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第十一話 ミツキ様_8
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「だ、だが…それなら犯罪者と一緒にいるのは…」
「いえ、だからこそ今がいいんですよ。全員が揃ってるなら、犯人も動けない。このまま時間を掛ければ、我々と連絡がつかなくなったことを知った管理人辺りが通報してくれます」
「いやよっ!」
絵里香がヒステリックに叫んだ。
「そ、そんなこと言ったって、本当にまた殺人を犯さないとも限らないじゃない! それなら一人でいる!」
「いや、それは許可できない」
身を翻しATMコーナーに向けて逃げようとした彼女の腕を桂木は掴むことに成功した。
「悪いが我々からすれば、絵里香ちゃんも犯人である可能性は捨てきれない。そんな君を一人にすることはできない」
「なっ…あたしが殺人鬼だって言うの?!」
「一つの可能性ってだけの話だ。それに、逆に君以外に犯人がいたとして、君だけ孤立してたら助けにいくこともできない」
「……」
「そ、それもそう…ですね」
不服そうな絵里香ではなく、それまで考え込んでいた大島が口を挟む。
この状況で疑心暗鬼になることはまずいことは大半が理解している。
少しでも悪くなる空気をごまかすためダメ元で、誰からとも無く全員で犯人を捜すついでにどこか外へ抜けられる道がないかという提案も上がったが…結構な時間を掛けた結果、いずれも成果は無くただ徒労と気疲れだけが残った。
しばらく沈黙の末、気づけば再び先ほどの議題に戻ってしまった。
「よく考えたんですけど全員で行動する、といっても限度がありますよね。トイレとかもあるし、仮に睡眠をとったりしている間に殺されたら尚更やばいっすよね。今更だけど、このまま全員で一緒にいるのは…僕は、無理かな」
ぽつり呟いた大島の言葉に、三城が、顔を青ざめさせた。
「そ、そうですよ! 僕だって、一緒に行動していた大島さん以外信じられません!」
「ふむ…」
田崎が顎をなでながらうなずく。普段ならワンマンを押し通しているところだが、さすがに彼の表情にも疲労が色濃く浮かんでいた。
「大島たちの不安も一理はあるな。お互い監視するにしても、四六時中ずっとというのは難しい。それに…手を組んでる可能性も捨てきれないか」
「しかしそれを言い出したら…」
「まあ待て。一方で桂木の意見も筋は通っている。であれば、後はある程度別れるのがいいんじゃないかと俺は思う」
一同は互いに顔を見合わせる。
沈黙の垂れ込める中、代表して桂木が先を促した。
「ある程度、とは?」
「俺の考えをざっとで言うなら、お前と絵里香ちゃん、三城君と大島。この二人組みなら、さっきまで何やってたかは把握できてるからまだ信用できるだろ。その上で居場所とする階を分けるんだ。桂木君たちは一階、俺は二階、三城君と大島は四階」
「ははぁ」
桂木が田崎の考えを憶測する。
「そうすることで単独の田崎さんの安全の担保と、お互いの監視を兼ねる訳ですか。二人組みになってる人が怪しい動きをしたら田崎さんが残った方に逃げればいい、と」
「そうだ」
「で、でもそれを言ったら田崎さんが信用ができるか…あ、いえ、殺人犯だって思ってるわけじゃなくて」
慌ててフォローする絵里香だが、田崎は頭をガシガシかいて手を振った。
「そのための二人組みでもある。仮に俺一人が襲っていったとして、二人掛りでなら追い返すことくらいはできると納得できるだろ? 残った二人組が合流すれば反撃も可能になる。まあ逆に、二人組み同士が結託している可能性も無くはないが…その可能性を考慮して、俺はあえて分断する形で陣取りたいって訳だ」
