62 / 182
和平に向けて
しおりを挟む
「信包様。お久しゅう御座います。」
「……黒田殿も、お元気そうで何よりですな。」
如水と信包が相対する。
両名はかつて、信長の時代に面識はあった。
「さて、如水殿。単刀直入に申し上げます。どうか、降伏をなされませ。命は奪わないと、総大将である織田三郎は申しておりまする。」
「総大将?織田殿がか?」
信包は頷く。
「左様にございます。形式上は毛利殿。されどご自身がこの場に出陣なされておらぬ故、本来ならば長宗我部殿辺りなのですが……。」
信包は如水を見つつ、続ける。
「実質的にも、才能的にも三郎が総大将で文句を言う者はおりますまい。その三郎があなたの命を取らぬと言うのです。ありとあらゆる手を尽くして命をお救いするでしょうな。」
「……なる程な。」
如水はしばらく考える。
「殿!どうかご決断くだされ!我等、黒田家臣はどのような結末でも受けいれまする!」
「この加藤清正は、織田殿には命を救われた身!ご恩はお返ししとう御座います!」
重臣である井上九郎右衛門や、加藤清正が強く言う。
如水も二人の言葉を無下には出来ず、考えた。
すると、信包は思い出したかのように口を開いた。
「……三郎はここで降伏なさるのであれば、ご家臣の処遇も良くすると。……例えば、長政殿のご家臣としてそのまま……とか、ですかな。」
「……では、長政は……。」
信包は頷く。
「ええ。此度のご活躍で、所領は安堵。それどころか、加増も有り得るかと。そこは話し合いですな。」
「……。」
如水の答えは既に決まっていた。
実は信包が入城するよりも前にとある噂が流れていた。
大方、豊臣方の手の者が流した噂だろう。
加藤清正と井上九郎右衛門が寝返ったという噂だ。
城兵はそのような噂を最初は信じなかった。
が、信包が加藤清正と井上九郎右衛門を連れて入城し、まるで織田家の家臣のような振る舞いをさせていた事で噂は更に広まった。
既に城兵の士気は低かった。
「殿!どうか、ご決断を!」
既に継戦は不可能。
そう考えていた如水は、太兵衛のその言葉を聞き、決意する。
「……わかり申した。降伏致しまする。」
「おお!左様ですか!すぐにでも三郎に伝えまする!」
信包は頭を下げ、その場を後にしようとする。
が。
「待たれよ。」
「……如何なされたかな?」
如水は立ち上がり、信包の目の前まで行く。
「一度、三郎殿と直接お話がしたい。我が家臣、栗山善助も負傷しておりまする。将兵の治療についてもお話しておきたいのでな。」
「……成る程。無論に御座る。では、お伝えに一度戻りまする。」
信包は頭を下げ、その場を後にする。
「……さて、織田三郎か。」
信包がその場を去るのを見届け、如水は自分の所に戻った。
「……ふぅ。」
「殿。よろしかったのですか?我々は最後までお供する覚悟でしたぞ。」
太兵衛のその言葉を聞き、如水は返す。
「これ以上戦っても勝ち目は無い。お前達には、死んでほしくはないからな。長政を、良く支えよ。」
家臣は皆、頭を下げた。
(……勘助は死んだ。もしかすると、自分も斬られるか……。いや、流石にあり得ぬか。何にせよ、覚悟はしておかねばな。)
「……黒田殿も、お元気そうで何よりですな。」
如水と信包が相対する。
両名はかつて、信長の時代に面識はあった。
「さて、如水殿。単刀直入に申し上げます。どうか、降伏をなされませ。命は奪わないと、総大将である織田三郎は申しておりまする。」
「総大将?織田殿がか?」
信包は頷く。
「左様にございます。形式上は毛利殿。されどご自身がこの場に出陣なされておらぬ故、本来ならば長宗我部殿辺りなのですが……。」
信包は如水を見つつ、続ける。
「実質的にも、才能的にも三郎が総大将で文句を言う者はおりますまい。その三郎があなたの命を取らぬと言うのです。ありとあらゆる手を尽くして命をお救いするでしょうな。」
「……なる程な。」
如水はしばらく考える。
「殿!どうかご決断くだされ!我等、黒田家臣はどのような結末でも受けいれまする!」
「この加藤清正は、織田殿には命を救われた身!ご恩はお返ししとう御座います!」
重臣である井上九郎右衛門や、加藤清正が強く言う。
如水も二人の言葉を無下には出来ず、考えた。
すると、信包は思い出したかのように口を開いた。
「……三郎はここで降伏なさるのであれば、ご家臣の処遇も良くすると。……例えば、長政殿のご家臣としてそのまま……とか、ですかな。」
「……では、長政は……。」
信包は頷く。
「ええ。此度のご活躍で、所領は安堵。それどころか、加増も有り得るかと。そこは話し合いですな。」
「……。」
如水の答えは既に決まっていた。
実は信包が入城するよりも前にとある噂が流れていた。
大方、豊臣方の手の者が流した噂だろう。
加藤清正と井上九郎右衛門が寝返ったという噂だ。
城兵はそのような噂を最初は信じなかった。
が、信包が加藤清正と井上九郎右衛門を連れて入城し、まるで織田家の家臣のような振る舞いをさせていた事で噂は更に広まった。
既に城兵の士気は低かった。
「殿!どうか、ご決断を!」
既に継戦は不可能。
そう考えていた如水は、太兵衛のその言葉を聞き、決意する。
「……わかり申した。降伏致しまする。」
「おお!左様ですか!すぐにでも三郎に伝えまする!」
信包は頭を下げ、その場を後にしようとする。
が。
「待たれよ。」
「……如何なされたかな?」
如水は立ち上がり、信包の目の前まで行く。
「一度、三郎殿と直接お話がしたい。我が家臣、栗山善助も負傷しておりまする。将兵の治療についてもお話しておきたいのでな。」
「……成る程。無論に御座る。では、お伝えに一度戻りまする。」
信包は頭を下げ、その場を後にする。
「……さて、織田三郎か。」
信包がその場を去るのを見届け、如水は自分の所に戻った。
「……ふぅ。」
「殿。よろしかったのですか?我々は最後までお供する覚悟でしたぞ。」
太兵衛のその言葉を聞き、如水は返す。
「これ以上戦っても勝ち目は無い。お前達には、死んでほしくはないからな。長政を、良く支えよ。」
家臣は皆、頭を下げた。
(……勘助は死んだ。もしかすると、自分も斬られるか……。いや、流石にあり得ぬか。何にせよ、覚悟はしておかねばな。)
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる