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北政所 ねね

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「三郎殿は、信忠様の最後のお子だとか?」
「はい。本能寺の変の数日前に生まれ、公表する前に我が父が明智に討たれました。それで、無事に逃がす為、我が父は最後に私の事を徹底して秘匿せよと申されたそうです。」
 
 すると、北政所はしばらく考える。
 
「……母君はどなたですか?」
「……分かりませぬ。早い内に亡くなり、父代わりに育ててくれた者も早世致しました。気にした事もありませぬし、聞いた事もありませぬ。その後は父代わりに育ててくれた者の遺言で、兄、秀信の元へ送られたので。」
「そうでしたか……。」
 
 北政所は三郎の答えに満足しなかったのか、質問を続ける。
 
「あなたは……織田家をどうしたいのですか?様々な噂を耳にしております。小早川殿を操っているとか、三成殿を貶めて殺したとか。」
「……織田家を豊臣家第一の家臣までもり立てて行きたいと。それだけに御座います。」
 
 すると、北政所は鋭い目つきに変わる。
 
「それは、五大老や五奉行の制度を崩して、豊臣家中で一番になりたいと?」
「……は。そのように捉えていただいて構いませぬ。が、織田家の主は我が兄秀信。兄の意に反する事は致しませぬ。」
 
 三郎は否定し続けるのも怪しまれると思い、肯定した。
 それが裏目にでた。
 その答えに北政所は返す。
 
「嘘ですね?」
「……いえ。」
「いいえ、嘘です。あなたのその言葉からは真の意思が感じられませぬ。」
 
 北政所は三郎の真の意思を見抜いているようであった。
 三郎も、もう嘘はつけないと思い、本音を話す。
 
「……私の願いは、織田家を、織田秀信をもう一度天下人に立たせたい。そう思っておりまする。」
「やはりですか……。」
 
 北政所は軽く咳払いをする。
 
「申し訳ありません。私は、天下を取る人の目を知っています。かつて、あなたの祖父、信長公の目を見て、天下を取る人とは目つきが違うと思いました。そして、我が夫が山崎の合戦の後、段々と信長公のような目つきになってきていました。あなたはその目をしている。」
 
 北政所は淡々と続ける。
 
「そして、徳川家康殿も、太閤殿下が亡くなられてから、同じような目つきをするようになってきておりました。私は、豊臣の天下は終わると、その頃から思っておりました。ですが、家康殿は死に、私の観察力も衰えたのかと思いましたが……。」
「……。」
「成る程。あなたの様な新しいお方が現れたのですから、納得です。」
「……豊臣の天下は、よろしいのですか?」
 
 すると、北政所はしばらくの沈黙の後、答えた。
 
「誰が天下人でも構いません。日の本から戦を無くすことが出来るのならば、誰でも良いのです。」
「……そうですか。」
「でも、無駄に人が死ぬのは避けて欲しいですがね。かつて信長公の行った比叡山の焼き討ち。ああいうのは勘弁です。」
 
 北政所は三郎を見つめながら言う。
 織田家の人間だからか、それとも信長だと見抜いているのか。
 わからないが、わからないフリをしておこう。
 
「勿論にございます。出来る限り人が死ななくて済む様に済ませまする。」
「……頼みましたよ。正直に言って、秀頼では心許ないのです。あなたが無駄に人を死なせず天下を狙うというのであれば、私は協力いたしましょう。」
 
 北政所は近付き、握手を交わす。
 
「ですが、出来れば、秀頼は殺さないで下さい。あの子は太閤殿下の忘れ形見。頼みましたよ。」
「勿論にございます。織田家が今日まで存続出来たのは豊臣家あってのこと。滅ぼすつもりなど全くありませぬ。」
 
 しかし、三郎の言葉は嘘であった。
 そして、北政所もそれを理解していた。
 
(北政所の支持を得られたのは大きい。今後、何かあれば頼ることが出来る。有効活用させてもらうか。)
 
 三郎は目の前の北政所を見る。

(ま、ねねの顔を立ててやる必要もある。か。秀頼は殺さない方針で行こう。だが、徳川は……。状況次第だな。)
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