確かに、真ん中なら通話できない今結託される前に身を隠しやすいだろう。お互いのメリットデメリットを懸案した提案だったわけだ。
「…そういうことなら、あたしはいいです。桂木さんならちゃんと守ってくれそうだし」
「うん、俺も意義無し」
「三城くんたちがそういうなら僕も」
しばらく相談した結果、不承不承絵里香も納得したところで残ったメンバーも肯定した。口にこそしなかったが、誰もが疲れていた。
「よし。とりあえず、荷物を持って解散ということにしよう。明日の朝、或いは救助の人が来るまでは自由に行動という形で」
各人自分の荷物を持って散会していく中、桂木は絵里香の分の荷物も持ってやりながら一階、東側のATM跡地を休憩所とすることにした。
二人で手分けして目に付く瓦礫をどかし、腰を落ち着けるところを作ってやる。壁一枚隔てて向こうには自由があるのに…
桂木が作業中こっそり様子を伺ってみたところ、絵里香は気丈に振舞ってはいるものの顔が青ざめているように見受けられる。我慢してはいるが、もう一杯一杯なのだろう。
ひと段落着いたところで桂木は普段から持ち歩いている小型ガスバーナーと携帯シェラカップを荷物から取り出すと、レストラン跡地から幾つかの木片を拾ってきて簡単な焚き火をこしらえる。そこへ手持ちのミネラルウォーターで満たしたシェルカップ二つを翳した。
「桂木さん、それは?」
腰を落ち着けるに適した、柔らかそうなものはないかと探しに出ていた絵里香が目ざとく見つけて近寄ってきた。
「ああ、ちょっとしたスープをと思ってな。ちょっと辛いけど、美味いよ。飲むだろ?」
湯が沸いたところにレモングラスやプリッキーヌーなど各種ハーブを詰め合わせておいた手製のお茶パックと、干しえびと干しトマトを投入する。
仄かに香りたつトムヤムクンに、幾分不信感を抱いていた絵里香もようやく警戒心を解いたようだった。
「はい、どうぞ」
「うわあ、ありがとうございます! 正直、ご飯食べられないと思ってたのでびっくりしましたよ。まさかトムヤムクンが飲めるなんて」
受け取るなり、そそくさと一口含んだ絵里香は歓喜の表情だ。
現金だなぁと苦笑いするも、それなりに顔の整った美女に笑顔を向けられ桂木も内心まんざらではない。
「昔暇があったら登山しまくっててね。携帯食料を持ち歩く癖がついていて良かったよ。追い詰められたときは何か腹に入れるだけで大分変わるからね」
山登りする際、あまり荷物を持って歩くと体力に差し障る。それでも美味しいものを食べたいと考えた結果、あらかじめソースやスパイスを混ぜ合わせた小袋を用意しておき、冷凍乾燥しておいた具材と併せて煮ることで手軽ながらそれなりの手料理が食べられる。在学中から桂木のキャンプ料理は好評で、就職して登山回数が減った今も気が向いたら作って持ち歩いていたのである。
「じゃあ、これ全部自作?! 桂木さん、なんでもできるんですね…」
「そんなたいしたもんじゃないさ。それより、他の人には内緒に、ね。さすがに全員分のは無いから」
どうせ明日には助かるだろうから、それなら自分と女の子一人分くらいはいいだろうと判断してのことだ。その特別感が絵里香のプライドをくすぐったようで、絵里香はくすりと笑みこぼした。
「はい、内緒にします。…でも良かったら、また今度ご馳走してくださいね」
「ああ、いいとも。何ならキャンプにでも行くかい? 山の朝焼け見ながらのスープはまた格別だぞ」
「いいですね。ぜひ、機会が合えばお願いします」
暖かいものを胃に入れたことで気持ちは緩み、会話が弾む。
異常事態に怯えていたものの、逆にそれが共通の感情として互いの警戒心をほぐしていく。
そうして弾んだ会話は時が耽るにつれて途切れがちになっていき――気づけば、いつしか言葉の代わりに互いの視線を絡めあわせていた。
