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第十一話 ミツキ様_1
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西日の射す廃ビルの中に、三つ足音が響いている。
「ねえ、ホントにここでロケするんですかぁ? 田崎さん」
怯えたような眼鏡の青年に、一団の先頭を歩くタートルネックの中年男性は振り返ることなく応じた。
「たりめーだ。つーか今回失敗してみろ、うちの制作会社は終わりだ。するしないじゃねえ、やるしかねえんだよ。それともお前が損失額を負担してくれんのか、大島ァ」
田崎の返答に、大島は首をすくめる。
「それは…無理っすけど…」
「まあまあ」
離れて付いてきていた、カメラを担ぐ一番ガタイの良い男が場をとりなす。
「状況は大島くんも分かってますって。けど、前情報聞いちゃうと、ねぇ?」
「なんだぁ、桂木ィ。おめぇも信じてるのか? 幽霊とかオカルトとかよぉ」
桂木は慌てて手を振る。
「いえいえ。というか、問題の事件は幽霊は関係ないんでしょ。そういったのは田崎さんじゃないですか」
「…まぁな」
「ただ、やけに血なまぐさいと言うか、おかしな事件じゃないですか。だから多少ナーバスになるのもしょうがないですって」
桂木のいう事件とは、過去に四階東の「ほのぼのローン」本社、つまりここであった先達の起こしたものだ。
ここに来る前に田崎が教えてくれたのだが、三年前の話。
開始当初でさえ不人気だった雑談バラエティ番組のてこ入れとして、いかにも幽霊の出そうな物件を探訪してあわよくば心霊現象を捉えようと目論んでいた連中がいた。しかし、番組は一発逆転どころか大失敗する。
その起因となったのが、出演を依頼した霊能者くずれの男だったという。
かつては凄腕の霊能力者という触れ込みで活躍していたもののちょっとした失敗から尾羽打ち枯らし落ち目になっていた人物で、返り咲こうと一も二も無く参加したのだが…
「みてない! 俺はみていない!」
建物に入ってしばらくすると、そう絶叫し逃げ出してしまったのである。
番組としてはその後色々予定もあったのが一切合切ぶち壊しにされた訳だが、留めを刺したのはその後発見された彼が死体だったことだ。
翌日、男は自宅の便所に閉じこもり、扉を釘で打ちつけた上で死んでいたのが発見されたという。
他にもやれ支離滅裂な遺書が遺されたとか、やれ両目にびっしり釘が打ち込まれていたとかの噂もあったが、遺族は一切を語ろうとせず、葬式も身内だけでひそやかに行われたため死亡したという事実以外は詳らかになっていない。そのため、田崎なんかは件の番組が何とかして生き残ろうとした最後っ屁だと決め付けている。
その後もひとしきり、田崎の持論を延々聞かされつつビル内を探索していた三人は最上階へ到達した。
「はぁー、やっとか。桂木さん、ここで終わりっすよね」
階段を上がりきったところで大島が大きく息を吐く。
カメラ担がされてる俺と違ってお前は何ももって無いだろうが、桂木は内心呆れながらも返事した。
「今日の所はな。明日が本番だが、そのときはもっと大変だぞ。他の出演者がいるからな」
ADの大島は他の出演者との調整がメインになるので比べ物にならない忙しさだろう。大島が苦々しげに答えた。
「へぇーい、判ってますって…」
「おら、いつまで駄弁ってんだよ。さっさと扉開けろ」
田崎の声に、大島は恨みがましい顔を向ける。が、何も言わずに前を行くと、扉に手を掛けた。
蝶番がさび付いていたのか、しばらく大島が奮闘した後扉は大きな音を立てて開かれた。
「うぇっ、手にべったり埃がついた…」
「どうでもいいがその手でこっち触るなよ」
ずんずん先を行く田崎をよけながら、大島は泣きそうな顔をして自分のズボンで手を拭いていた。
その間に桂木も部屋に入る。
「おぉ…これは」
部屋の中は、惨憺たる有様だった。
元はよくある事務室だったのだろう、散乱したデスクが並んでいる。が、よくよくライトで照らしてみればあちこち――壁や床などにも――黒い染みがこびりついている。
「こりゃあ…なんです?」
遅れて入ってきた大島は興味をひかれたようだ。
「ん? ああ、お前ここで何があったか知らんの?」
「ええ、まあ。だからお願いします、良かったら聞かせてください」
「ふーん。まあいいや、説明してやるよ」
素直に頼られたのがまんざらでもなかったらしい。タバコに火をつけていた田崎は、こほんとひとつ咳払いをして話し始めた。
「ここは元はサラ金だったんだ。でも、ある日訪れた奴が包丁や猟銃を持ち出してな、暴れまわったんだ」
「へぇえ、なんでまた」
「もしかして、奪われすぎた債務者がやけになって…」
田崎が床に転がっている棚をつま先でひっくり返しながら否定した。
「いんや、そういう湿っぽい話じゃねえよ。単にここの経営者って奴が急激にのし上がった奴でな。地域を治めてた暴力団のシノギを大きく奪うようになってきたんで、そいつらが実力行使で排除しにきたってだけ」
「ああ…出る杭は打たれるっていいますもんねぇ」
傾いでいた棚を除いていた大島は頓狂な感想を口にする。
ゆっくり室内を歩いていた田崎はこちらを向くことなく気だるげに同意した。
「まあ、なぁ。ただ、ほのぼのって言葉からはありえないくらいかなりあくどい真似をしてたようで、被害者はかなりいたようだ。そいつらからは暴力団に感謝する奴もいたってくらいだし明らかにやりすぎだったんだろうよ」
「やくざより嫌われるとか終わってるなあ」
「…で、話は終わり…じゃないですよね?」
