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冒頭
第1話 好感度チェックタイム
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春が終わり、初夏の兆しが見え始めた頃。桜花高校の人間関係も、ようやく落ち着きを見せていた。
中肉中背で、少し長めの黒髪という平凡な見た目の俺、友田義人は、桜花高校の1年生である。
苗字に友、と入っているからなのかはわからないけど、両親から『高校時代の友人は一生ものだぞ!』と口酸っぱく言われてきた。そんな理由もあって、俺はできるだけ周囲と友好的に過ごすようにしている。
そのおかげか、クラスメイト達とは割と話せる間柄を築くことができていた。元から人と話すこと自体は抵抗がなかったのもあり、日々はそれなりに充実している。
「じゃーなー友田ー」
「また明日なー」
クラスメイト達が教室から出ていくのを見送る。彼らは確かテニス部だったっけ。決して強豪ではないけれど、毎度夜遅くまで練習しているというのだから、大したものだと舌を巻く。
ちなみに俺は帰宅部だ。特にやりたいことがなかったため、これからも入る予定はない。一応、とあるきっかけから、生徒会から勧誘を受けてはいるので検討中。それについてはまた後ほど。
そこそこな付き合いの友人たちを見送ると、急に教室が静かになる。グラウンドの喧騒は、窓を経て随分遠くに感じる。今存在しているのは俺と、もう1人。俺の友人である青野春吉だ。俺たちは今、1つの学生机を挟んで、向き合って座っている。青野は、他に誰もいないのを確認した後、口火を切った。
「いやー昨日は頑張りすぎて、腕がパンパンだぜ」
「帰宅部が何を頑張ったんだよ……。それで今朝、先生に怒られてただろ」
「しょうがないだろ。腕が震えすぎて、まともに文字も書けなかったんだから」
顔立ちはそこそこ整っているのに、まったく可愛くないアヒル口を見せてくる青野は、俺と同じ帰宅部の友人だ。青野は交友関係を広く持とうと努めている俺とは対照的で、クラスメイトが教室を出ていくのに対して誰とも挨拶を交わさなかった。そういうところが、いかにも青野らしかった。
ちなみに青野が怒られた理由は、昨日出されていた宿題が原因だった。計算式が全部ミミズ文字で解読不可能だったのだから、怒られて当然だ。
「それで、何で腕パンパンなんだよ?」
「昨日教えてもらった、重い荷物は男が持つべしっていうアドバイスを即実行してやったんだ!」
「……お前、本当にすぐ信じるよな」
彼と3か月付き合ってきてわかったことがある。青野春吉という人間は、聞いたことを何でもすぐに信じてしまうタイプだ。とりわけ、女子にモテることにはとにかく必死になる。俺が何気なく言ったことも、女子にモテると判断したらすぐさま取り入れてしまうきらいがある。
「ちょっとは自分で考えてから実行した方がいいぞ」
「失礼だな! ちゃんと6秒待ってからやったぞ!」
「それ違うやつだし、全然マネジメントできてないからな……」
青野の考える時間は6秒しかないようだ。こんな調子だから、もう止めるのもアホらしくなってしまった。
以前、冗談半分で『金髪は注目されやすいぞ』と言ってみたら、なんと翌日髪の毛を含むすべての毛を金髪にしてきたのだ。そんなことをすれば当然、生徒指導室に連行されるわけで。
『おい青野! なんだそのふざけた金ピカは!? お前昨日まで黒っぽい茶髪だっただろうが!?』
『いいえ先生! これが地毛です!』
『ずっと染毛剤臭いんだよ! 大人なめんなマヌケ!』
結局はジャージマッチョの愛称を持つ、生徒指導の田畑先生に全部洗い落されてしまったようで、教室には茶色いしなびた青野が戻ってきた。けれども、1時間目でぐっすり寝たら治っていた。いやぐっすり寝るなよ、授業聞けよ。
そんなことがあったので、青野相手にはあまり冗談を言わないでおこうと決めている。
湿布がベタベタ貼ってある青野の膨れ上がった腕はさておき、今日も恐らくお馴染みのアレを確認しに来たのだろう。青野はニヤリと笑い、俺に期待の目を向けてくる。
「さて、そろそろ本題に入ろうぜ」
「その前にだけど、いつも一緒に帰ってる幼馴染は良いのか?」
「あー、最近あいつ機嫌悪いみたいなんだ。だから今日は距離を置いておくよ」
いや、むしろ機嫌が悪い時こそ、幼馴染である彼女に付き添ってあげるべきじゃないのか。青野の気の回らなさに少々苛立ちを覚えたけれど、俺は言葉を飲み込んだ。
「……そ、そうなのか。まあ青野がそういうならいいけど」
友好関係を保つには、踏み込みすぎないこと。求められていない助言はしない――それが、俺なりに身につけてきた処世術だった。
「にしてもさ、毎日やらなくてもいいんじゃないか? 1日や2日で劇的に変わるようなものじゃないと思うぞ?」
「いや、常に知っておきたいと不安だからな。絶対必要だ」
「そうか……」
本音を言えば、俺が毎日用意してやるのが面倒なのだが。青野は俺を友人キャラだと言い張る割に、そういう所は察してくれない様子だ。俺はやれやれと軽くため息を付く。
呆れ顔をしている俺を意にも介さず、青野はもはや定番となりつつあった、例の言葉を俺にぶつけてくる。
「友田、俺のヒロインたちの好感度を教えてくれ」
「……はいよ」
青野の、一見耳を疑うようなこの発言。もしも他の生徒が残っていたとしたら、明日から青野はクラス中から変人認定されることだろう。俺はもう聞き慣れてしまったから、今更つっこまないけれど。
自分の鞄を探りながら、ふと思う。青野の言動は、先日オタクの女友達から教わったあの言葉を思い出した。
彼はまるで、学園ラブコメの主人公みたいだ、と。
もしも彼が本当に主人公なのだとしたら。
青野と友達になったその瞬間から、俺には彼の言うヒロイン達の頭上に、ある数字が見えるようになった。その数字は、俺ではなく青野への好感度を示している。
なら俺は――さしずめ主人公・青野を支える、友人キャラだとでも言うのだろうか。
中肉中背で、少し長めの黒髪という平凡な見た目の俺、友田義人は、桜花高校の1年生である。
苗字に友、と入っているからなのかはわからないけど、両親から『高校時代の友人は一生ものだぞ!』と口酸っぱく言われてきた。そんな理由もあって、俺はできるだけ周囲と友好的に過ごすようにしている。
そのおかげか、クラスメイト達とは割と話せる間柄を築くことができていた。元から人と話すこと自体は抵抗がなかったのもあり、日々はそれなりに充実している。
「じゃーなー友田ー」
「また明日なー」
クラスメイト達が教室から出ていくのを見送る。彼らは確かテニス部だったっけ。決して強豪ではないけれど、毎度夜遅くまで練習しているというのだから、大したものだと舌を巻く。
ちなみに俺は帰宅部だ。特にやりたいことがなかったため、これからも入る予定はない。一応、とあるきっかけから、生徒会から勧誘を受けてはいるので検討中。それについてはまた後ほど。
そこそこな付き合いの友人たちを見送ると、急に教室が静かになる。グラウンドの喧騒は、窓を経て随分遠くに感じる。今存在しているのは俺と、もう1人。俺の友人である青野春吉だ。俺たちは今、1つの学生机を挟んで、向き合って座っている。青野は、他に誰もいないのを確認した後、口火を切った。
「いやー昨日は頑張りすぎて、腕がパンパンだぜ」
「帰宅部が何を頑張ったんだよ……。それで今朝、先生に怒られてただろ」
「しょうがないだろ。腕が震えすぎて、まともに文字も書けなかったんだから」
顔立ちはそこそこ整っているのに、まったく可愛くないアヒル口を見せてくる青野は、俺と同じ帰宅部の友人だ。青野は交友関係を広く持とうと努めている俺とは対照的で、クラスメイトが教室を出ていくのに対して誰とも挨拶を交わさなかった。そういうところが、いかにも青野らしかった。
