骸を喰らいて花を咲かせん

藍染木蓮 一彦

文字の大きさ
3 / 25
一章〈道端の隅に咲く小さい花〉

2

しおりを挟む
   脳に直接響くような、澄んだ聞き取りやすい声だが、一切何の感情も感じられない冷たい声。そんな声に対して抱く感情は、不安や恐怖の類いだ。彼らは不安や恐怖といった、戦闘に支障が出る感情を抑制されてはいるが、全く抱かない訳ではない。

   少年二人は、自分たちの間にいる人物から、どうにか逃れようと思考するが、何も思い浮かばない。

「二秒も経ったよ。  まあ背後と首を取られちゃ為す術はないか。  罰として荷物持ちね」

   殺気が消え、首が解放されると、少年二人の心臓は、突如、動き出したかのように早鐘を打ち、全身からは冷や汗が吹き出していた。

   先に口を開いたのはシンエイだった。

「エイキ……」

   二人の間を颯爽と通り抜け、足早に校舎へ向かいながら、エイキは二人を振り返った。さっきまでの緊迫した雰囲気は皆無であり、十二歳の年相応の満面の笑みを二人に向けた。

「ほら、これ持ってよね。  珍しく隙を見せた罰だよ」

   エイキは背負っていた二つのバックパックを思い切り空高く放り投げた。

   未だ動けずにいた二人は、空高く飛んでいく二つのバックパックを、他人事のように見上げるが、またもや突き刺さるような殺気、鋭い視線に、身体が硬直するも、すかさず身構える。

   野生動物が獲物を狙うものとは別の、底知れぬ闇を孕み、己の意志などお構い無しに、死を間近に感じさせられる、悪意をもった殺意。

   呼吸は浅く早くなり、周りの音は何も聞こえず、己の鼓動のみがうるさく響く。今の今まで立っていた地面が消えたかのように上下左右が分からなくなる。

   二人は空に放られた荷物から、エイキに視線を移した。十二歳とは思えぬ顔つきと、この校庭にいる誰よりも深い闇に沈んだ目は、先程の満面の笑みを浮かべていた人間と、同一人物だと誰が思えようか。

   一秒が十秒にも数十秒にも感じられる。エイキは言葉を発さず、口だけを動かした。

『落としたら、片目を貰う』

   少年二人は、エイキから目を離していいのもか困惑した。目を離せばまた何か仕掛けてくるのではないか。だが、考える時間はない。

   大きく息を吐き、少しでも落ち着きを取り戻そうと足掻く。目線は外さず、落下し始めたバックパックの軌道を感じとり、それぞれにすり足で場所の修正。

   二秒後、想定していた以上の過重に、二人の腕は軋しみ、体勢を崩しそうになるが、僅かに足をずらしただけで済んだ。

   エイキはそこまで見届けると、微笑んで手を振り、再び校舎へ歩きだす。

「おい、 エイキ待てよ」

   シンエイはバックパックを背負いエイキを追いかけ、サイは何事もなかったかのようにバックパックを腕に抱えたまま歩き出す。

「お前これ、規定重量より重いじゃねえか。  また反省文を書かされても手伝わないからな」

「だって、それだけじゃ軽いんだもん。 訓練なんだから負荷がかかってこそじゃないか」

   エイキは、シンエイが元々背負っていたバックパックに手を回し、持ち上げ、軽いバックパックに怪訝な顔をする。シンエイの小言にも、うんざりしていた。

「重けりゃいいってもんじゃないだろ。  成長期に過度な訓練をし過ぎたら体は壊れる。  治らねえほど壊れたら終わりなんだぜ」

「僕たちに、座学で習った成長期が本当に当てはまるのかな?  もしそうだったとして、全員が四十キロってどうなの。  たかが四十キロ背負って二時間で四十キロメートルを息切らさず走れたって微妙じゃないか。  戦場はこんな程度じゃ役に立たないよ」

「そりゃ、戦場を経験してんのは、お前だけだから俺たちには分からないけどさ」

   いつもの二人の押し問答を見つめながら、サイカもこのぬるい実技は好きにはないと思っていたが、ぬるいのはこの実技だけであり、これは整理運動を目的とし、訓練ではない。エイキに教えようと思ったが、仕返しだと考えて辞めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...