カメラであたりを撮影しながら桂木は先を促す。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ18ニチ19ジ
「ねえ、ホントにここでロケするんですかぁ? 田崎さん」
怯えたような眼鏡の青年に、一団の先頭を歩くタートルネックの中年男性は振り返ることなく応じた。
「たりめーだ。つーか今回失敗してみろ、うちの制作会社は終わりだ。するしないじゃねえ、やるしかねえんだよ。それともお前が損失額を負担してくれんのか、大島ァ」
田崎の返答に、大島は首をすくめる。
「それは…無理っすけど…」
「まあまあ」
離れて付いてきていた、カメラを担ぐ一番ガタイの良い男が場をとりなす。
「状況は大島くんも分かってますって。けど、前情報聞いちゃうと、ねぇ?」
「なんだぁ、桂木ィ。おめぇも信じてるのか? 幽霊とかオカルトとかよぉ」
桂木は慌てて手を振る。
「いえいえ。というか、問題の事件は幽霊は関係ないんでしょ。そういったのは田崎さんじゃないですか」
「…まぁな」
「ただ、やけに血なまぐさいと言うか、おかしな事件じゃないですか。だから多少ナーバスになるのもしょうがないですって」
桂木のいう事件とは、過去に四階東の「ほのぼのローン」本社、つまりここであった先達の起こしたものだ。
ここに来る前に田崎が教えてくれたのだが、三年前の話。
開始当初でさえ不人気だった雑談バラエティ番組のてこ入れとして、いかにも幽霊の出そうな物件を探訪してあわよくば心霊現象を捉えようと目論んでいた連中がいた。しかし、番組は一発逆転どころか大失敗する。
その起因となったのが、出演を依頼した霊能者くずれの男だったという。
かつては凄腕の霊能力者という触れ込みで活躍していたもののちょっとした失敗から尾羽打ち枯らし落ち目になっていた人物で、返り咲こうと一も二も無く参加したのだが…
「みてない! 俺はみていない!」
建物に入ってしばらくすると、そう絶叫し逃げ出してしまったのである。
番組としてはその後色々予定もあったのが一切合切ぶち壊しにされた訳だが、留めを刺したのはその後発見された彼が死体だったことだ。
翌日、男は自宅の便所に閉じこもり、扉を釘で打ちつけた上で死んでいたのが発見されたという。
他にもやれ支離滅裂な遺書が遺されたとか、やれ両目にびっしり釘が打ち込まれていたとかの噂もあったが、遺族は一切を語ろうとせず、葬式も身内だけでひそやかに行われたため死亡したという事実以外は詳らかになっていない。そのため、田崎なんかは件の番組が何とかして生き残ろうとした最後っ屁だと決め付けている。
その後もひとしきり、田崎の持論を延々聞かされつつビル内を探索していた三人は最上階へ到達した。
「はぁー、やっとか。桂木さん、ここで終わりっすよね」
階段を上がりきったところで大島が大きく息を吐く。
カメラ担がされてる俺と違ってお前は何ももって無いだろうが、桂木は内心呆れながらも返事した。
「今日の所はな。明日が本番だが、そのときはもっと大変だぞ。他の出演者がいるからな」
ADの大島は他の出演者との調整がメインになるので比べ物にならない忙しさだろう。大島が苦々しげに答えた。
「へぇーい、判ってますって…」
「おら、いつまで駄弁ってんだよ。さっさと扉開けろ」
田崎の声に、大島は恨みがましい顔を向ける。が、何も言わずに前を行くと、扉に手を掛けた。
蝶番がさび付いていたのか、しばらく大島が奮闘した後扉は大きな音を立てて開かれた。
「うぇっ、手にべったり埃がついた…」
「どうでもいいがその手でこっち触るなよ」
ずんずん先を行く田崎をよけながら、大島は泣きそうな顔をして自分のズボンで手を拭いていた。
その間に桂木も部屋に入る。
「おぉ…これは」
部屋の中は、惨憺たる有様だった。
元はよくある事務室だったのだろう、散乱したデスクが並んでいる。が、よくよくライトで照らしてみればあちこち――壁や床などにも――黒い染みがこびりついている。
「こりゃあ…なんです?」
遅れて入ってきた大島は興味をひかれたようだ。
「ん? ああ、お前ここで何があったか知らんの?」
「ええ、まあ。だからお願いします、良かったら聞かせてください」
「ふーん。まあいいや、説明してやるよ」
素直に頼られたのがまんざらでもなかったらしい。タバコに火をつけていた田崎は、こほんとひとつ咳払いをして話し始めた。
「ここは元はサラ金だったんだ。でも、ある日訪れた奴が包丁や猟銃を持ち出してな、暴れまわったんだ」
「へぇえ、なんでまた」
「もしかして、奪われすぎた債務者がやけになって…」
田崎が床に転がっている棚をつま先でひっくり返しながら否定した。
「いんや、そういう湿っぽい話じゃねえよ。単にここの経営者って奴が急激にのし上がった奴でな。地域を治めてた暴力団のシノギを大きく奪うようになってきたんで、そいつらが実力行使で排除しにきたってだけ」
「ああ…出る杭は打たれるっていいますもんねぇ」
傾いでいた棚を除いていた大島は頓狂な感想を口にする。
ゆっくり室内を歩いていた田崎はこちらを向くことなく気だるげに同意した。
「まあ、なぁ。ただ、ほのぼのって言葉からはありえないくらいかなりあくどい真似をしてたようで、被害者はかなりいたようだ。そいつらからは暴力団に感謝する奴もいたってくらいだし明らかにやりすぎだったんだろうよ」
「やくざより嫌われるとか終わってるなあ」
「…で、話は終わり…じゃないですよね?」
カメラであたりを撮影しながら桂木は先を促す。
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ツギハ18ニチ19ジ
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