう?かわされちゃったんだから。」
「そんなわけ無いだろ!この世界で銃を知っているやつなんか……。」
こちらは隠し持っていた銃を抜き、相手に向ける。
密かに作らせていた。
決して気取られないように、極秘に製造していたのだ。
「やべっ!」
「え?」
引き金を引く。
「痛っ!」
まだ、試射すらしたことがないので、まともに飛ぶかも分からないがぶっつけ本番だ。
が、うまく命中してくれた。
ランの方には避けられたが、リンの方には命中した。
が、肩をかすった程度だ。
「ちっ!」
「おい!なんであっちが銃を持ってるんだよ!?」
「知らないよ!そんなことより血が出てるんだけど!」
向こうは大騒ぎである。
戦闘で傷を負ったことが無いのだろうか。
今のうちに場を後にする。
向こうは弾の装填はまだだし、絶好のチャンスだ。
ネロの頭を抱え、走り出す。
「あっ!逃げた!」
「えっ!?」
気づいた時にはもう遅く、部屋をあとにしていた。
部屋の中からまた口論が聞こえる。
取り敢えず、今は弔うとしよう。
「ネロ……。」
墓を簡易的に作り、城の端にある静かな庭に埋めた。
出来れば体と一緒に埋めたかったのだが、それは叶わないだろう。
近衛兵の姿も見当たらない。
あのフードを被った者達に襲われ、皆死んだのだろうか。
いや、優秀な者達ばかりだ。
全滅はしていないだろう。
だが、敵はアナテルを根絶やしにするつもりらしい。
あの賑やかだった街は見る影もない。
「街に行くか。」
街が襲われている。
ならば王として救いに行かない訳には行かない。
血溜まりの中で倒れているのは父親だろうか。
街は酷い状況だ。
「や、やめて!」
「お母さん!」
敵は子供を持ち上げ、剣を刺す。
「助……て。」
「お願い!やめて!」
母親も縛られ、目の前で子供が痛めつけられていく。
敵兵達はそれを笑いながら見ている。
母親も悲鳴を上げている。
「おい!この女は殺すなよ!俺達で楽しもうぜ!」
「いいねぇ!楽し……。」
しかし、その言葉の続きは無かった。
子供を襲った敵の首は既に地に落ちていたのだ。
「私の民に手を出したこと、後悔させてやる!」
様子を見ていようかとも考えたが、耐えられなかった。
残った敵兵は逃げ出していった。
子供を見てみたが、既に息はなく、ほぼほぼ即死だったことが分かる。
「こ、国王陛下!?」
「今すぐ逃げろ。安全なところへ。」
しかし、その母親は逃げようとしない。
「どうした?」
「助けて頂き、感謝します。ですが、もうすでに安全な場所などございません。船は全て燃やされ、有事の際の避難所も全て襲撃を受けました。奴らは私達を皆殺しにするつもりです!……夫も子供ももう死にました。」
するとその母親は敵の持っていた剣を手に取った。
「私もあの人たちの居るところへ向かいます。もうこの世に生きている意味が無くなりました。」
「っ!よせ!」
母親は剣を首に突き刺した。
そのまま血を吹き出し、絶命する。
「……くそっ!」
もはや王失格だ。
しかし、最後にやらなければならないことがある。
「お!いたいた!王様ー!探しましたよー!」
ネロの、民の仇を討たなければならない。
「いやーあの王妃様全然あんたがどこにいるか言わなかったからさー殺しちゃったよー。」
「ねぇラン。ちょっとバイゼルうるさい。殺していい?」
「そう言うなってリン。大事な仲間だろ?」
敵のこの襲撃のリーダー格と思われる3人が表れる。
「さっきは油断したけどさ、今度こそ殺してやるよ。」
「うん。私を傷つけた罪は償ってもらうよ。」
「あんたの配下にコケにされたんでな。ただじゃあ殺さねぇ。」
相手は殺意剥き出しだ。
しかし、こちらは全員殺すつもりでいる。
「ネロの、民の仇。貴様らをただでは殺さん。死よりも恐ろしい経験をしてもらおう。」
コートを脱ぎ剣を構える。
体には銃のホルスターが6つ。
銃は火縄銃をもとにしているので、連発ができない。
ならば予め何丁も用意しておけば良いのだ。
当時の海賊なんかではよく使われていた物だ。
そして相手はこちらの殺気に圧倒されているのがわかる。
「っ!こいつは……。」
「ちょっとまずいかもね。」
