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第参の証言
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「はじめまして鈴原園子といいます」
そういって鈴原はショート目のやや明るい髪を揺らして会釈した。
「早かったわね」
森居が鈴原に言った。
「ちょうど、近くの購買部に用事があってね…それにしても本当にイケメンなんだ。てっきり蘭のことだから……」
「私だからなに?」
「いや、蘭の美意識って寛大な所があるからさぁ」
少しおどけた拍子で鈴原園子は肩を竦めた。
「どういう意味よ」
森居蘭は目を細くして友人の軽口を牽制した。
「……あの」
蚊帳の外に置いてかれた感の刑事は二人の会話に遠慮がちに割り込んだ。
「あ、すみません。事件の事ですよね?もちろんなんでも聞いてください!あの……あれです、善良な義務なんで」
鈴原園子は畏まってやや意味不明な言葉を発した。
「…それを言うなら善良な市民としての当然の義務。じゃないの?」
蘭がすかさず訂正する。
「それ!」
それ!じゃないわよと思いつつ呆れ顔で友人を見あげる蘭と愛想笑いを振り撒く園子。
「……では立ち話もなんですから。何か飲みませんか?奢りますよ」
刑事はそういって雨晒しになってた跡のあるラミネートコーティングされた簡単なメニュー表を二人の前に置くと会心の笑顔を作った。
二人は歓声をあげた。
「交友関係?ですか?」
なぜか飲み物と言っていたのに苺パフェを注文した鈴原園子は目の前の苺を最後に取っておくかどうか悩みながらそう返事をした。
「ええ。もちろん知ってる範囲で結構ですので」
刑事は笑顔を崩さずに返した。
「そう言われても先生のプライベートはほとんどわからないです」
「そうですか」
「でも女性関係は激しいらしいって聞いた事はあります」
「ほう……誰からでしょう?」
「ええと……誰だったかな…ごめんなさい、思い出せない」
「そうですか。もし思い出したら教えてもらえますか?」
「はい!もちろん!あの……連絡先とか教えて貰えませんか?」
「ちょっと園子!刑事さんは仕事なのよ!」
不躾な友人の言葉を森居はたしなめた。
「あ、いえ、じゃあLINEで良いですか?」
「え?LINE?もちろん良いですけど…刑事さんもやるんですね」
自分から言い出した鈴原も少しだけ引いているのが声色でわかる。
「あ、いえ。以前、捜査協力してもらった女子高生とのグループがあったのでつい…」
「じ、女子高生に捜査協力をしてもらってるんですか?!」
森居蘭が驚いて大声になった。
まわりにいる数人の大学生がまた足を止めてこちらを見た。
不味い……喋れば喋るほど窮地に立たされる気がする。
刑事はそう思ったがここで話を終わらせる訳にも行かずに要らぬ咳払いをひとつ。
ウォッホン
勿論そんなものでこの冷えきった空気は換わるわけもなかった。
迷った挙げ句に残っていたパフェの上の苺がポトリと受け皿の上に落ちた。
「あ、もちろん嫌なら止めときましょう。署の方に連絡をとって貰えれば引き継いでくれますから」
刑事は慌ててそう捕捉してややひきつった笑顔を造った。
「いえ、是非お願いします!」
園子は意を決する様にそういい放つと目の前の落ちた苺をフォークで指した。
「…女子高生か…」
そしてやにわに口の中へと放り込むとなにやらモゴモゴ言いながら苺を咀嚼《そしゃく》している。
「あまいわね」
おそらくそう言ったであろう抑揚のない声は凡そ苺に対しての感想とは思われなかった。
「あの……じゃあ私も良いですか?そのLINEグループ」
なんとなく刺のある空気を和らげ様とするように蘭が入る。
「え?ええ、もちろん。喜んで」
と刑事も笑顔で応える。
園子はチラリと鋭い視線を蘭に向けるものの直ぐに笑顔を造った。
「じゃあこれからはLINE仲間ですね」
「はは…まあ。そうですね」
そう言うと刑事は曖昧に笑った。
「あ、そういえば!」
突然の園子の大声に二人は固まった。
「何か思い出しましたか?」
刑事が出来るだけソフトな声になるように言ったのはその方が相手の思考を妨げないと言うことを経験的に知っていたからである。
「亡くなった女の人を知っているって今井くんが言っていたような…」
「今井くんてあの?」
「そう、モテモテ四天王の今井くん」
鈴原はまるで自分の事の様に反り返って応えた。
「モテモテ四天王?」
刑事は訝しげに鸚鵡(おうむ)返しした。
「モテモテ四天王っていうのがウチの大学に四人いるんですが今井君は中でも甘い系マスクの男の子です」
と森居が解説してくれた。
「それは本当ですか?」
「ええ、友達から聞いた話なんで又聞きになっちゃいますけど、確かだと思います。優子は嘘をつく様な子じゃないんで…」
「できれば合わせてもらいたいですね」
「はい、もちろんです…えーと」
「なんでしょう?」
「今井君にですか?それとも、優子に?」
「あ、そうですね…できれば両方に…」
「わかりました!任せてください」
やけに力の入っている鈴原園子を森居蘭が不安げに横目で見ながらアイスティーにささったままのストローを咥えた。
