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工作員

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「ちっ!」
 
 核シェルターの中、ひたすらに廊下を走る。
 
「いたぞ!」
「逃がすな!」
 
 追手が引き金を引く。
 が、正確に狙われないようにジグザグに、不規則に走る。
 
「くそっ!ちょこまかと!」
 
 そのまま角に身を隠す。
 そして銃だけ出し、数発撃つ。
 敵の銃撃が止んだ事を確認してからまた走り出す。
 核シェルターを開けるコードは入手した。
 後は扉に辿り着くだけだ。
 だが、あと一歩のところで工作員だと見抜かれてしまった。
 これではあの人に顔向け出来ない。
 
「これが最後か……。」
 
 銃に弾を補充する。
 残る武器はリボルバーで六発のみだ。
 後はナイフ。
 扉まではそう遠くない。
 構造はかなり入り組んでいるので出会い頭に注意しなければ。
 
「よし。」
 
 角から走り出す。
 敵は居ない。
 だが、足音は響き続けている。
 敵はそう遠くない。
 
「っ!」
 
 曲がり角で止まる。
 そして、少し戻りロッカーの陰に隠れる。
 
「居たか!?」
「いや、居ない。あっちに行くぞ!」
 
 そのまま何処かへ去っていく。
 何とか気付かれなかったようだ。
 だが、奴等が去っていったのは扉のある所。
 それに、扉には見張りが立っているだろう。
 ……覚悟を決めるか。
 弾は六発。
 ナイフは一本。
 見張りが何人いるのか分からないが、やってやるしか無い。
 先程の男達は足を止め、地図を確認している。
 密かに近づき一人の首を掻っ切る。
 
「なっ!?」
 
 そのまま死体を捨て、こちらに正対した敵の銃を掴み、また喉を掻っ切る。
 
「おい!居たぞ!やっぱりここに来た!」
 
 そこは、扉の目の前だった。
 見張りの数は四人。
 最低二人を想定していたが、やはり多いな。
 死体を盾にし、一発放つ。
 
「ぐあっ!」
「くそっ!」
 
 心臓に当たった。
 即死だ。
 後三人。

「撃て!」
 
 すかさず反撃が飛んでくる。
 死体を盾にしつつ角に身を隠す。
 このまま戦うのは難しい。
 弾は後五発。
 この死体の武器を使おうと思っていたが先程ので壊れてしまった。
 死体ももう盾としては使えない。
 もう一つの死体も遠い。
 あれでは取りに行く間に撃たれてしまう。
 さて、どう戦おうか。
 時計を見る。
 予定の時間はとっくに過ぎている。
 扉の前には彼等が待っている筈だ。
 ……やるしか無いか。
 角から銃を出し四発撃つ。
 
「ぐっ!」
 
 当たったようだ。
 一気に身を出し、距離を詰める。
 弾は一人、足に当たったようだ。
 激しい出血だ。
 あれでは動けないだろう。
 
「くそっ!」
 
 すかさず反撃が飛んでくる。
 狙いを定めず撃ってくる。
 弾が一発左肩にあたってしまう。
 
「ちっ!」
 
 だが、止まること無く走り続ける。
 そして、絶対に外さない距離で敵の心臓目がけ引き金を引く。
 命中。
 即死だ。
 後二人。
 
「畜生!」
 
 反撃が激しくなる。
 だが、止まるわけには行かない。
 弾の無くなった銃を相手に向かって投げる。
 それは敵に当たったが、銃撃は止まない。
 
「ぐっ!」
 
 腹部に数発被弾する。
 だが足は止めない。
 そのお陰で敵に辿り着けた。
 そのままナイフで首を掻っ切る。
 
「くそっ!不死身かよ!?」
 
 もう一人が銃を捨てナイフに切り替える。
 俺も重傷だ。
 動きが鈍い。
 相手のナイフが右の肺に刺さる。
 だが、その程度で止まるわけには行かない。
 痛みを堪え、最後の敵をなんとか殺す。
 
「……ふぅ。」
 
 一息つきたいが、この傷ではそう長くはないだろう。
 扉の解錠コードを入力する。
 そして、扉が開き始める。
 俺の役目はここまでだ。
 壁にもたれかかり、座る。
 すると、扉の先から光が差し込む。
 霞みゆく意識の中、目の前に人が立ったのが分かった。
 
「……よくやった。」
 
 肩にそっと手を置かれる。
 俺はそのまま沈みゆく意識に身を任せた。
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