「なぁリン。俺やっぱやめていい?」
銃を抜き、相手に向ける。
「さぁ、黒髭の恐ろしさを知るが良い!」
念のため自室に戻り、武装を整えてから地下牢を見に行ったが、そこにあったのは見張りの兵の死体と空になった牢、そして血まみれの牢だけであった。
状況から察するにスロールが、事前に魔道具か神具かはわからないが、爆弾を体内に仕込んでいたのだろう。
牢にいれる際に衣服は全て指定のものに変わる。
仕込めるとすれば体内だ。
そしてそれを起爆し、壊れた牢から出た囚人が見張りの死体から鍵をとり、解放。
ジェラルドの牢は最初の自爆で牢が壊れたようだ。
そして、肝心のスロールの自爆のタイミングだが、予め示し合わせていたのだろう。
詳しくは分からないが、内通者かスパイのような存在がこの国に入り込んでいるかもしれない。
だが、道中誰にも遭遇しなかった。
一体何処に行ったのだろうか。
そして、この手薄なときに仕掛けてくる。
これも計算のうちなのだろうか。
恐らくジェラルドや囚人が逃亡し、騒ぎをおこす。
その騒ぎのうちに市民に偽装した敵が街中で暴れるといったところか。
等と考えながら外に出る。
案の定町からは悲鳴がきこえ、火の手が上がっている。
「いたぞ!」
振り替えるとそこにはフードを深く被った3人の男達が武器を構えていた。
こちらも武器を抜く。
「何者だ!?」
「問答無用!」
すぐに切りかかってくる。
が、軽くいなし、返り討ちにする。
「なんだ?弱いな。奇襲は得意だが、それ以外はダメなようだな。」
「くっ!退くぞ!」
引き際は良い。
しかし、あんなやつらが城に入り込んでいるのでは、ネロも危ない。
直ぐに玉座の間にもどり、近衛を集めて街を救いに行かなければならない。
「こ、これは……。」
玉座の間に入ると、そこは血まみれの状態だった。
無数の死体が転がり、生きているものは一人も居ないようだ。
「ネロ!何処だ!?何処にいる!?」
しかし、返事はない。
辺りを見渡し、探す。
「……っ!」
見つかってほしくはなかった。
できれば見つからずに何処かで生きている可能性があればまだ希望を持てて生きていけたのに。
足に何かが当たった。
それはネロの首であった。
それを拾い上げる。
「ぐっ……。」
声が漏れてしまう。
おや、もうこらえるのは限界だ。
「うぁぁぁぁ!!!!」
城に叫びが響く。
敵に聞こえてしまうかもしれないが、もはやお構い無しだ。
「お、いたいた。」
声の方に振り向く。
そこには幼い少女がいた。
セインの報告にあったリンだろう。
銃を持っていたからだ。
「お前がやったのか?」
「いや、私じゃないよ。そんな悪趣味なことしないって。」
ネロの頭を布で包み、抱えながら立ち上がり、歩きだす。
「なら、どうでも良い。」
「ちょっと待ちなよ。おっさん。」
銃を、向けられたことが分かる。
ネロを静かな所に持っていきたかったのだが、まずはこちらが先なようだ。
ネロの頭をそっと地面に置く。
「邪魔をするな……。」
「もういいや、死にな。」
相手が引き金を引いた。
銃声が鳴り響く。
が、俺は生きている。
「は!?何で!?」
引き金の部分の指の動きと銃口をみて、最小限の動きでかわしたのだ。
「邪魔だ。消えろ。」
すぐさま距離をつめ、剣を抜き、斬ろうとした。
「あ、やばい。」
が、その剣が届くことはなかった。
「だから油断しすぎだっていっつも言ってるだろ?」
その剣先が無かったのだ。
すぐ近くには報告にあった、ランと思わしき少年が既に大剣を振り下ろしていた。
こちらの剣を叩き折ったのだ。
「くっ!」
すぐさま距離を取る。
あのまま反撃されていたら危なかった。
「あ~あ逃げられちゃった。」
「お前何やってんだよ、一発目は外すなよ。」
相手は口論を始めた。
今のうちにこちらも準備をしておく。
奴らを殺さなければ、ネロを弔うことも出来ないだろう。
「うるさいなぁ。仕方無いでしょう?かわされちゃったんだから。」
「そんなわけ無いだろ!この世界で銃を知っているやつなんか……。」
こちらは隠し持っていた銃を抜き、相手に向ける。
密かに作らせていた。
決して気取られないように、極秘に製造していたのだ。
