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第二十五話 安物拾い_上
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K子には、自宅に呼ぶほどではないがたまには一緒に遊びには行く、Y美という友達がいた。
彼女は趣味こそあうのだが、なんと言うか…スーパーでパン一個買って備え付けのビニール袋を目いっぱい持って帰ったり、道に咲いてる花をただだからと持ち帰る、そのようなさもしいところがあった。
そんな彼女と、たまたま一緒に遠出する機会があった。
用件自体はつつがなく終わったのだが、そのまま帰るのも味気ないとどちらからともなく近所の商店街をウインドウショッピングしていくことになった。
「あれ?」
Y美が声を上げたのは、K子がみていた古着屋の二軒隣にある、民家の軒先でのことだった。
「ちょっと、K子、K子! こっち来てみなよ、いいものがあるよ!!」
そうは言われ、K子はちょっと迷ったものの支払いを済ませてY美のとこに向かった。
そこには、地べたに放り出された薄汚い段ボール箱と、その傍に置かれたこれまた小汚い子供用の椅子。そして、その上に張り紙を張られた豚の貯金箱があった。
「ええと、何々…『このダンボールを引き取ってください。御代はこの貯金箱です』。…で?」
Y美は貯金箱を抱えたまま、目を輝かせて言った。
「ね、ね、凄いでしょ? これ、あたしとで山分けしない?」
「えぇ?」
K子はどんびきである。
確かに、ダンボールの中身は、一部欠けた皿や薄汚れた人形、栓抜きや眼鏡ケースなどといったシロモノばかりだ。
しかし、だからといって金だけ持っていくのでは泥棒ではないか。
K子の考えは、しかしY美には通用しなかったようで。
「何よ、いらないんだったらあたし一人で全部総締めするわよ? あとで分けてって言ってもあげないんだからね!!」
「いや、だからあたしはいらないって。でもさ、やっぱりそういうのは良くないよ?」
はっきり言って、ただでさえ要らないどころかお金を貰って処分するのも嫌である。何よりも、その中の顔以外塗装が禿げた人形の、切れ長の細い目がこちらを責めているように思えてどうにもK子の気に障った。
「やった、ラッキー! 儲かったわ!!」
一方完全にこちらを無視し、ひっくり返した貯金箱の中身を生き生きと懐に収めるY美にK子は完全に呆れ果て、その日は挨拶もそこそこに別れたのだった。
それから講義などでお互い会わず、次にY美のことを知ったのは一月以上経ってのことだった。
「ね、K子、Y美のこと知ってる?」
同じ民俗学のゼミのA樹だ。
彼女は入学後三ヶ月でスピーカーという徒名を奉られたことからわかるように、とにかく他人の秘密を暴くことに生きがいを見出しているような存在だ。そんなA樹が、舌なめずりせんばかりに目を細めて言う。
「何を?」
身近にいたはずのK子の反応に気を良くしたのか、A樹は気色を隠そうともせず答えた。
「あの子、一月前から学校来てないんだって。あんた親しかったでしょ、なんか知らない?」
そうは言われても、別にY美を監視しているわけでもないK子には何にも思い当たることは無い。
反応の鈍いことに業を煮やしたのか、きょとんとしているとA樹がひとりでべらべら喋りだした。
「いやいや、なんかあるでしょ~? あたしだってさあ、あの子があちこちの蚤の市の開催日調べてたのは知ってんのよ? 身近にいたあんたがまったくってのは、ありえなくない~?」
いや別にY美の保護者になったつもりはないし、そこまで興味を持つほどのことでもない。むしろ良くもまあ、そこまで親しくも無い相手のことを調べ上げたもんだとK子は感心してしまった。
「いやあたし別にあの子のことそこまで興味ないし。レポートだってやんなきゃなんないからね」
「えー、つめたーい」
「そんなこと言われてもなぁ」
それでもなお信じがたいのか色々尋ねてきたが、嘘偽り無く何の情報も無いことを知るとA樹はつまんないと吐き捨て立ち去った。
次にK子がY美の消息を知ったのは、更に十日ほど経ってのことだった。
「あ、あの子からだ」
バイトの最中に届いていたらしきメールには、『おひなさまさがして』という件名が書かれている。
「何よこれ、よみにっくいなー…えーと、何々…あいつがくる? それまでに助けて? 今誰も来られないように鍵を掛けてるから、代わりに動いて人形探せ? 何これ、なんかの謎掛け? …わかったわかった、とりあえず協力するから落ち着いて、と」
わけが判らない。
なんかのいたずらか、そう返信したところ間をおかずして返信があった。
そのまま電話してくれたらいいのにと思ったが、初っ端には「声を聞かれるから無理」とある。
以降文章は続いているが、急いで書いたせいか先のメールに輪を掛けて支離滅裂だ。
