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捕まっています

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「私がずっと愛を伝えていたのにも関わらず...王太子は誰でもいいと...?」

怒りを抑えた低い唸り声がすぐ近くで聞こえた。

振り返る前にグイッと腰を引き寄せられ、そのまま抱き締められる。

ぴったりと重なっている背後から寒気がしそうなほどの気配が漂ってきて、思わず身体が固まってしまった。

ひぇっ、怒っている!

「陛下、申し訳ありませんがローゼをしばらく...しばらーくお借りします。では、これで御前失礼させていただきます。」

「ひゃあっ!」

まるで荷物のように肩に担がれて運ばれていく。

じたばた暴れてみるが、がっちりと拘束されていて逃げ出せそうにない。

「あー...ほどほどにな...。どうせ聞こえてないだろうが。」

陛下がため息をつきながら言い放った声が聞こえたのを最後に、バタンと扉が閉まった。



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あの後のことは思い出したくない。

けれど、頭に残ってしまっているせいで頭の中をぐるぐると暴れまわり収まりそうにない。

自分のベッドに入っても寝れることがなく...そのまま朝を迎えるか、布団の中で気絶している。

そのせいで寝不足に陥り、目元にクマができている。


起き上がった私は、寝不足で頭がボーッとした状態でベッドの中で座り込み、ぼんやりと窓を見た。

ああ...朝日が眩しい。


「ローゼ、迎えに来たぞ。」

私の寝室なのにも関わらずに入ってきたルナディークは私の顎に手を添えて、顔をクイッと上げた。

「うーん...睡眠がちゃんととれなかったか?クマが出来ているな。そのまま寝るか、軽食を食べて寝るかのどっちがいい?」

私の顎にあった手をそのまま顔に当て、マッサージをしてくれる。

「軽く食べてからにするわ...。」

マッサージは気持ち良いけど...喋りずらい...。

ルナディークは私の返事を聞いて頷き、後ろにいた誰かに向かって合図を送ったようだった。

マッサージが気持ち良くってこのまま寝ちゃいそう...。

「随分と凝っているな...これは全身もほぐしたほうが良いかもしれない。それと...寝室にアロマを焚いてリラックスしやすいようにしようか。
アロマはローゼの好きな物で頼む。
ハーブティーも食事の後に出そう...いや、はちみつを入れたホットミルクのほうがいいか?」

...ここ数日はこんな風に至れり尽くせりで、ぐでんぐでんのとろとろになっちゃいそう。


ルナディークに捕まっているせいで仕事もほとんどないし、前よりも好きなことが出来ているけれど...うーん。

早く元の日常に戻りたいわ。

今回の顔マッサージのように必要な時以外は身体に触れてこないけれど...ずっと口説かれ続けるのも精神がきつい。
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