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必要な犠牲 4

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「やっぱり手薄ですね。」
「ああ。情報通りだ。」
 男からスムーズに情報を聞き出せた自分達は即座に坑道へと向かった。
 因みに男は騒がないようにクレアさんがもう一度眠らせた。
 あの男がかわいそうに見えて来る。
「じゃあ、行きましょう。」
「ああ。」
 男の情報によるとこいつらの組織は規模は大きくないが組織が細かく別れているせいで別の部署の人間の顔は全く分からないらしい。
「お疲れ様でーす。」
 自分達は男から教わった合言葉を言いつつ入っていく。
 どうやら最後の『です』を伸ばす言い方が合言葉らしい。
 自分達は拠点を建設している者達に挨拶をしながら坑道へと入っていく。
 挨拶された男達は軽く会釈した程度で、全く疑われていない様子だった。
 こんな合言葉で良いのだろうか。
「さて、自分の両親は最初の左の脇道の方に連れていかれた、ですよね。」
「ああ、時間的にはそろそろ立ち会いの時間だ。いつ感づいて追っ手が来るか分からない。急ごうか。」
 確かに追っ手が来てしまえば坑道内での地理が分からない自分達が不利になるだろう。
 不審がられないように気を付けつつ急ぐとしよう。
 坑道の中は例の電気で明るく、道もしっかりしており歩きやすい。
 幅もそれなりにあるので荷車も運べるだろう。
 様々な所に注意しながら自分達は奥へと進んでいった。

「大分進んだね。」
「はい。特に曲がり道も無かったので方角は真っ直ぐでしたね。」
 男からはどこに連れていかれたかは聞き出せなかった。
 坑道の地図についても詳しくはわからないと言っていたので、自分達はあの分かれ道からは手探りの状態だ。
 だが、足跡等の痕跡は簡単に消せるものではなく、それを追っている。
 幸いにもまだ分かれ道はなく、まっすぐこれているので、助かっている。
「……止まってくれ。」
「え?」
 先頭を歩いていたクレアさんに止まるように言われ、止まる。
 すると、自分達が行こうとしていた先に複数の武装した男達がいるのが見えた。
「やられたね。」
「っ!」
 後ろから気配がし、振り向くと前方の男達のように武装した者達が、退路をふさいでいた。
「ふむ、多分奴等は捕らえられ、尋問された時に答えるマニュアルがあるんだろう。いくつかパターンで分けて設定して、あの合言葉はこのシチュエーションに誘い込むための合言葉なんだろう。」
 ここまでの推測をしていると言うことはこのシチュエーションは想定内の出来事なのだろうか。
「うん、少し楽観視しすぎたかな。」
「おい!久しぶりだな!所長さんよ!残念だがこの先は行き止まりだぜ!」
 なにやらリーダーらしき男が鉄の筒のようなものをこちらに向けている。
 あれが何かは分からないが武器なのだろう。
 どうやらこの男とクレアさんは面識があるようだ。
「ああ、久しぶりだなフェン。やはり君の手口だったか。」
「おっと、動こうとするなよ。」
 すると、前方の男達の列を分けて1つの檻が運ばれてきた。
「父さん!母さん!」
 その中には自分の両親がいたのだ。
 2人から返事は無く、檻の中でぐったりとしている。
 2人ともあんなに強かったのに、何があったのだろうか。
「動くな!」
 すると、フェンと呼ばれた男は鉄の筒のようなものを両親へと向ける。
 何かは分からないがヤバイのはわかる。
「……我慢してくれ。私が何とかするから。任せて安心して見ていると良いよ。」
 クレアさんになだめられ、落ち着く。
 この人に任せろと言われるととても安心できる気がする。
「……分かりました。」
「よし。」
 こちらを向き、笑顔を見せてくれる。
「いいかい?私が合図を出したら君の両親を連れて逃げるんだ。後ろの奴等くらいなら君1人で何とかなるだろう?」
 肩を押さえ、まっすぐこちらを見つめてくる。
 この人の前で戦った事が無いというのに自分の実力を見透かされているようだ。
「この先何があろうとも必要な犠牲だと割りきって生きていくんだ。時には後ろを振り向くことも大事だ。だが、必ずもう一度前を向け。それさえできれば生きていけるさ。君なら大丈夫だ。」
 自分の頭を撫でると前へと出ていく。
 一体何をするつもりなのかは分からないがこの人の言う通りにしよう。
 この人の言うことに間違いないと言うことは分かる。
「フェン!一騎討ちをしろ!」
「ほう?面白い。」
 フェンは前へと出てくる。
「ああ、銃は使っていいぞ?」
「はっ!なめやがって!」
 クレアさんは丸腰だ。
 だが、それでも安心できる程の強さが彼女にはある。
 後はクレアさんの事を信じて合図を待つだけだ。
 そう、クレアさんなら大丈夫だ。
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