ちなみに青野が怒られた理由は、昨日出されていた宿題が原因だった。計算式が全部ミミズ文字で解読不可能だったのだから、怒られて当然だ。
「それで、何で腕パンパンなんだよ?」
「昨日教えてもらった、重い荷物は男が持つべしっていうアドバイスを即実行してやったんだ!」
「……お前、本当にすぐ信じるよな」
彼と3か月付き合ってきてわかったことがある。青野春吉という人間は、聞いたことを何でもすぐに信じてしまうタイプだ。とりわけ、女子にモテることにはとにかく必死になる。俺が何気なく言ったことも、女子にモテると判断したらすぐさま取り入れてしまうきらいがある。
「ちょっとは自分で考えてから実行した方がいいぞ」
「失礼だな! ちゃんと6秒待ってからやったぞ!」
「それ違うやつだし、全然マネジメントできてないからな……」
青野の考える時間は6秒しかないようだ。こんな調子だから、もう止めるのもアホらしくなってしまった。
以前、冗談半分で『金髪は注目されやすいぞ』と言ってみたら、なんと翌日髪の毛を含むすべての毛を金髪にしてきたのだ。そんなことをすれば当然、生徒指導室に連行されるわけで。
『おい青野! なんだそのふざけた金ピカは!? お前昨日まで黒っぽい茶髪だっただろうが!?』
『いいえ先生! これが地毛です!』
『ずっと染毛剤臭いんだよ! 大人なめんなマヌケ!』
結局はジャージマッチョの愛称を持つ、生徒指導の田畑先生に全部洗い落されてしまったようで、教室には茶色いしなびた青野が戻ってきた。けれども、1時間目でぐっすり寝たら治っていた。いやぐっすり寝るなよ、授業聞けよ。
そんなことがあったので、青野相手にはあまり冗談を言わないでおこうと決めている。
湿布がベタベタ貼ってある青野の膨れ上がった腕はさておき、今日も恐らくお馴染みのアレを確認しに来たのだろう。青野はニヤリと笑い、俺に期待の目を向けてくる。
「さて、そろそろ本題に入ろうぜ」
「その前にだけど、いつも一緒に帰ってる幼馴染は良いのか?」
「あー、最近あいつ機嫌悪いみたいなんだ。だから今日は距離を置いておくよ」
いや、むしろ機嫌が悪い時こそ、幼馴染である彼女に付き添ってあげるべきじゃないのか。青野の気の回らなさに少々苛立ちを覚えたけれど、俺は言葉を飲み込んだ。
「……そ、そうなのか。まあ青野がそういうならいいけど」
友好関係を保つには、踏み込みすぎないこと。求められていない助言はしない――それが、俺なりに身につけてきた処世術だった。
「にしてもさ、毎日やらなくてもいいんじゃないか? 1日や2日で劇的に変わるようなものじゃないと思うぞ?」
「いや、常に知っておきたいと不安だからな。絶対必要だ」
「そうか……」
本音を言えば、俺が毎日用意してやるのが面倒なのだが。青野は俺を友人キャラだと言い張る割に、そういう所は察してくれない様子だ。俺はやれやれと軽くため息を付く。
呆れ顔をしている俺を意にも介さず、青野はもはや定番となりつつあった、例の言葉を俺にぶつけてくる。
「友田、俺のヒロインたちの好感度を教えてくれ」
「……はいよ」
青野の、一見耳を疑うようなこの発言。もしも他の生徒が残っていたとしたら、明日から青野はクラス中から変人認定されることだろう。俺はもう聞き慣れてしまったから、今更つっこまないけれど。
自分の鞄を探りながら、ふと思う。青野の言動は、先日オタクの女友達から教わったあの言葉を思い出した。
彼はまるで、学園ラブコメの主人公みたいだ、と。
もしも彼が本当に主人公なのだとしたら。
青野と友達になったその瞬間から、俺には彼の言うヒロイン達の頭上に、ある数字が見えるようになった。その数字は、俺ではなく青野への好感度を示している。
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