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ツギハ1ニチ19ジ
「いえ、だからこそ今がいいんですよ。全員が揃ってるなら、犯人も動けない。このまま時間を掛ければ、我々と連絡がつかなくなったことを知った管理人辺りが通報してくれます」
「いやよっ!」
絵里香がヒステリックに叫んだ。
「そ、そんなこと言ったって、本当にまた殺人を犯さないとも限らないじゃない! それなら一人でいる!」
「いや、それは許可できない」
身を翻しATMコーナーに向けて逃げようとした彼女の腕を桂木は掴むことに成功した。
「悪いが我々からすれば、絵里香ちゃんも犯人である可能性は捨てきれない。そんな君を一人にすることはできない」
「なっ…あたしが殺人鬼だって言うの?!」
「一つの可能性ってだけの話だ。それに、逆に君以外に犯人がいたとして、君だけ孤立してたら助けにいくこともできない」
「……」
「そ、それもそう…ですね」
不服そうな絵里香ではなく、それまで考え込んでいた大島が口を挟む。
この状況で疑心暗鬼になることはまずいことは大半が理解している。
少しでも悪くなる空気をごまかすためダメ元で、誰からとも無く全員で犯人を捜すついでにどこか外へ抜けられる道がないかという提案も上がったが…結構な時間を掛けた結果、いずれも成果は無くただ徒労と気疲れだけが残った。
しばらく沈黙の末、気づけば再び先ほどの議題に戻ってしまった。
「よく考えたんですけど全員で行動する、といっても限度がありますよね。トイレとかもあるし、仮に睡眠をとったりしている間に殺されたら尚更やばいっすよね。今更だけど、このまま全員で一緒にいるのは…僕は、無理かな」
ぽつり呟いた大島の言葉に、三城が、顔を青ざめさせた。
「そ、そうですよ! 僕だって、一緒に行動していた大島さん以外信じられません!」
「ふむ…」
田崎が顎をなでながらうなずく。普段ならワンマンを押し通しているところだが、さすがに彼の表情にも疲労が色濃く浮かんでいた。
「大島たちの不安も一理はあるな。お互い監視するにしても、四六時中ずっとというのは難しい。それに…手を組んでる可能性も捨てきれないか」
「しかしそれを言い出したら…」
「まあ待て。一方で桂木の意見も筋は通っている。であれば、後はある程度別れるのがいいんじゃないかと俺は思う」
一同は互いに顔を見合わせる。
沈黙の垂れ込める中、代表して桂木が先を促した。
「ある程度、とは?」
「俺の考えをざっとで言うなら、お前と絵里香ちゃん、三城君と大島。この二人組みなら、さっきまで何やってたかは把握できてるからまだ信用できるだろ。その上で居場所とする階を分けるんだ。桂木君たちは一階、俺は二階、三城君と大島は四階」
「ははぁ」
桂木が田崎の考えを憶測する。
「そうすることで単独の田崎さんの安全の担保と、お互いの監視を兼ねる訳ですか。二人組みになってる人が怪しい動きをしたら田崎さんが残った方に逃げればいい、と」
「そうだ」
「で、でもそれを言ったら田崎さんが信用ができるか…あ、いえ、殺人犯だって思ってるわけじゃなくて」
慌ててフォローする絵里香だが、田崎は頭をガシガシかいて手を振った。
「そのための二人組みでもある。仮に俺一人が襲っていったとして、二人掛りでなら追い返すことくらいはできると納得できるだろ? 残った二人組が合流すれば反撃も可能になる。まあ逆に、二人組み同士が結託している可能性も無くはないが…その可能性を考慮して、俺はあえて分断する形で陣取りたいって訳だ」
確かに、真ん中なら通話できない今結託される前に身を隠しやすいだろう。お互いのメリットデメリットを懸案した提案だったわけだ。
