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あれから、2.3時間はこの階層を歩き回った。
それで分かったことがある。
それはこの階層に一匹も蟲がいないことだ。虫すらいない。
植物が生えていないわけでもないのにだ。

ともかく、出口を探さなければ!このまま出られなかったら……餓死はしないけど迷宮でひとりぼっち……。人と話さずにいると、狂ってしまうと聞いたことがある……。それは絶対に嫌!!

基本的に迷宮にほ出口が作られているはずだから!ここにも出口があるはず!!死ぬ気で探さないと!!!

更に1.2時間歩き回ってみたものの出口らしきものはおろか、下の階層に降りることの出来そうな場所もなかった。

はぁぁぁぁ
と、意気消沈して少し盛り上がった地面(木の中だけど)に座り込んだ。
そこで空腹が限界に達したので、先程集めた手のひらサイズの甘い果実をポーチから取り出し皮をむいて食べる。

ん?少し遠目の場所からなにか物音が聞こえる。
丁度果実を食べ終わったところだったので、足音を立てないように近づいてみる。

そこには、宝箱があった。

迷宮ではよく宝箱というアイテムの入った箱が見つかることがある。中身はレアなアイテムだったり、逆にトラップだったり様々で宝箱を見つけてそれを開けるのも迷宮探索のひとつの醍醐味だ。むしろ宝箱の為だけに迷宮に入る冒険者もいるのだとか。
かなり稀だが、一生遊んで暮らせるほどの値段で売れるアイテムが出てくることもあるという。宝箱のおかげで大金持ちになった人の話はごくごくたまに聞く。


ガタッガタガタッ

宝箱が音の正体だったようだ。
宝箱がガタガタと揺れている、中に何かいるのだろうか。

トラップだった場合を想定して、すぐ逃げれるよう準備しながら宝箱に近づきそっと宝箱を開ける。
中には……

そこには毒々しい色をした蜘蛛がいた。
手のひら程の大きさの薄紫色の蜘蛛だ。絶対毒持ってそうな色。薄紫色の蜘蛛なんてあまり聞いたことないけど、亜種とかかな。まぁ、とにかく数が多い種類では無いな。
よく見ると脚が2本欠損して6本になっている。天敵にでもに襲われたのだろう。

右側に2本左側に4本着いている脚はとても非対称だ。
蜘蛛は弱っているようで動きが緩慢だ。箱を開けた私に前脚を上げて威嚇している。

なんだか可哀想だ。その非対称な姿が自分のようにも思えてくるし。
「ちょっと待っててね」

そこらじゅうに飛び回っているバッタをサッと捕まえて後ろ脚をもぎ取り、蜘蛛の顔の前に置いてみた。脚をもいだのは飛んで逃げらてしまうからだ。弱っている蜘蛛が確実に獲物を仕留められるように。

蜘蛛は弱っているとは思えぬ速さでバッタを前足で捕まえ、噛み付いた。
すると、ピクッピクッとバッタが痙攣し始める。毒を注入しているようだ。痙攣しているバッタを糸でぐるぐる巻きにし、消化液をかけ溶かし食べ始めた。
なかなかにいい食いっぷりだ。

お腹が減っていたのだろう。
平均的な大きさのバッタをあっという間に平らげてしまった。

でもまだ足りなそう。

私はもう1匹バッタを捕まえた。さっきのより少し大きめのバッタだ。またこのバッタは後脚を取らずにそのまま蜘蛛のいる箱の中に入れた。
蜘蛛は素早い動きで、バッタをつかまえさっきと同じ手順で食べ始めた。

これをまた3.4回繰り返すと蜘蛛はお腹がいっぱいになったのかバッタに見向きもしなくなった。
すると蜘蛛は宝箱の内側の壁を登ろうとしだした。脚が2本欠けている上、宝箱の中は滑りやすいようで全然登れていない。
宝箱の中に腕を差し入れ、蜘蛛の目の前に手を差し出してみる。
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