「是非、おねがいします」
体積の減ったコップの中の氷がバランスを崩してカランコロンと代わりに応えた。
そういって鈴原はショート目のやや明るい髪を揺らして会釈した。
「早かったわね」
森居が鈴原に言った。
「ちょうど、近くの購買部に用事があってね…それにしても本当にイケメンなんだ。てっきり蘭のことだから……」
「私だからなに?」
「いや、蘭の美意識って寛大な所があるからさぁ」
少しおどけた拍子で鈴原園子は肩を竦めた。
「どういう意味よ」
森居蘭は目を細くして友人の軽口を牽制した。
「……あの」
蚊帳の外に置いてかれた感の刑事は二人の会話に遠慮がちに割り込んだ。
「あ、すみません。事件の事ですよね?もちろんなんでも聞いてください!あの……あれです、善良な義務なんで」
鈴原園子は畏まってやや意味不明な言葉を発した。
「…それを言うなら善良な市民としての当然の義務。じゃないの?」
蘭がすかさず訂正する。
「それ!」
それ!じゃないわよと思いつつ呆れ顔で友人を見あげる蘭と愛想笑いを振り撒く園子。
「……では立ち話もなんですから。何か飲みませんか?奢りますよ」
刑事はそういって雨晒しになってた跡のあるラミネートコーティングされた簡単なメニュー表を二人の前に置くと会心の笑顔を作った。
二人は歓声をあげた。
「交友関係?ですか?」
なぜか飲み物と言っていたのに苺パフェを注文した鈴原園子は目の前の苺を最後に取っておくかどうか悩みながらそう返事をした。
「ええ。もちろん知ってる範囲で結構ですので」
刑事は笑顔を崩さずに返した。
「そう言われても先生のプライベートはほとんどわからないです」
「そうですか」
「でも女性関係は激しいらしいって聞いた事はあります」
「ほう……誰からでしょう?」
「ええと……誰だったかな…ごめんなさい、思い出せない」
「そうですか。もし思い出したら教えてもらえますか?」
「はい!もちろん!あの……連絡先とか教えて貰えませんか?」
「ちょっと園子!刑事さんは仕事なのよ!」
不躾な友人の言葉を森居はたしなめた。
「あ、いえ、じゃあLINEで良いですか?」
「え?LINE?もちろん良いですけど…刑事さんもやるんですね」
自分から言い出した鈴原も少しだけ引いているのが声色でわかる。
「あ、いえ。以前、捜査協力してもらった女子高生とのグループがあったのでつい…」
「じ、女子高生に捜査協力をしてもらってるんですか?!」
森居蘭が驚いて大声になった。
まわりにいる数人の大学生がまた足を止めてこちらを見た。
不味い……喋れば喋るほど窮地に立たされる気がする。
刑事はそう思ったがここで話を終わらせる訳にも行かずに要らぬ咳払いをひとつ。
ウォッホン
勿論そんなものでこの冷えきった空気は換わるわけもなかった。
迷った挙げ句に残っていたパフェの上の苺がポトリと受け皿の上に落ちた。
「あ、もちろん嫌なら止めときましょう。署の方に連絡をとって貰えれば引き継いでくれますから」
刑事は慌ててそう捕捉してややひきつった笑顔を造った。
「いえ、是非お願いします!」
園子は意を決する様にそういい放つと目の前の落ちた苺をフォークで指した。
「…女子高生か…」
そしてやにわに口の中へと放り込むとなにやらモゴモゴ言いながら苺を咀嚼《そしゃく》している。
「あまいわね」
おそらくそう言ったであろう抑揚のない声は凡そ苺に対しての感想とは思われなかった。
「あの……じゃあ私も良いですか?そのLINEグループ」
なんとなく刺のある空気を和らげ様とするように蘭が入る。
「え?ええ、もちろん。喜んで」
と刑事も笑顔で応える。
園子はチラリと鋭い視線を蘭に向けるものの直ぐに笑顔を造った。
「じゃあこれからはLINE仲間ですね」
「はは…まあ。そうですね」
そう言うと刑事は曖昧に笑った。
「あ、そういえば!」
突然の園子の大声に二人は固まった。
「何か思い出しましたか?」
刑事が出来るだけソフトな声になるように言ったのはその方が相手の思考を妨げないと言うことを経験的に知っていたからである。
「亡くなった女の人を知っているって今井くんが言っていたような…」
「今井くんてあの?」
「そう、モテモテ四天王の今井くん」
鈴原はまるで自分の事の様に反り返って応えた。
「モテモテ四天王?」
刑事は訝しげに鸚鵡(おうむ)返しした。
「モテモテ四天王っていうのがウチの大学に四人いるんですが今井君は中でも甘い系マスクの男の子です」
と森居が解説してくれた。
「それは本当ですか?」
「ええ、友達から聞いた話なんで又聞きになっちゃいますけど、確かだと思います。優子は嘘をつく様な子じゃないんで…」
「できれば合わせてもらいたいですね」
「はい、もちろんです…えーと」
「なんでしょう?」
「今井君にですか?それとも、優子に?」
「あ、そうですね…できれば両方に…」
「わかりました!任せてください」
やけに力の入っている鈴原園子を森居蘭が不安げに横目で見ながらアイスティーにささったままのストローを咥えた。
「是非、おねがいします」
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