【祝!完結!】第六天魔王、織田信長、再臨す 〜関ヶ原から始める織田家再興物語〜 

中村幸男

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井伊の赤備え

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「松田様!敵勢の勢い、増しております!」
「くっ!耐えよ!じきに武藤砦から兵が出てくる。それに合わせて攻勢をかける!」
 
 松田重太夫。
 三成からの援将である。
 秀信の策により、権現山砦より稲葉山砦に移り、兵を潜ませ、敵の背後をついていた。
 が、逆に攻め込まれ、砦にて戦を繰り広げていた。
 
「しかし、遅いな。いくら敵が士気が落ちているとは言えこの稲葉山砦は弱い。そう長くは持たんぞ。」
「いかがなさいますか?」
 
 稲葉山砦に籠もり福島、細川勢と戦って既にそれなりの時が経っていた。
 本来ならば木造勢が打って出て来て良い頃合いである。
 
「籠もり続ける。第六天魔王の孫の力を信じるしか道は無い。」
「はっ!どこまでもお供致します!」
 
 兵達も徐々に士気が落ちてきている。
 このまま続けば、長くは無いと理解していた。
 
「……頼むぞ。秀信殿……。」
 
 
 
「信長様!いかがしますか!?敵は井伊の赤備え!武田の旧臣でありますよ!」
「分かってる!それと俺のことは三郎と呼べ!誰かに聞かれたらどうする!」
 
 井伊の赤備えはすぐそこまで来ている。
 木造勢では防ぎ切れん。
 損耗が激しい。
 
「の……三郎殿!」
 
 考えろ。
 未来で俺は何を見てきた。
 後の世の戦の資料。
 海外の戦の資料。
 あらゆる物を見てきた。
 戦国の頃の俺よりも成長している筈だろ……。
 
「戦国の頃の俺……。」
 
 ……あの頃の俺ならばどうする?
 絶対絶命の状況……。
 
「桶狭間……。」
「え?」
 
 あの時と似ているかもしれない。
 どちらにせよ岐阜城は遠からず落ちるだろう。
 ならばここでこのまま戦い続けても無駄だ。
 織田秀信が死ななければ明日はある。
 ならば、城から逃げ延びなければ。
 
「三郎殿?」
 
 いや、城から落ち延びても関ヶ原で西軍が負ければ処罰を受ける。
 それでは意味が無い。
 
「……俺は、勝つためにここに来た。」
「……はい。」
「この戦の総大将は徳川家康!そうだな!?」
「は、はい!」
 
 ここで井伊直政や福島、細川、池田らを打ち倒しても意味は無い。
 西軍が負ければ全てが水の泡だ。
 
「打って出るぞ!井伊を突破し、福島、細川勢も突破し、三成の元へ行く!」
「は、ははっ!」
「三法師!俺の甲冑はあるか!?」
「信長様が着用されていた物は……。」
「良い、甲冑であれば何でも。すぐに用意いたせ!」
「はっ!」
 
 狙うは徳川家康の首ただ一つのみ。
 
 
 
「殿、ここより登りが少し厳しくなっております。足元にお気をつけくだされ。」
「うむ。」
 
 岐阜城本丸、その手前にある武藤砦へと続く山道。
 道は決して良いとは言えず、木々に阻まれ視界も悪い。
 
「織田秀信。この程度か。」
 
 井伊直政は道中、対策を講じてくるかとも思っていた。
 が、それらしき物は無い。
 籠もるだけか、と井伊直政は思った。
 
「と、殿!」
「どうした?」
「て、敵にございます!」
 
 直政は登り道、先の道を見る。
 登り坂の頂上に馬上にいる武将が見えた。
 
「我こそは!織田信長が孫、織田中納言秀信なり!岐阜中納言とは我のことぞ!道を開けよ!開けぬのならば、死ね!」

 秀信は自ら槍を振るい、兵を引き連れ山を駆け下る。
 まさかの敵軍との衝突に兵達は驚いていた。
 井伊の赤備えが成すすべ無く敵の突破を許してしまっている。
 
「……そうか。成る程。それを待っていたのか!」
 
 相手はこちらが登り坂になる所を待っていた。
 疲弊に加え、山の頂上の反対側は見えない。
 登りきって初めて敵の姿が見えるのだ。
 
「見事なり!織田秀信!」
「殿!いかがなさいますか!」
「ここで見過ごしては徳川の恥よ!皆奮い立て!決して通すな!」
 
 前方の部隊は蹴散らされた。
 が、直政自身を初めとした後方の部隊は坂道を登りきっておらず、疲弊も激しくはない。
 
「突っ込めぇ!」
 
 敵の突撃を待ち構える井伊直政と織田秀信がぶつかる。
 が、井伊勢は多少は耐えたものの、次第に崩れていった。
 
「何!?何をしておる!」
「皆、最初の罠を無理やり突破したのが響いているようです!このままでは!」
 
 そうこうしているうちに敵将が眼の前に現れる。
 
「我こそは木造長政!井伊直政とお見受けした!覚悟!」
「ふん!」
 
 敵の侍大将が直政に槍を突いた。
 が、直政は軽くいなして見せた。
 このまま反撃をすれば簡単に討ち取れるだろう。
 が。
 
「織田秀信、真に見事なり。流石は信長公のお孫。全軍、退くぞ!」
 
 かくして、井伊直政は被害が大きくなる前に撤退を開始する。
 それが相手を称えてのことかは分からないが、この判断が後に大きな影響をもたらす事になる。
 
「殿!追いかけますか!」
「木造長政か、無論追いかける!……いや、どうする?三郎。」
「良い。これだけでも相当な痛手を被った筈だ。これならば、後の戦に支障が出るであろう。」
 
 三郎の言葉に秀信は疑問を覚えた。
 
「後の戦?」
「……関ヶ原。」
 
 岐阜より西に位置する関ヶ原。
 かつての不破の関が置かれた地である。
 
「彼の地にて、徳川と石田両軍が天下分け目の大戦を繰り広げる。そこに我らが参戦する。そして、家康の首を、捕る。」
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