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マリアの正義
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阿部真理亜は如月如鏡を睨みつけながら訥々《とつとつ》と語り始めた。
「裁かれるべき人は居るのよ。でも裁かれない、いつも悪は速く善は遅い、たとえ遅れてやって来ても正当な裁きであれば、納得もできる。でも正当な裁きなんてこの国では望むべくもない。だから.......誰かがやらなくちゃならないの.......あなたがやってくれるの?如月のお嬢さん」
そう言って真理亜はまっすぐに如鏡の顔を見た。
真理亜の眼には溢れるような正義が宿っていた。
如鏡は答えた。
「私にはそんな力はない。でも.......貴方のした事も正義じゃあないわね」
「どうして?国の法律でも死刑があるでしょ?誰かの為に誰かを殺すことを国は正しい事だと法律で決めてるじゃない。国がやると正しくて、人がやると悪になるの?それは理屈に合わないわ」
横で聞いていた詩歌はちょっと感心してしまった。
確かに言われてみればそのとおりの様な気がした。
法律で悪を裁く死刑はある意味、人のために人を殺すことを正しいと国が認めてる事になりかねない。
詩歌は心の中で真理亜の言い分に反論する事が出来ないでいた。
「確かに一理あるけど、基本的な勘違いがあるように思えるわ」
「勘違い?どこに?」
「死刑は被害者の為に加害者を罰してる訳ではないのよ」
「何それ?じゃあ被害者遺族の為って言うの?」
「それも少し違うわ」
「じゃあ誰の為だって言うのよ!」
「全く関係ないその他大勢の人の為よ」
「は?何それ?そんなわけないじゃない!」
「それが、そんなわけあるの。これだけ犯罪者の人権の重んじられている国でなぜ死刑だけなくならないのか?それは、他に人が人を簡単に殺さない社会にする為の有効な手段がないからなの」
「.......なにそれ。それでも人の為に人を殺してる事に変わりないじゃない!」
「変わるわ。1人のための殺人と社会の為の殺人では守られる人の数が違う」
「なにそれ?ただの数の違いだっていうの?」
「そうよ」
「個人は数が少ないから正義じゃないけど、社会は数が多いから正義だってわけ?」
「ちがうわ、そもそも刑罰は正義の為じゃないって言ってるの」
「はぁ?じゃあ何の為だって言うの?」
「社会が混乱しない様に正義の様なものが執行される事を宣揚して犯罪を抑制する為」
「なにそれ!正義の様なもの?嘘っぱちじゃない!」
「その嘘のお陰で沢山の人が幸せに暮らせてるわ」
「なによそれ.......納得できないわ。私の方が正しいのに.......」
「正しいかどうかは法律とは関係ないのよ」
真理亜は如鏡の瞳の奥に揺らめくなにものかに気圧《けお》されて押し黙った。
しばらく得体の知れない少女を忌避《きひ》する様な視線で睨みつけていた真理亜だったが、どんなに強い視線をぶつけても眉ひとつ動かさない様子に痺れを切らしてようやく口を開いた。
「悪は.......裁かれるべきよ」
「私もそう思うわ」
「.......さっきからなにが言いたいの?言えばいいじゃない」
真理亜は挑むように如鏡を見た。
如鏡《しきょう》は穏やかといえる口調で真理亜に応えた。
「つい先日、近くのコンビニのトイレで男が自殺した。あるいわそのように見えた事件があったの」
「それで?」
「その時の密室になっていたトイレの鍵に外側から鍵を掛けたらしい指の跡が残ってるの.......若い女性の。なぜそんなものが残ってるのか、あなたに聞きたいの」
真理亜はため息を1つつくと諦めた様に言った。
「なぜ残ってるか?それは鍵が閉まった状態では拭き取れない事に後から気がついたからよ。私も馬鹿ね」
池照は身を乗り出して言った。
「真理亜さん、それは自供と捉えていいんですか?」
横の岩井も険しい顔で真理亜を見ていたが、動こうとはしなかった。
「もちろんいいわよ」
真理亜は吹っ切れた様にいい放った。
「裁かれるべき男を裁いた、ただそれだけよ」
「裁かれるべき男ですか、具体的にその男というのは?」
「あのコンビニのトイレにいた男よ。名前は知らないわ」
「なぜ殺そうと思ったんですか?」
「それは.......あの子にひどい事をしてたからよ」
「あの子というのは山野美羽さんですね?」
「名前は知らないけど、トイレに引っ張られていた女の子」
「ひどい事をされてたのはなぜわかったんですか?」
「それは、個室に女の子を引っ張り入れるって異常だと思って聞き耳を立てたのよ」
「会話が聞こえたとか?」
「そう、中の言い争ってる会話が聴こえて.......虐待がわかってカッなって」
「カッとなって、どうしました?」
「乗り込んだら男がぐったりしてたので、その子に後は任せる様に言ったわ」
「その子はどうしました?」
「素直に出ていったわ」
「その後は?」
「男を首を吊ったように見せて、トイレを密室にして出ていった」
池照は殺害動機が一過性の同情という通常ではありえないものであることに驚いた。
接点のない殺人はありえないという常識が覆《くつがえ》った気がした。
「なるほど、整合性は一応取れてますね.......わかりました。では後は署の方で聴取するという事で.......良いですね?」
「いいわ」
