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一章〈道端の隅に咲く小さい花〉

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   戦時下に性暴力横行するのは、昔から繰り返されてきた大きな問題である。今も一般軍人や一般人関係なく横行しているが、戦場で取り締まれるはずもなく、大きな課題となっており、九坂学校では性別の概念を言葉にするのも禁忌になった。

   行動抑制にはそれなりに月日が費やされた。
   第一世代の残虐性や圧倒的な戦力、極秘任務の行動の自由性が拍車をかけた。標的は一般人に留まらず、敵味方関係なく一般軍人や、更には強化軍人という、改新軍人の前身にまで及んだのだ。

   その特殊な状況下で、第一世代の性暴力横行が明るみになるのには数年がかかった。基本的には第一世代と遭遇した敵は一人残らず抹殺されるからである。

   軍上層部と研究所は、緊急の応急処置として、既に戦場に出ている第一世代には、第一世代、第二世代専用のブースターとなる調合されたドラッグに性的欲求の抑制剤を混ぜて支給した。

   九坂学校の生徒には、年に一度、義務づけられている健康診断で投与される、成長調整剤の注射に、性的欲求を著しく低下させる薬剤が混ぜられている。

   だが、根本の改革が必要との事で、再度、遺伝子操作の実験が行われたが、幾度繰り返しても、結果は目も当てられないほどに悲惨であった。性的欲求を根本から取り除いてしまうと、何故か他の欲求や感情すらなくなり、兵士としてはおろか、人間として成立しないなどの、人間性が失われた。

   軍上層部や研究所にできる事は、性に関することを、一切の禁忌とし、彼らに性の概念を教えない事。だが、禁忌とて規制されるまでには、既に第一世代の八期生までが戦場に出ていた。

   エイキがなぜ知っていて、規制されている事を知らなかったのか、それはエイキが九坂学校出身ではないことと、以前、所属していたチームが、規制された九期生より前の出身者で構成されていた事による。戦場に出れば無法地帯も同然なのだ。

   抑制剤といっても、ドラッグを頻繁に使う第一世代には耐性がつきやすい事もあり、耐性のついた軍人から現役引退を余儀なくされている。

   第三世代が性の概念がないのは、背景にそういう理由があったのだ。
  
「なんとなく想像出来たけど、ちょっと後で情報のすり合わせしよう。  ちなみに、おんなお、おさじゃなくて、くすぐるって意味ね」

   エイキはある人の言葉と、自分の立場が危うくなる事を考え、お茶を濁す。知る必要のないことは、彼ら第三世代には数え切れないほどある。シンエイには濁して言ったものの、エイキの好奇心は完全には抑えられない。

「なんだよ、じゃあ初めからくすぐるって言えばいいだろう。  だいたいそんな事で泣くかよ」

   シンエイは違和感を覚えていたが、ここで問い詰めるより、情報のすり合わせの時に聞けばいいと後回しにした。
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