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三河の古狸
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「では、我等が大阪までお送りします。」
「うむ。」
岐阜城を出て大阪へ向かう。
家康一人に少数の護衛の兵。
護衛の織田の兵は少なかった。
「……すまぬが、方向が違うのでは無いか?」
「いえ、一度寄る所がありますので。」
家康は関ヶ原から命からがら逃げてきており、立て続けに岐阜城に敵が押し寄せてきていたので、疲労が取れていなかった。
「……すまん、一度どこかで休ませてはくれぬか?少々、疲れがのう……。」
護衛の兵はしばらく考え、側の者と話し合うと頷きあった。
「承知しました。では、あちらの寺へ行きましょう。」
「うむ、すまぬな。」
家康は言われた通り、近くにあった小さな寺に寄った。
住職に話を通し、宿とした。
「……ふぅ。」
「我等は近くに備えております。監視の者を二名置きます。何かあればそれらの者に。」
「うむ。」
家康は住職から差し出された茶を飲み干す。
住職は軽く頭を下げるとその場を後にした。
「……不気味だな。」
家康は独り言をつぶやく。
護衛の兵の少なさや、違う方向へ進む事。
大阪へ向かうのならば西へ行くはずだが、明らかに東へ向かっていた。
一度寄る所があると言っていたが、そのような話は聞いたことが無い。
「……一体何が……。」
すると、不自然な物音、足音に気が付く。
(鎧の音と……足音。一人二人ではない、か。)
家康は咄嗟に近くにあった杖に手を伸ばす。
が、その刹那、近くの戸が破られる。
「っ!」
杖を手に取り、刀代わりに構える。
それと同時に見張りの二人が刀を構え、敵が続々となだれ込んでくる。
先程まで家康を護衛していた者たちであった。
「……殺すつもりか。この徳川家康を!」
「……。」
しかし、答えない。
「何処の手の者だ!答えよ!」
「……。」
「いや、当ててやろう。……小早川、いや、あやつにはそのような才は無いか。……真田か?」
そこで家康はある男を思い出す。
「まさか……織田?」
男達の表情が少し動いた。
「当たり、か。」
「……我等が主は天下を望んでおられる。そのためならば、どんな手をも使うと。」
指揮官らしき男が軽く合図をすると一斉に仕掛けてくる。
「ふんっ!」
家康は杖で近くの敵の刀を弾き、相手の刀を奪った。
「こんな老いぼれでも武士よ!ただでは死なぬわ!」
「……流石は内府殿。しかし……。」
兵達が一斉に取り囲む。
「天下を乱した大罪人、徳川家康は東へ逃走を図り、ここで捕まり、そのまま首を刎ねられた。そう言う事になる。死ぬ事に変わりはない。」
「はたして、そう上手く行くかの?」
じりじりと兵達が詰めていく。
「かかれ!」
「ぐっ!」
一斉に斬りかかられ、家康は一太刀防ぐも、多勢に無勢。
無数に斬り付けられ、刺され、家康はその場に倒れた。
「ぐ……。かはっ!」
血を吐き、もはやその命はつきかけていた。
「徳川家康。我が主、織田三郎様からの伝言だ。」
「……三郎?」
兵は家康の耳元に近づき、言葉をかける。
「清須で結んだ起請文は、もはや意味を為さない。三河の田舎武士が調子に乗るな。」
「……なん、だと?」
家康は残る力を振り絞って伝言を伝えた兵にしがみつく。
「そ、そいつは……いや、その……お方は、まさか……。」
しかし、簡単に振りほどかれてしまう。
「ぐ……。」
「さらばだ、松平元康。」
その兵は刀を突き刺し、止めを刺した。
「の、信長……様……。」
ここに天下を制し、徳川幕府を創設した徳川家康は死んだ。
「ふぅ。」
「お疲れさまでした。殿。」
兜を脱ぐと、家康に止めを刺したその男は三郎であった。
そして、虎助が水を差し出す。
三郎はそれを受け取り、一口口にした。
「しかし、変装する必要も無かったのでは?殿自ら正体を明かし、家康と対峙しても良かったのでは?」
「俺は今は佐和山にいる事になっている。ここで家康を殺しに来たのは、俺のわがままだ。誰かに知られればまずい。できる限りバレたくはない。」
三郎は家康が逃走を図ったことにして殺害した。
家康を討ち取ったのは織田家の人間であるという事が大事なのだ。
それに、家康には一度会っておきたかった。
完全にわがままだが。
「さて、虎助。俺はこの首を持って佐和山へ戻る。共に参れ。」
「はっ!」
「他の者達は岐阜へ戻り秀則を助けよ。」
「「ははっ!」」
この度、家康を殺害した兵達は皆大垣衆であった。
秀則に文を出し、大垣衆に護送させた。
その際に家康を殺す事も秀則にのみ伝えてある。
「家康よ。お主が作った泰平の世は、立派であった。だが、俺はもっと良い国にして見せるぞ。あの世で見ておれ。」