普段なら気持ち悪いので読まないで捨てるところだが、ここ数日のことからY美に何があったのか、多少の興味を覚えていたK子は腰を据えて確認することにした。遅番のK子は店じまいをしたら後は帰るだけなので、普段どおりに片づけを終え、再びメールに目を通す頃には日付が変わる数十分前になっていた。
「うーんと…」
メールはその間に何通も溜まっていた。
いずれも感情的になっていて、とにかく自分が知ってること前提に書いているため何が言いたいか判りにくいったら無い。
それでも、判る部分を掻い摘んで読み取り、文章を組み立てて把握してみる。
ざっくり言ってしまえば、Y美はここしばらくはお雛様の人形を探していたのだそうだ。だが今のご時勢雛人形を飾る家も減り、廃棄するのが関の山で二束三文で売りに出す家すらあるかどうか。散々蚤の市などを廻っていたのだがそれも先日、ついに貯金も底をついたのだそうな。
で、何でそんな奇特な真似をしていたのかといえば、夢の中で何者かに今日までに探せ、さもなくば代わりになってもらうと脅されているという…
誰にとか何の代わりだとか単なる気のせいなのではとか色々言いたいことは尽きないが、そもそも雛人形とか言われても、はっきり言って年齢=独身のK子にはお雛様なんかにすら何の心当たりも無い――はずだった。
(…いや。そういえば、あのダンボールに入ってた人形。顔以外は塗料が禿げてたけど、目だけは切れ長だったのよね)
あの、代価の代わりに引き取ってくれと書いてあったダンボール。
その中にあった人形。
衣服は埃と色あせていたせいで格好が良くわからなかったが、比較的保存状態の良かった顔に描かれた面立ちは確かに日本独自のものだったように思う。
それに、大きさや下半身の横幅から見て立ち姿ではなく、しゃがみ姿。あれ、もしかしたら雛人形のお雛様だったのではないだろうか。
(…私に聞いてるってことからして多分探してるのはあの雛人形なんだろうけど。何でY美はそこまで必死になって探してるんだろ? 実はものすごいお宝…いや、それだと筋が通らないわよね?)
あのとき見た限りでは顔以外がくすんだ色味で統一されていて、適切な保管がされていなかったのは一目瞭然だった。
せめてまだ塗装が禿げてなければ評価が変わったかもしれないが、古物の知識がないK子には180度どこからどう見てもゴミにしか思えなかったし今でもゴミだと思っている。
そんなものを探し回るのは何故?
そして、そこまで考えたK子は更に思考を深めていく。
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ツギハ29ニチ19ジ
彼女は趣味こそあうのだが、なんと言うか…スーパーでパン一個買って備え付けのビニール袋を目いっぱい持って帰ったり、道に咲いてる花をただだからと持ち帰る、そのようなさもしいところがあった。
そんな彼女と、たまたま一緒に遠出する機会があった。
用件自体はつつがなく終わったのだが、そのまま帰るのも味気ないとどちらからともなく近所の商店街をウインドウショッピングしていくことになった。
「あれ?」
Y美が声を上げたのは、K子がみていた古着屋の二軒隣にある、民家の軒先でのことだった。
「ちょっと、K子、K子! こっち来てみなよ、いいものがあるよ!!」
そうは言われ、K子はちょっと迷ったものの支払いを済ませてY美のとこに向かった。
そこには、地べたに放り出された薄汚い段ボール箱と、その傍に置かれたこれまた小汚い子供用の椅子。そして、その上に張り紙を張られた豚の貯金箱があった。
「ええと、何々…『このダンボールを引き取ってください。御代はこの貯金箱です』。…で?」
Y美は貯金箱を抱えたまま、目を輝かせて言った。
「ね、ね、凄いでしょ? これ、あたしとで山分けしない?」
「えぇ?」
K子はどんびきである。
確かに、ダンボールの中身は、一部欠けた皿や薄汚れた人形、栓抜きや眼鏡ケースなどといったシロモノばかりだ。
しかし、だからといって金だけ持っていくのでは泥棒ではないか。
K子の考えは、しかしY美には通用しなかったようで。
「何よ、いらないんだったらあたし一人で全部総締めするわよ? あとで分けてって言ってもあげないんだからね!!」
「いや、だからあたしはいらないって。でもさ、やっぱりそういうのは良くないよ?」
はっきり言って、ただでさえ要らないどころかお金を貰って処分するのも嫌である。何よりも、その中の顔以外塗装が禿げた人形の、切れ長の細い目がこちらを責めているように思えてどうにもK子の気に障った。
「やった、ラッキー! 儲かったわ!!」
一方完全にこちらを無視し、ひっくり返した貯金箱の中身を生き生きと懐に収めるY美にK子は完全に呆れ果て、その日は挨拶もそこそこに別れたのだった。
それから講義などでお互い会わず、次にY美のことを知ったのは一月以上経ってのことだった。
「ね、K子、Y美のこと知ってる?」
同じ民俗学のゼミのA樹だ。