「よくないわ」
暫く黙っていた如鏡が口を挟んだ。
「まだなにか言いたりないの?」
真理亜が呆れた様に言った。
「裁かれるべき人は居るのよ。でも裁かれない、いつも悪は速く善は遅い、たとえ遅れてやって来ても正当な裁きであれば、納得もできる。でも正当な裁きなんてこの国では望むべくもない。だから.......誰かがやらなくちゃならないの.......あなたがやってくれるの?如月のお嬢さん」
そう言って真理亜はまっすぐに如鏡の顔を見た。
真理亜の眼には溢れるような正義が宿っていた。
如鏡は答えた。
「私にはそんな力はない。でも.......貴方のした事も正義じゃあないわね」
「どうして?国の法律でも死刑があるでしょ?誰かの為に誰かを殺すことを国は正しい事だと法律で決めてるじゃない。国がやると正しくて、人がやると悪になるの?それは理屈に合わないわ」
横で聞いていた詩歌はちょっと感心してしまった。
確かに言われてみればそのとおりの様な気がした。
法律で悪を裁く死刑はある意味、人のために人を殺すことを正しいと国が認めてる事になりかねない。
詩歌は心の中で真理亜の言い分に反論する事が出来ないでいた。
「確かに一理あるけど、基本的な勘違いがあるように思えるわ」
「勘違い?どこに?」
「死刑は被害者の為に加害者を罰してる訳ではないのよ」
「何それ?じゃあ被害者遺族の為って言うの?」
「それも少し違うわ」
「じゃあ誰の為だって言うのよ!」
「全く関係ないその他大勢の人の為よ」
「は?何それ?そんなわけないじゃない!」
「それが、そんなわけあるの。これだけ犯罪者の人権の重んじられている国でなぜ死刑だけなくならないのか?それは、他に人が人を簡単に殺さない社会にする為の有効な手段がないからなの」
「.......なにそれ。それでも人の為に人を殺してる事に変わりないじゃない!」
「変わるわ。1人のための殺人と社会の為の殺人では守られる人の数が違う」
「なにそれ?ただの数の違いだっていうの?」
「そうよ」
「個人は数が少ないから正義じゃないけど、社会は数が多いから正義だってわけ?」
「ちがうわ、そもそも刑罰は正義の為じゃないって言ってるの」
「はぁ?じゃあ何の為だって言うの?」
「社会が混乱しない様に正義の様なものが執行される事を宣揚して犯罪を抑制する為」
「なにそれ!正義の様なもの?嘘っぱちじゃない!」
「その嘘のお陰で沢山の人が幸せに暮らせてるわ」
「なによそれ.......納得できないわ。私の方が正しいのに.......」
「正しいかどうかは法律とは関係ないのよ」
真理亜は如鏡の瞳の奥に揺らめくなにものかに気圧《けお》されて押し黙った。
しばらく得体の知れない少女を忌避《きひ》する様な視線で睨みつけていた真理亜だったが、どんなに強い視線をぶつけても眉ひとつ動かさない様子に痺れを切らしてようやく口を開いた。
「悪は.......裁かれるべきよ」
「私もそう思うわ」
「.......さっきからなにが言いたいの?言えばいいじゃない」
真理亜は挑むように如鏡を見た。
如鏡《しきょう》は穏やかといえる口調で真理亜に応えた。
「つい先日、近くのコンビニのトイレで男が自殺した。あるいわそのように見えた事件があったの」
「それで?」
「その時の密室になっていたトイレの鍵に外側から鍵を掛けたらしい指の跡が残ってるの.......若い女性の。なぜそんなものが残ってるのか、あなたに聞きたいの」
真理亜はため息を1つつくと諦めた様に言った。
「なぜ残ってるか?それは鍵が閉まった状態では拭き取れない事に後から気がついたからよ。私も馬鹿ね」
池照は身を乗り出して言った。
「真理亜さん、それは自供と捉えていいんですか?」
横の岩井も険しい顔で真理亜を見ていたが、動こうとはしなかった。
「もちろんいいわよ」
真理亜は吹っ切れた様にいい放った。
「裁かれるべき男を裁いた、ただそれだけよ」
「裁かれるべき男ですか、具体的にその男というのは?」
「あのコンビニのトイレにいた男よ。名前は知らないわ」
「なぜ殺そうと思ったんですか?」
「それは.......あの子にひどい事をしてたからよ」
「あの子というのは山野美羽さんですね?」
「名前は知らないけど、トイレに引っ張られていた女の子」
「ひどい事をされてたのはなぜわかったんですか?」
「それは、個室に女の子を引っ張り入れるって異常だと思って聞き耳を立てたのよ」
「会話が聞こえたとか?」
「そう、中の言い争ってる会話が聴こえて.......虐待がわかってカッなって」
「カッとなって、どうしました?」
「乗り込んだら男がぐったりしてたので、その子に後は任せる様に言ったわ」
「その子はどうしました?」
「素直に出ていったわ」
「その後は?」
「男を首を吊ったように見せて、トイレを密室にして出ていった」
池照は殺害動機が一過性の同情という通常ではありえないものであることに驚いた。
接点のない殺人はありえないという常識が覆《くつがえ》った気がした。
「なるほど、整合性は一応取れてますね.......わかりました。では後は署の方で聴取するという事で.......良いですね?」
「いいわ」
「よくないわ」
暫く黙っていた如鏡が口を挟んだ。
「まだなにか言いたりないの?」
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