「やべっ!」
「え?」
引き金を引く。
「痛っ!」
まだ、試射すらしたことがないので、まともに飛ぶかも分からないがぶっつけ本番だ。
が、うまく命中してくれた。
ランの方には避けられたが、リンの方には命中した。
が、肩をかすった程度だ。
「ちっ!」
「おい!なんであっちが銃を持ってるんだよ!?」
「知らないよ!そんなことより血が出てるんだけど!」
向こうは大騒ぎである。
戦闘で傷を負ったことが無いのだろうか。
今のうちに場を後にする。
向こうは弾の装填はまだだし、絶好のチャンスだ。
ネロの頭を抱え、走り出す。
「あっ!逃げた!」
「えっ!?」
気づいた時にはもう遅く、部屋をあとにしていた。
部屋の中からまた口論が聞こえる。
取り敢えず、今は弔うとしよう。
「ネロ……。」
墓を簡易的に作り、城の端にある静かな庭に埋めた。
出来れば体と一緒に埋めたかったのだが、それは叶わないだろう。
近衛兵の姿も見当たらない。
あのフードを被った者達に襲われ、皆死んだのだろうか。
いや、優秀な者達ばかりだ。
全滅はしていないだろう。
だが、敵はアナテルを根絶やしにするつもりらしい。
あの賑やかだった街は見る影もない。
「街に行くか。」
街が襲われている。
ならば王として救いに行かない訳には行かない。
血溜まりの中で倒れているのは父親だろうか。
街は酷い状況だ。
「や、やめて!」
「お母さん!」
敵は子供を持ち上げ、剣を刺す。
「助……て。」
「お願い!やめて!」
母親も縛られ、目の前で子供が痛めつけられていく。
敵兵達はそれを笑いながら見ている。
母親も悲鳴を上げている。
「おい!この女は殺すなよ!俺達で楽しもうぜ!」
「いいねぇ!楽し……。」
しかし、その言葉の続きは無かった。
子供を襲った敵の首は既に地に落ちていたのだ。
「私の民に手を出したこと、後悔させてやる!」
様子を見ていようかとも考えたが、耐えられなかった。
残った敵兵は逃げ出していった。
子供を見てみたが、既に息はなく、ほぼほぼ即死だったことが分かる。
「こ、国王陛下!?」
「今すぐ逃げろ。安全なところへ。」
しかし、その母親は逃げようとしない。
「どうした?」
「助けて頂き、感謝します。ですが、もうすでに安全な場所などございません。船は全て燃やされ、有事の際の避難所も全て襲撃を受けました。奴らは私達を皆殺しにするつもりです!……夫も子供ももう死にました。」
するとその母親は敵の持っていた剣を手に取った。
「私もあの人たちの居るところへ向かいます。もうこの世に生きている意味が無くなりました。」
「っ!よせ!」
母親は剣を首に突き刺した。
そのまま血を吹き出し、絶命する。
「……くそっ!」
もはや王失格だ。
しかし、最後にやらなければならないことがある。
「お!いたいた!王様ー!探しましたよー!」
ネロの、民の仇を討たなければならない。
「いやーあの王妃様全然あんたがどこにいるか言わなかったからさー殺しちゃったよー。」
「ねぇラン。ちょっとバイゼルうるさい。殺していい?」
「そう言うなってリン。大事な仲間だろ?」
敵のこの襲撃のリーダー格と思われる3人が表れる。
「さっきは油断したけどさ、今度こそ殺してやるよ。」
「うん。私を傷つけた罪は償ってもらうよ。」
「あんたの配下にコケにされたんでな。ただじゃあ殺さねぇ。」
相手は殺意剥き出しだ。
しかし、こちらは全員殺すつもりでいる。
「ネロの、民の仇。貴様らをただでは殺さん。死よりも恐ろしい経験をしてもらおう。」
コートを脱ぎ剣を構える。
体には銃のホルスターが6つ。
銃は火縄銃をもとにしているので、連発ができない。
ならば予め何丁も用意しておけば良いのだ。
当時の海賊なんかではよく使われていた物だ。
そして相手はこちらの殺気に圧倒されているのがわかる。
「っ!こいつは……。」
「ちょっとまずいかもね。」
「なぁリン。俺やっぱやめていい?」
銃を抜き、相手に向ける。
「さぁ、黒髭の恐ろしさを知るが良い!」
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