彼女は入学後三ヶ月でスピーカーという徒名を奉られたことからわかるように、とにかく他人の秘密を暴くことに生きがいを見出しているような存在だ。そんなA樹が、舌なめずりせんばかりに目を細めて言う。
「何を?」
身近にいたはずのK子の反応に気を良くしたのか、A樹は気色を隠そうともせず答えた。
「あの子、一月前から学校来てないんだって。あんた親しかったでしょ、なんか知らない?」
そうは言われても、別にY美を監視しているわけでもないK子には何にも思い当たることは無い。
反応の鈍いことに業を煮やしたのか、きょとんとしているとA樹がひとりでべらべら喋りだした。
「いやいや、なんかあるでしょ~? あたしだってさあ、あの子があちこちの蚤の市の開催日調べてたのは知ってんのよ? 身近にいたあんたがまったくってのは、ありえなくない~?」
いや別にY美の保護者になったつもりはないし、そこまで興味を持つほどのことでもない。むしろ良くもまあ、そこまで親しくも無い相手のことを調べ上げたもんだとK子は感心してしまった。
「いやあたし別にあの子のことそこまで興味ないし。レポートだってやんなきゃなんないからね」
「えー、つめたーい」
「そんなこと言われてもなぁ」
それでもなお信じがたいのか色々尋ねてきたが、嘘偽り無く何の情報も無いことを知るとA樹はつまんないと吐き捨て立ち去った。
次にK子がY美の消息を知ったのは、更に十日ほど経ってのことだった。
「あ、あの子からだ」
バイトの最中に届いていたらしきメールには、『おひなさまさがして』という件名が書かれている。
「何よこれ、よみにっくいなー…えーと、何々…あいつがくる? それまでに助けて? 今誰も来られないように鍵を掛けてるから、代わりに動いて人形探せ? 何これ、なんかの謎掛け? …わかったわかった、とりあえず協力するから落ち着いて、と」
わけが判らない。
なんかのいたずらか、そう返信したところ間をおかずして返信があった。
そのまま電話してくれたらいいのにと思ったが、初っ端には「声を聞かれるから無理」とある。
以降文章は続いているが、急いで書いたせいか先のメールに輪を掛けて支離滅裂だ。
普段なら気持ち悪いので読まないで捨てるところだが、ここ数日のことからY美に何があったのか、多少の興味を覚えていたK子は腰を据えて確認することにした。遅番のK子は店じまいをしたら後は帰るだけなので、普段どおりに片づけを終え、再びメールに目を通す頃には日付が変わる数十分前になっていた。
「うーんと…」
メールはその間に何通も溜まっていた。
いずれも感情的になっていて、とにかく自分が知ってること前提に書いているため何が言いたいか判りにくいったら無い。
それでも、判る部分を掻い摘んで読み取り、文章を組み立てて把握してみる。
ざっくり言ってしまえば、Y美はここしばらくはお雛様の人形を探していたのだそうだ。だが今のご時勢雛人形を飾る家も減り、廃棄するのが関の山で二束三文で売りに出す家すらあるかどうか。散々蚤の市などを廻っていたのだがそれも先日、ついに貯金も底をついたのだそうな。
で、何でそんな奇特な真似をしていたのかといえば、夢の中で何者かに今日までに探せ、さもなくば代わりになってもらうと脅されているという…
誰にとか何の代わりだとか単なる気のせいなのではとか色々言いたいことは尽きないが、そもそも雛人形とか言われても、はっきり言って年齢=独身のK子にはお雛様なんかにすら何の心当たりも無い――はずだった。
(…いや。そういえば、あのダンボールに入ってた人形。顔以外は塗料が禿げてたけど、目だけは切れ長だったのよね)
あの、代価の代わりに引き取ってくれと書いてあったダンボール。
その中にあった人形。
衣服は埃と色あせていたせいで格好が良くわからなかったが、比較的保存状態の良かった顔に描かれた面立ちは確かに日本独自のものだったように思う。
それに、大きさや下半身の横幅から見て立ち姿ではなく、しゃがみ姿。あれ、もしかしたら雛人形のお雛様だったのではないだろうか。
(…私に聞いてるってことからして多分探してるのはあの雛人形なんだろうけど。何でY美はそこまで必死になって探してるんだろ? 実はものすごいお宝…いや、それだと筋が通らないわよね?)
あのとき見た限りでは顔以外がくすんだ色味で統一されていて、適切な保管がされていなかったのは一目瞭然だった。
せめてまだ塗装が禿げてなければ評価が変わったかもしれないが、古物の知識がないK子には180度どこからどう見てもゴミにしか思えなかったし今でもゴミだと思っている。
そんなものを探し回るのは何故?
そして、そこまで考えたK子は更に思考を深めていく。
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ツギハ29ニチ19ジ
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