「…そういうことなら、あたしはいいです。桂木さんならちゃんと守ってくれそうだし」
「うん、俺も意義無し」
「三城くんたちがそういうなら僕も」
しばらく相談した結果、不承不承絵里香も納得したところで残ったメンバーも肯定した。口にこそしなかったが、誰もが疲れていた。
「よし。とりあえず、荷物を持って解散ということにしよう。明日の朝、或いは救助の人が来るまでは自由に行動という形で」
各人自分の荷物を持って散会していく中、桂木は絵里香の分の荷物も持ってやりながら一階、東側のATM跡地を休憩所とすることにした。
二人で手分けして目に付く瓦礫をどかし、腰を落ち着けるところを作ってやる。壁一枚隔てて向こうには自由があるのに…
桂木が作業中こっそり様子を伺ってみたところ、絵里香は気丈に振舞ってはいるものの顔が青ざめているように見受けられる。我慢してはいるが、もう一杯一杯なのだろう。
ひと段落着いたところで桂木は普段から持ち歩いている小型ガスバーナーと携帯シェラカップを荷物から取り出すと、レストラン跡地から幾つかの木片を拾ってきて簡単な焚き火をこしらえる。そこへ手持ちのミネラルウォーターで満たしたシェルカップ二つを翳した。
「桂木さん、それは?」
腰を落ち着けるに適した、柔らかそうなものはないかと探しに出ていた絵里香が目ざとく見つけて近寄ってきた。
「ああ、ちょっとしたスープをと思ってな。ちょっと辛いけど、美味いよ。飲むだろ?」
湯が沸いたところにレモングラスやプリッキーヌーなど各種ハーブを詰め合わせておいた手製のお茶パックと、干しえびと干しトマトを投入する。
仄かに香りたつトムヤムクンに、幾分不信感を抱いていた絵里香もようやく警戒心を解いたようだった。
「はい、どうぞ」
「うわあ、ありがとうございます! 正直、ご飯食べられないと思ってたのでびっくりしましたよ。まさかトムヤムクンが飲めるなんて」
受け取るなり、そそくさと一口含んだ絵里香は歓喜の表情だ。
現金だなぁと苦笑いするも、それなりに顔の整った美女に笑顔を向けられ桂木も内心まんざらではない。
「昔暇があったら登山しまくっててね。携帯食料を持ち歩く癖がついていて良かったよ。追い詰められたときは何か腹に入れるだけで大分変わるからね」
山登りする際、あまり荷物を持って歩くと体力に差し障る。それでも美味しいものを食べたいと考えた結果、あらかじめソースやスパイスを混ぜ合わせた小袋を用意しておき、冷凍乾燥しておいた具材と併せて煮ることで手軽ながらそれなりの手料理が食べられる。在学中から桂木のキャンプ料理は好評で、就職して登山回数が減った今も気が向いたら作って持ち歩いていたのである。
「じゃあ、これ全部自作?! 桂木さん、なんでもできるんですね…」
「そんなたいしたもんじゃないさ。それより、他の人には内緒に、ね。さすがに全員分のは無いから」
どうせ明日には助かるだろうから、それなら自分と女の子一人分くらいはいいだろうと判断してのことだ。その特別感が絵里香のプライドをくすぐったようで、絵里香はくすりと笑みこぼした。
「はい、内緒にします。…でも良かったら、また今度ご馳走してくださいね」
「ああ、いいとも。何ならキャンプにでも行くかい? 山の朝焼け見ながらのスープはまた格別だぞ」
「いいですね。ぜひ、機会が合えばお願いします」
暖かいものを胃に入れたことで気持ちは緩み、会話が弾む。
異常事態に怯えていたものの、逆にそれが共通の感情として互いの警戒心をほぐしていく。
そうして弾んだ会話は時が耽るにつれて途切れがちになっていき――気づけば、いつしか言葉の代わりに互いの視線を絡めあわせていた。
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