家康を討ち取るという大きな目標を成し遂げた三郎と虎助は急ぎ佐和山へ向かったのだった。
「うむ。」
岐阜城を出て大阪へ向かう。
家康一人に少数の護衛の兵。
護衛の織田の兵は少なかった。
「……すまぬが、方向が違うのでは無いか?」
「いえ、一度寄る所がありますので。」
家康は関ヶ原から命からがら逃げてきており、立て続けに岐阜城に敵が押し寄せてきていたので、疲労が取れていなかった。
「……すまん、一度どこかで休ませてはくれぬか?少々、疲れがのう……。」
護衛の兵はしばらく考え、側の者と話し合うと頷きあった。
「承知しました。では、あちらの寺へ行きましょう。」
「うむ、すまぬな。」
家康は言われた通り、近くにあった小さな寺に寄った。
住職に話を通し、宿とした。
「……ふぅ。」
「我等は近くに備えております。監視の者を二名置きます。何かあればそれらの者に。」
「うむ。」
家康は住職から差し出された茶を飲み干す。
住職は軽く頭を下げるとその場を後にした。
「……不気味だな。」
家康は独り言をつぶやく。
護衛の兵の少なさや、違う方向へ進む事。
大阪へ向かうのならば西へ行くはずだが、明らかに東へ向かっていた。
一度寄る所があると言っていたが、そのような話は聞いたことが無い。
「……一体何が……。」
すると、不自然な物音、足音に気が付く。
(鎧の音と……足音。一人二人ではない、か。)
家康は咄嗟に近くにあった杖に手を伸ばす。
が、その刹那、近くの戸が破られる。
「っ!」
杖を手に取り、刀代わりに構える。
それと同時に見張りの二人が刀を構え、敵が続々となだれ込んでくる。
先程まで家康を護衛していた者たちであった。
「……殺すつもりか。この徳川家康を!」
「……。」
しかし、答えない。
「何処の手の者だ!答えよ!」
「……。」
「いや、当ててやろう。……小早川、いや、あやつにはそのような才は無いか。……真田か?」
そこで家康はある男を思い出す。
「まさか……織田?」
男達の表情が少し動いた。
「当たり、か。」
「……我等が主は天下を望んでおられる。そのためならば、どんな手をも使うと。」
指揮官らしき男が軽く合図をすると一斉に仕掛けてくる。
「ふんっ!」
家康は杖で近くの敵の刀を弾き、相手の刀を奪った。
「こんな老いぼれでも武士よ!ただでは死なぬわ!」
「……流石は内府殿。しかし……。」
兵達が一斉に取り囲む。
「天下を乱した大罪人、徳川家康は東へ逃走を図り、ここで捕まり、そのまま首を刎ねられた。そう言う事になる。死ぬ事に変わりはない。」
「はたして、そう上手く行くかの?」
じりじりと兵達が詰めていく。
「かかれ!」
「ぐっ!」
一斉に斬りかかられ、家康は一太刀防ぐも、多勢に無勢。
無数に斬り付けられ、刺され、家康はその場に倒れた。
「ぐ……。かはっ!」
血を吐き、もはやその命はつきかけていた。
「徳川家康。我が主、織田三郎様からの伝言だ。」
「……三郎?」
兵は家康の耳元に近づき、言葉をかける。
「清須で結んだ起請文は、もはや意味を為さない。三河の田舎武士が調子に乗るな。」
「……なん、だと?」
家康は残る力を振り絞って伝言を伝えた兵にしがみつく。
「そ、そいつは……いや、その……お方は、まさか……。」
しかし、簡単に振りほどかれてしまう。
「ぐ……。」
「さらばだ、松平元康。」
その兵は刀を突き刺し、止めを刺した。
「の、信長……様……。」
ここに天下を制し、徳川幕府を創設した徳川家康は死んだ。
「ふぅ。」
「お疲れさまでした。殿。」
兜を脱ぐと、家康に止めを刺したその男は三郎であった。
そして、虎助が水を差し出す。
三郎はそれを受け取り、一口口にした。
「しかし、変装する必要も無かったのでは?殿自ら正体を明かし、家康と対峙しても良かったのでは?」
「俺は今は佐和山にいる事になっている。ここで家康を殺しに来たのは、俺のわがままだ。誰かに知られればまずい。できる限りバレたくはない。」
三郎は家康が逃走を図ったことにして殺害した。
家康を討ち取ったのは織田家の人間であるという事が大事なのだ。
それに、家康には一度会っておきたかった。
完全にわがままだが。
「さて、虎助。俺はこの首を持って佐和山へ戻る。共に参れ。」
「はっ!」
「他の者達は岐阜へ戻り秀則を助けよ。」
「「ははっ!」」
この度、家康を殺害した兵達は皆大垣衆であった。
秀則に文を出し、大垣衆に護送させた。
その際に家康を殺す事も秀則にのみ伝えてある。
「家康よ。お主が作った泰平の世は、立派であった。だが、俺はもっと良い国にして見せるぞ。あの世で見ておれ。」
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