35 / 106
第十六話 エレベーター
しおりを挟む
大学生のYさんの話だ。
去年、サークルのみんなと花見して夜中までしこたま酒を飲んだYさんは、多少足元が危ういながらも住んでるマンションに歩いて帰った。
マンションまであともう少し、というところで気づけばAさんと並んで歩いていた。
地元にいた当時は一時期仲が良かったものの、同じ先輩を巡る恋敵になってしまったこともあり、今はあまり親しくしている間柄ではなかった。だが、Aはそんなこと無かったようににこにこと笑顔で接してくる。
Yさんも、酒が入っていたこともあり、また懐かしさからすぐに警戒心を解いて打ち解けて話は弾んだ。
ちょうど酒もある。
これからマンションの屋上で月見酒と行こうではないか。
マンションに入り、エレベーターに差し掛かるところでそう言われた。
Yさんの家はマンションの一階にあり、何でわざわざマンションの屋上で…と思わないでもなかったが、夜中まで酒盛りをするくらい酒好きなYさんにはそれはとても風雅で魅力的な申し出に聞こえた。
二つ返事で受け、二人揃ってエレベーターに乗り込む。Aさんはよどみなく、一番上のボタンを押した。
ここでようやく、YさんはAさんの両手が空であることに気づいた。
酒盛りなのに?
それ以前に、なんでわざわざW県からやってきて、自分の住むマンションの屋上で?
ようやく違和感が芽生えたYさんだが、それについて問いただすより早くエレベーターが到着の音を鳴らす。
扉が開いた先は、風雅とは無縁ながらんとした広い打ちっぱなしのコンクリ空間が広がっている。
「さ、行こう」
そう笑いかけるAの顔が、はじめて不気味なものに見えてYさんは足がすくんだ。
「ねえ、ほら。何やってんの。扉、しまっちゃうよ。ほら、行くよ」
ずっと笑顔だったAが、それでも動かないYさんに業を煮やしたのか腕を掴んできた。
腕を掴まれると思った瞬間。
Yさんはどん、と誰かに横から突き飛ばされた。
「あっ」
よろけながらも顔を上げると、それまでいなかったはずの縦縞に蝶柄の紬を着ている小柄な人物が背を向けているAに腕を掴まれ、エレベーターの外へと力づくで連れ去られようとしている。
その着物の柄は生前、可愛がってくれていた祖母がよく着ていた。
「待って!」
Yさんの制止もむなしく、Aさんたちは振り返ることなく屋上へと飛び出していた。
体勢を建て直し、後を追おうとした鼻先でエレベーターの扉は閉まったところでYさんは意識を失った。
Yさんが次に目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
衣服はそのままで、あれからどこをどうやって帰ってきたかは一切覚えていない。
ただ、仏前に置いてあった祖母の遺したお守りが、ずたずたに切り裂かれている。
気になったYさんは、Aさんに連絡を取ってみた。
電話の向こうでAさんは、声の相手がYさんだと認識した直後に激しい舌打ちをすると、そのまま通話を切ってしまった。
以来、Yさんは地元に帰っていない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ27ニチ19ジ
去年、サークルのみんなと花見して夜中までしこたま酒を飲んだYさんは、多少足元が危ういながらも住んでるマンションに歩いて帰った。
マンションまであともう少し、というところで気づけばAさんと並んで歩いていた。
地元にいた当時は一時期仲が良かったものの、同じ先輩を巡る恋敵になってしまったこともあり、今はあまり親しくしている間柄ではなかった。だが、Aはそんなこと無かったようににこにこと笑顔で接してくる。
Yさんも、酒が入っていたこともあり、また懐かしさからすぐに警戒心を解いて打ち解けて話は弾んだ。
ちょうど酒もある。
これからマンションの屋上で月見酒と行こうではないか。
マンションに入り、エレベーターに差し掛かるところでそう言われた。
Yさんの家はマンションの一階にあり、何でわざわざマンションの屋上で…と思わないでもなかったが、夜中まで酒盛りをするくらい酒好きなYさんにはそれはとても風雅で魅力的な申し出に聞こえた。
二つ返事で受け、二人揃ってエレベーターに乗り込む。Aさんはよどみなく、一番上のボタンを押した。
ここでようやく、YさんはAさんの両手が空であることに気づいた。
酒盛りなのに?
それ以前に、なんでわざわざW県からやってきて、自分の住むマンションの屋上で?
ようやく違和感が芽生えたYさんだが、それについて問いただすより早くエレベーターが到着の音を鳴らす。
扉が開いた先は、風雅とは無縁ながらんとした広い打ちっぱなしのコンクリ空間が広がっている。
「さ、行こう」
そう笑いかけるAの顔が、はじめて不気味なものに見えてYさんは足がすくんだ。
「ねえ、ほら。何やってんの。扉、しまっちゃうよ。ほら、行くよ」
ずっと笑顔だったAが、それでも動かないYさんに業を煮やしたのか腕を掴んできた。
腕を掴まれると思った瞬間。
Yさんはどん、と誰かに横から突き飛ばされた。
「あっ」
よろけながらも顔を上げると、それまでいなかったはずの縦縞に蝶柄の紬を着ている小柄な人物が背を向けているAに腕を掴まれ、エレベーターの外へと力づくで連れ去られようとしている。
その着物の柄は生前、可愛がってくれていた祖母がよく着ていた。
「待って!」
Yさんの制止もむなしく、Aさんたちは振り返ることなく屋上へと飛び出していた。
体勢を建て直し、後を追おうとした鼻先でエレベーターの扉は閉まったところでYさんは意識を失った。
Yさんが次に目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
衣服はそのままで、あれからどこをどうやって帰ってきたかは一切覚えていない。
ただ、仏前に置いてあった祖母の遺したお守りが、ずたずたに切り裂かれている。
気になったYさんは、Aさんに連絡を取ってみた。
電話の向こうでAさんは、声の相手がYさんだと認識した直後に激しい舌打ちをすると、そのまま通話を切ってしまった。
以来、Yさんは地元に帰っていない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ27ニチ19ジ
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
夜にも奇妙な怖い話2
野花マリオ
ホラー
作品のホラーの中で好評である続編であります。
作者が体験した奇妙な怖い体験や日常的に潜む怪異や不条理を語ります。
あなたはその話を読んでどう感じるかはお任せいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる