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牢の中で

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「……ん。」
 
 目が覚める。
 ここ三年、全く同じ天井を見ながら目が覚めている。
 
「隊長!朝です!点呼ですよ!」
「分かってる。」
 
 俺は部下と共にアメリカ軍に捕まり、投獄された。
 逃げ延びた部下も居るようだが、ここにいる間その辺りの情報は全く入っていない。
 新聞なんかで世界情勢は入ってくるが、その程度だ。
 
「まぁ、俺達は点呼に出る必要は無いんだがな。」
「いや、でも出ましょうよ。さすがに。」
 
 同室には俺の部隊のナンバースリーとも言える部下、スミスの右腕とも言える優秀な奴がいる。
 若干ウザく感じている。
 
「マイク。俺は寝る。」
「隊長ぉ~。起きましょー。」
 
 少し軽いのが勿体無いが優秀であることに変わりはない。
 
「俺達は優遇されてるからな。」
 
 アメリカはあのAIを使いこなせてはいない。
 その為、唯一それを使いこなしていた俺達は優遇されている。
 情報を引き出す為だ。
 勿論、誰一人として口を開くものは居ない。
 それも当たり前だろう。
 皆が慕っていたスミスが、柏木が。
 苦楽を共にした戦友が殺されたのだ。
 口を開きたい者が居るはずが無い。
 
「隊長。朝食です。」
「おう。置いとけ。」
 
 マイクがトレーを置く。
 ここでは点呼と同時に朝食が配られる。
 
「……ん?」
 
 トレーを受け取ると、いつもと様子が違う事に気が付く。
 パンの置いてある皿がいつもと違う。
 皿の下を見る。
 すると、小さな紙が置いてある。
 マイクに静かにするように指示する。
 この部屋には盗聴器が仕掛けられている。
 ほんの少しでも情報を聞き出す為だ。
 
「……パンいるか?」
「ちゃんと食べて下さい。」
 
 他愛の無い会話を続けつつ小さく折りたたまれた紙を開く。
 そこには『準備良し』と書かれていた。
 それをマイクに見せる。

「……いいから食え。俺は寝る。」
「隊長……。」

 ベッドに横たわり、目を閉じる。
 いよいよこの時が来た。
 三年前の柏木の最後の依頼を果たせる時が来た。
 三年前の事を思い出す。


 
「私の作ったAIを破壊して下さい。」
 
 そう最後に言われた。
 
「今更なんですがあのAI、アイという名前なんです。」
「お前の妹と同じ名前か。」
 
 止血を続けるが血は止まらない。
 
「やっぱり……日本にお詳しいんですね。」
「……まぁな。」
 
 ほんの少しだが、日本については知っている。
 
「だが、どうやって勝つ。奴等に使われたら勝てんぞ。」
「……弱点が……あります。」
 
 段々と喋るのも辛そうになってきている。
 
「あれは……人の感情に疎いです……。第二次大戦の日本軍のデータを読み込ませたら……大抵エラーが……。」
「あぁ。それで?」
 
 傷口を押えつつ、話を聞く。
 せめて、最後まで聞いてやろう。
 
「特に大戦末期の……行動が……。」
「しっかりしろ!絶対にお前の依頼は果たして見せる!教えてくれ!」
 
 すると、柏木は少し笑った。
 
「……なんだかんだ言って、優しい……ですよね……。」
「……。」
 
 段々と柏木の力が抜けていく事を感じる。
 
「どうか……アイを……。」
「柏木……。」
 
 その言葉を最後に柏木は息を引き取った。
 あれから三年、俺は柏木のヒントをずっと考えていた。
 そこで、一つの答えにたどり着いた。
 それがあっていれば勝てる。
 柏木の最後の依頼を完璧に果たして見せる。
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